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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
サバルカンド編
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第二十夜 おっちゃんとダンジョン防衛策

「あかん、ここにもおらへん」


 ダンジョン・マスターを探して五日が経過していた。おっちゃんは地面にへたり込んだ。

 腰に下げたベルト・ポーチから、魔力回復用の飴を取り出した。


 体に悪い飴なのであまり、使いたくはなかった。だが、使わないと、魔力が回復しない。

 おっちゃんは『瞬間移動』を使えるが、一日二回が限度だった。それ以上は、魔力が()たない。


 飴を舐めると『瞬間移動』が一回使える分だけ魔力が回復した。魔力回復の飴は一日に三個までと決めて使っていた。おっちゃんは本日で三個目の飴を舐める。


「全部、空振りや。人探しに無駄足は付き物。でも、今回は応えるな。サバルカンドに戻ろうか」

 回復した魔力で『瞬間移動』を唱える。


 地下十階のボス部屋に、おっちゃんは戻ってきた。

「ザサンはん、おられますか。おっちゃんです、ただいま戻りました」


 部屋に突風が吹き込み、ザサンが姿を現した。

「戻ったか、おっちゃん。それで、ダンジョン・マスターには、会えたか?」


 おっちゃんは力なく首を振った。

「行く先々で聞きましたが、全部、ここには来ていないと」


 ザサンが表情を曇らせて、顎髭を触る。

「そうか、心当たりは全て行ったが、ダメか」


「ダンジョンの暴走のほうは、どうなっていますか」


 ザサンから緊迫した態度は感じない。だが、ザサンは呑気な一面がある。

「モンスターの異常生成は止まった。だが、二日前からモンスターが全く生成されない状態になった」


 人間側にとって良い内容だが、ダンジョン側にとっては大きな危機だった。


 おっちゃんは思わず、早口になった。

「それ、まずいですやん。冒険者がダンジョンにやって来たとしますよ。モンスターがいなければ、すぐにダンジョン中枢まで来ますやろう。冒険者は勝手がわからない素人です。ダンジョン中枢を弄って、壊しでもしたら、ダンジョン崩壊するんと違いますか」


 ザサンは、おっちゃんの指摘を平然とした顔で応じる。

「可能性は大いにあるね」


 おっちゃんは心の中で怒った。

(なんで、この人は他人事のように言うん? あんたが、現在の最高責任者やろう。もっと責任を感じてなあかんて。ダンジョンも街も終わってしまうやろう)


 怒りと態度は分ける。おっちゃんは怒りを抑えつつザサンに意見した。

「そんな悠長な態度で、いいんですか」


 ザサンがおっちゃんの言葉を半ば無視するように、簡単に頼んだ。

「良くはない。我々には時間が必要だ。そこで、おっちゃんは、隣のダンジョンから強い悪魔型、精霊型、巨人型、ドラゴン型のモンスターを借りに行ってくれ」


 ダンジョン間での取引は存在する。魔力の融通や、マジック・アイテムの貸借がそうだ。「モンスターを貸してくれ」と頼んだりもする。


 だが、モンスターの貸し借りを嫌がるダンジョン・マスターは多い。特に強いモンスターほど貸したがらない。数が多くても断られる。今回のように、質も数も、となると、確実に拒否される。


 おっちゃんは、成功しない仕事には後ろ向きだった。

「頼みに行くのはいいですよ。でも、普通なら難しい頼み事ですやん。なんぞ、隣のダンジョンに大きな貸しとか、あるんですか」


 ザサンは真顔で、きっぱりと断言した。

「ない。頼りは、おっちゃんの交渉力だけだ」


 頼られる態度は嫌いではないが、物には限度がある。

(難しい仕事は丸投げする態度は止めて欲しいわ。これ、おっちゃんがもっと実効性のある絵を描かんとダメやな)


 強い口調で進言する。

「そんな、行き当たりばったりな策には、賛成しかねます」


 ザサンの眉がピクリと上がったので、言葉を続ける。


「実は、おっちゃんに、冒険者の動きを封じる腹案がありますねん」


 ザサンが興味のありそうな顔をした。

「なんだ、聞かせてもらおうか」


「街に潜入して、冒険者に復旧作業をするように仕向けます」


「なるほど。だが、それだけでは不安だな」


「さらに、街で不安を煽る情報を流します」


 ザサンは懐疑的な顔で、疑問を口にした。

「不安を拡げただけで、冒険者はダンジョンに入らなくなるか?」


 ザサンの疑問は、もっともだった。おっちゃんとて、何も考えていない訳ではない。

「不安を煽る対象は、冒険者じゃありません。お城の人間です。偉い人間は、不安になれば、身を守ろうとするはずです。でも、お城の衛兵の数に限りがあります。そこで、冒険者を配備するように促し、冒険者の動きを封じます」


 ザサンが難しい顔で否定的な言い方をする。

「モンスターは街に出ないのだぞ。すぐに、配備を解かれて、冒険者がダンジョンにやって来るだろう」


「そこで、作戦その弐です。街にはグールを呼び出す首飾りがあります。この首飾りを、お城に隠します。お城にグールが湧くとわかれば、不安は、すぐには収まりません。これで時間を稼げます」


 ザサンが顎に手をやり、笑う。

「なるほどな。モンスターを借りずとも、時間を稼げるかもしれん。よし、おっちゃんは人間側の街に間者として潜伏して、不安を広めるのだ。その間に、ダンジョンを正常化させられるように努力しよう」


(なんや、立場がごちゃごちゃになってきたな。まあ、ダンジョンの崩壊を止めれば、人間にもモンスターにも利益になるんやけど)


「ほな、行ってきます。それと、なんでもいいんで、金の首飾りとか余っていませんか? 呪われた首飾りを盗むときに、ダミーとして現場に残しておきたいんですけど」


 ザサンが指を鳴らす。空中からそれらしい、ただの黄金の首飾りを取り出した。

「そら、持っていけ」


「ありがとうございます」


 ただの金の首飾りを受け取って、トロルの姿で外に出た。五日前と比べると、モンスターの数は減ったが、まだ、モンスターが町中を徘徊していた。


 おっちゃんは服を回収して着替え、冒険者ギルドに戻った。


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