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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ニコルテ村編
199/548

第百九十九夜 おっちゃんと相談役

 翌日、お城からユーミットからの遣いが来たので登城した。通された広間には数々の煌びやかな調度品が並び、中央には大きな机と豪華なイスがあった。


 イスには凛々しい青年が座っていた。

 青年の髪は黒く、肌は褐色の肌をしていた。白のガンドーラを着て茶の肩掛けをしていた。頭には白のクーフィーヤ帽子を被り黒い紐上のガカールを身に着けていた。


(お、ユーミットはん、感じが変わったな。弱々しい空気がなくなった。なんか、こう、領主さんらしく少し貫禄が出てきたね)


 ユーミットはおっちゃんを見ると笑顔で迎える。

「よく、戻ってきてくれました」

「ユーミットはん、がんばっているようやね。えらい評判もいいらしいね」


 ユーミットが悲しい顔をした。

「それは、バサラカンドに限ってだけですよ。実は今日、おっちゃんに来てもらった理由は仕事をお願いしたいのです。おっちゃんには村の経営のサポートをお願いしたいんです」


「自治体の経営相談って冒険者の仕事やなく、官吏の仕事のような気がするけど、なんかあったん?」


 ユーミットが表情を曇らせる。

「バサラカンドは異種族との共存を掲げています。ですが、共存が難しい種族がいます。アンデッドです。アンデッドと人間が共存する村の経営がうまく行っていません。ここに相談役として、赴任していただけないでしょうか」


「相談役って役職やから、村長はおるんやろう。村長はアンデッドなん?」

「村長は人間の女性官吏で名をアイヌルといいます。『死者との会話』の魔法を使える有能な若手だと推薦されたので、任命したのです。でも、報告を聞くとまるで上手くいっていません」


「そうか。村の立ち上げだけでも難しいのに、異種族まで絡むから、やりかたがいまいちわからんのやろう。よし、おっちゃんが手を貸してやろう。そんで、ええ村ができたら、おっちゃんも家を建てて住もう」


 ユーミットが驚いた。

「そこまでの決意で行っていただけるのですか」


「自分が住みたいと思うような村やないと、人には勧められんやろう。村長のアイヌルはんを助けて、ええ村にするわ。場所を教えて」


 村の名前はニコルテ村といい、バサラカンドから半日ほど行った場所だった。

(なんや、グラニはんが住む村と近いな。なんぞ、情報があるかもしれん。赴任前に挨拶しておくか)


 おっちゃんはグラニの村に行く前に、地図屋のヒュセインに会いに行く。

 白い服を着てターバンを被った年老いた地図商人のヒュセインが出てきた。


「こんにちは、ヒュセインはん。元気にしとった?」

 ヒュセインが笑顔で応じる。

「おや、いつぞやの冒険者さんか。元気にしとったよ。商売も前より順調だよ。客が増えて、嬉しい限りさ」


「そうか。それは、よかったの。そんで、今日はニコルテ村周辺の地図を売って欲しいんよ。ある?」


 ヒュセインが愛想よく応じる。

「変わった場所の地図を買うね。あまり出ない場所の地図だから、少々値が張るけど、あるよ。銀貨八枚だよ」


「とっとき」と、おっちゃんは銀貨二枚を余分に払う。

「ニコルテ村がある場所って、どんなところ」


 ヒュセインがニコニコ顔で、すらすら話す。

「ニコルテ村は元々、人間の住む村じゃなかった。昔は蠍人の住む村だったんだ。ただ、なにかの理由で蠍人が放棄したのを、ユーミット閣下が最近になって、交渉で買い上げた土地さ」


(以前に話があった、冒険者に井戸を壊されて住めなくなった村を買い上げたんかな。補償の意味合いが大きい取引やね。それなら近くの蠍人の村との関係はまあまあのはず。蠍人が住んどったのなら、人が住めない環境でもやないやろう)


「そうか。特産品とか村の目玉になりそうなものはありそうか」


 ヒュセインは残念そうに首を振る。

「ないね。まず、水が少ないから、農業に不向きだ。没薬や眠り草も、あの辺りには自生しない。危険なモンスターは出ないらしいが、人が住むには不向きな土地だよ」


 おっちゃんは買った地図を見て気が付いた。

「村のすぐ東が、岩場になってるやん。ここにちょっと手を入れたら石切り場にできるやろう」


 ヒュセインが「どれどれ」と地図を覗き込む。

「石材の知識はないから詳しい話を語れないけど、微妙だね。バサラカンドでは今、建設資材が不足しているから石材の需要はある。でも、ニコルテ村から石を切り出しても、ここまで遠いから運ぶのが大変さ」


(そうか。切り出した石を運べさえすれば、現金収入になるんやな)


 ヒュセインの地図店を出ると、宮殿に行き、ユーミットの男性秘書に伝える。

「ニコルテ村に赴任するに先立って欲しい物があるんよ。ニコルテ村周辺にある石切り場を独占的に使用する権利が欲しい、と伝えて」


 男性秘書は快く応じる。

「問題ないと思います。おっちゃん様の要請なので権利書を明後日には用意しておきます」


 おっちゃんは翌日、ニコルテ村への旅の支度を済ませ、厩舎でロバ一頭と幌のない荷馬車を買う。

翌々日に宮殿にユーミットの男性秘書に会いに行く。公式に発行された、独占使用権を認める権利書を受け取った。


 市場でハーフサイズのエール樽を二樽買い荷馬車に載せる。おっちゃんは準備が整うと、荷馬車を引いてニコルテ村に向けて旅立った。


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