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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ニコルテ村編
200/548

第二百夜 おっちゃんと石切り場の権利

 ニコルテ村に赴任する前に、蠍人の商人のいるグラニのサドン村に向った。

 以前と違い、バサラカンドからサドン村までは道が整備されていた。村の付近に護衛に立つ蠍人がいるが、武器を向けては来なかった。


(なんや、ずいぶんと人に慣れたようやな)


 村の外に小さな市場ができていた。市場に着くとすぐに蠍人の商人が寄ってくる。

「お兄さん、売り物はエールかい」

「これ、売り物と違いますねん。長老はんへのお土産やねん。ところで、グラニはんいますか?」


 蠍人は丁寧な態度で礼をする。

「市場長のお客さんですか。今、市場長を呼んできます」


 数分で、立派な顎鬚を生やした蠍人のグラニがやってきた。普通の蠍人より一回り体が大きい。

「グラニはん、お久しぶりです。元気にしとった? おっちゃんです。この度、隣のニコルテ村に相談役として赴任することになったんで、先に挨拶に来た」


 グラニは顔を綻ばせて、おっちゃんを歓迎した。

「そうか。隣の村に住むのか、よろしくな」

「グラニはん、市場長になったんやて出世したやん」


 グラニがまんざらでもない顔で謙遜(けんそん)する。

「市場長といっても、大した役職ではない。村人と人間との交易を仲介するだけさ」


「いやあ、それでも立派なもんや。それで、赴任前に長老さんにもご挨拶してエール樽を渡したいんやけど、村に入れる?」


 グラニの表情が少し曇る。

「挨拶に来た態度は立派だが、長老は体調を崩していてな。お会いすることができないんだ。俺からきちんと、土産の品を持って挨拶に来たと伝えておく」


「そうか、お願いするわ。それとな確認したい内容があるんやけど、ニコルテ村の隣にある石切り場、あれ、ニコルテ村の物と考えてええか?」


「契約書を読まないとわからんな。どれ、ちょっと待っていろ。確認してくる」

グラニが村の中に行き、十分ほどで書類を持って戻ってきた。グラニとおっちゃんは書類を確認する。


 村の売買契約書を見ると、村の東側にある石切り場についての記述は見当たらなかった。


「これ、あかんわ。問題になりそうやね、グラニはん。おっちゃんは、ユーミットはんから岩場の独占使用権を認めてもらった。けど、蠍人側からも岩場は人間側に売ったいう証拠が欲しい。どうしたらええ」


 グラニが顎鬚を撫でながら、目を細めて意見する。

「売買に立ち会った人物は長老だから、長老に聞くしかないな。よし、俺が長老に掛け合って証拠の書類を作ってやろう」


「助かるわ。それとな、おっちゃんはニコルテ村で石材業を興そうと考えとるんよ。道の権利ってどうなっておるん?」


 グラニが自慢げな顔で発言する。

「ここからバサラカンドまでの道は人間との交易で儲けた金で作ったものだ。資金は全部サドン村が出している」


「そうか。なら権利は、サドン村にあるの。石材を運ぶと道が傷むやろう。なんで、道の使用料を払うわ。いくらぐらいなるか、計算しておいてくれるか?」 


 グラニは機嫌もよく請け負った。

「最初から道の使用料を払うと申し出てくれるなら問題ないだろう。できるだけ、ニコルテ村の負担にならないように計算しよう」

「よろしゅう、頼みますわ」


 グラニが渋い顔をする。

「ニコルテ村の村長もおっちゃんぐらい気が回って欲しいものだな」


「どうか、しましたん? なんぞ、問題でもありましたか。あるなら、言うて。どんな些細な問題でも、ニコルテ村に関する情報は欲しい」


 グラニが渋い顔のまま苦言を呈する。

「今のところは、ない。だが、ニコルテ村の村長は隣に来たのに、挨拶の一つもなしだ。それに、サドン村からバサラカンドへ続く道はサドン村のものなのに、挨拶なしで普通に使う」


「それはまずいね。ええですわ。おっちゃんが赴任した時に、きつく注意しときますわ」


 グラニの表情が和らぐ。

「そう言ってもらえると、助かる。お互い隣村同士でいざこざは避けたいからな。付き合うなら、気持ちよく付き合いたい」


 その後、グラニの家に行き世間話をする。互いに無事を確認しつつ、話に花を咲かせる。

グラニの仕事に支障がない時間で話を切り上げると、おっちゃんはエール樽を一つ置いて、サドン村を出た。


 ロバを引いて二時間ほど進む。

「そろそろ、村が見えて来るはずなんやけど、それらしい場所が見えてこんな」


 井戸を持つ石造りの小さな二階建ての一軒屋が見えてきた。

「ちょうどええ。あそこで、道を聞いてみよう」


 おっちゃんは一軒屋の前で立ち止まって、ドアをノックする。

「すんまへん、ちょいと道を教えてください。ニコルテ村まで行きたいんですけど、どう行ったらいいか、教えてくれますか」


 ドアが開く。中からぼさぼさの黒髪をして、褐色の肌をした二十代後半の女性が出てきた。女性は化粧らしい化粧を全くしておらず、顔には疲労の色がありありと出ていた。


 肌の艶もよくなく、かさかさだった。服装はよれよれの厚手の茶のシャツに茶のズボンを穿()いていた。靴は革靴を履いていたが、いたく汚れていた。


(うわ、なんか、災害にでも遭われたような格好やな。なんぞ、ここら辺で、よくない事件でも起きたんやろうか)


 女性が隈の浮かんだ目でおっちゃんを見る。女性が力なく、それでいて呪詛(じゅそ)でも篭っているかのような声を出す。

「ここが、ニコルテ村ですかなにか」


(村っていっても、井戸一つに家が一軒しかないやん。しかも、住民の姿がまるで見えんって、どういう事態や)


「わいは、おっちゃんいう冒険者です。このたびニコルテ村の相談役に任命されました。ユーミットはんから、アイヌルさんを助けに行ってくれって頼まれました。ここが、ニコルテ村ならアイヌルはんは、どこでっか」


 目の前の女性の顔が歪み「わーん」と声を上げて泣き崩れる。

「ちょっと、え、なに? どういうこと? なにがあったん?」


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