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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ニコルテ村編
201/548

第二百一夜 おっちゃんと破綻した村

 女性を宥めて建物の中に入った。建物のリビングは机と椅子があるだけの粗末な部屋だった。

 おっちゃんは女性を落ち着かせて事情を尋ねる。

「まず、確認やけどあんたがアイヌルはんで間違いないか?」


 女性がハンカチで涙を拭きながら頷いた。

「村人がおらんようやけど、なんぞ事件でもあったんか。あったら聞かせて欲しい。力になる」


 アイヌルは疲労感が漂う顔で答える。

「村の開発が上手くいかず、村の人間がみんな逃げ出しました。一緒に入植したアンデッドは残ったのですが、まったく言うことを聞いてくれず村は崩壊しました」


(なんや、もう、かなりまずい所まで来とるやん。これは骨が折れるで)

「崩壊の原因は、なんや? なんぞ、凶暴なモンスターでも出るんか。それなら退治したる」


 アイヌルが悲しみの篭った顔で告げる。

「違います。崩壊の原因はこの土地が事前の情報と違って、生産性が劣るためです。事前の調査の結果では農業が辛うじて可能との話でしたが、実際は農業が不可能に近い土地なんです」


 おっちゃんは呆れた。

「なんや? 砂漠の真ん中で、農業をしようとしたんか?」


 アイヌル涙ぐんでが頷く。

「事前調査では乾燥に強い種の小麦であれば育つ、との話でした。ですが、タネを蒔くとほぼ全ての種が枯れました。また、井戸の水の出が悪く、農業をする前に飲み水にも困る有様でした」


 段々と話が見えてきた。

「そうか。それで、将来を悲観して村人が出て行ったのか」


 アイヌルが全く持って絶望的な表情で語る。

「私に相談なく集団で逃走されました。また、逃走時に開拓に必要な資材と家畜のほとんどを持って村人が逃げたので、村に財産らしい財産は残っておりません」


「残ったアンデッドの住人はどうしたん?」


 アイヌルが力なく語った。

「私には愛想が尽きたのか地面に穴を掘って、横たわったきりです。本当に死んでしまったかのようです」

(アンデッドが残ってくれたのなら、希望はあるな)


「そうか。村の人間がみんな逃げたと言ったが、アンデッドは逃げ出してないんやな。なら、逃げた村人は半分や。まだ、半分も残っていたら、村はやりようがあるで」


 アイヌルが潤んだ瞳で訴える。

「でも、アンデッドたちは農業をしてくれないんです」


「成果が出ないとわかりきっているからやろう。生きている者も死んでいる者も、成果が出ない仕事には後ろ向きになる。おっちゃんかて、無駄だとわかる事業は、やりたくないよ」


 アイヌルが弱った顔で尋ねる。

「でも、農業をなくして、どうやって村を興すんですか」


「やりようは、ある。おっちゃんは、この村の東にある石切り場の権利を押さえてきた。これで、石材を使える」


 アイヌルが諦めきった顔をで、しょんぼりと口にする。

「アンデッドたちに石工なんて高度な職業は無理ですよ」


「それは思い込みや。生前の記憶は意外としぶとい。アンデッド化する前になにかしらの手に職を持っていた人間は多い。死んでも体が覚えているもんや。大勢アンデッドがいるなら、石工がいるかもしれんで」


 アイヌルが沈んだ顔で質問する。

「石切り場を作るとして、道具はどうするんですか」


「村人が財産を持って逃げた、いうたけど、アイヌルはんに気付かれんよう逃げるにはがさばる資材や持って行かなかったやろう。それを売って石工の道具を買えばええ」


 アイヌルが半信半疑な顔で訊く。

「上手く、いくでしょうか?」


「そんなもの、やってみないとわからん。まず、残ってくれた村人に、おっちゃんを紹介して」


 アイヌルに連れられて外に出る。村の外に、地面に(むしろ)が掛けてあるだけの場所があった。筵の数は百近くにあった。

(敗戦時の戦死者置き場のようになっとる。もう、荒れ放題や)


 アイヌルが『死者との会話』の魔法を唱えてから声を出す。

「皆さん、村に新しい相談役が赴任しました。これから皆さんに挨拶をします」


 アイヌルの言葉に筵が動く。筵をよけて木乃伊たちが起き上がる。


 おっちゃんも『死者との会話』の魔法を唱える。

「わいは、おっちゃんいう、冒険者あがりの相談役です。なにかとお世話になることもあるかと思いますが、よろしゅうお頼み申します」


 拍手はない。ただ、木乃伊たちは顔を見合わせるだけだった。


 おっちゃんは気にせず話を続ける。

「そんで、村ですが、村の東にある岩場を石切り場として使う権利を得ました。この中で石工の経験がある方は、おられますか」


 誰も手を挙げる木乃伊はいなかった。

「全員が未経験でっか。ほな、皆で考えながらやりましょうか。まず、何が必要やろう」


 木乃伊の八人が手を挙げる。手近な木乃伊を指名する。

「ノミ、ハンマー、楔、砥石」と答が来る。


「なるほど、それは必要でんな。そんで、そのノミ、ハンマー、楔、砥石の種類がわかる人は、挙手をお願いします」


 手を挙げる木乃伊は三人になった。おっちゃんは木乃伊に指示を出す。

「よっしゃ。その三人は前に来て、お名前を教えて」


 木乃伊はイスマイル、ユスフ、ヤシャルと名乗った。

「三人を先頭に後の者は従いて来て。まず、現場の確認や」


 木乃伊たちをぞろぞろ連れて岩場を確認にしに行く。村の東にある岩場は大きな赤い岩がごろごろ転がるだけの殺風景な場所だった。


 おっちゃんは連れてきた三人の木乃伊に尋ねる。

「ここ、石切り場として使えそうか」


 年長の木乃伊のイスマイルが岩肌を見ながら答える。

「石の質は問題ないが、まず足場の整理から始めないとダメだな。あと、石を切り出すにしても、どんな形状の石をどれくらいの大きさで切り出すかを決めないと」


「そうか、なら、イスマイルはんこの場を仕切って。足場の整理を任せてええか」


 イスマイルが頷いたので、他の木乃伊に指示を出す。

「ほな、他の者は、イスマイルはんの指示で足場を整理して。アイヌルはん、おっちゃんは、ユスフとヤシャルを連れて道具を買ってくるわ」


 アイヌルの顔に驚きの色が浮かぶ。

「今から行くんですか? バサラカンドは遠いですよ」


「おっちゃんは『瞬間移動』が使えるから、今日中にバサラカンドに行って戻ってこられるよ」

 普段は魔法の腕前を隠すおっちゃんだが、今回ばかりは常に全力が求められるので、隠すのをやめた。それに、この村に移住する事態になれば実力を隠す必要もないと感じていた。


 万事うまく、いけば『シェイプ・シフター』である事実も打ち明けるつもりだった。


 アイヌルのおっちゃんを見る目が変わった。アイヌルの顔に希望の光が差した。

「『瞬間移動』を使えるほどの人材を相談役に廻してくれるなんて、この村は見捨てられたわけじゃなかったんですね」


「そうやで、アイヌルはん。この村は、期待されているんや」

 おっちゃんは、ユスフとヤシャルを連れて、バサラカンドに飛んだ。


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