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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ストラスホルド編
197/548

第百九十七夜 おっちゃんと交渉の結末

 翌日にはストラスホルドを攻めようとしていたゴーレム軍団が『古都アスラホルド』に戻って行った。

 三日間は警戒が続いたが、ゴーレム軍団が出て来ないと、警戒態勢は解かれ街の門は開いた。


 さらに、三日が経過しヘルブラント大使が城に呼ばれた。ヘルブラントはハイネルンからの正式な文書を持って白熊亭に戻ってきた。


 ヘルブラントが安堵の表情を浮かべる。

「戦争は無事に回避された。これで、大手を振ってリッツカンドに帰れる」


 マリエッテが笑顔で応じる。

「私もお役目を果たせて嬉しい限りです。晴れやかな気分で凱旋できます」


 エリアンが爽やかな顔で同意する。

「私もやっと重責から開放されます。平和がなによりです」


 ヘルブラントが苦い顔をして言葉を続ける。

「それにしても、軍師ユダが生きていたとはな」


 軍師ユダが生きており、『古都アスラホルド』で姿を見たとする冒険者が現れ、噂になっていた。また、軍師ユダはストラスホルドの占領を目論んでいると囁かれた。別の噂では近々、ファルコ元帥が掃討部隊を派遣する話も出ていた。


(ユダが生きていた情報はユダ自身が流したもんやな。おおかた、ダンジョンに人を呼び込むための措置と、おっちゃんたちへの手土産のつもりかもしれんな。ファルコ元帥にレガリア侵攻の意図があっても、後方が不安なら戦争はできん。ユダが健在なうちは戦争はないやろう)


 レガリアに戻る日が近づいて来て、冒険者のギルドに顔を出した。

 冒険者の広告掲示板では、新たに冒険者の店ハキムが開店するとの広告が貼ってあった。


(ハキムはんも戻ってくるようやな。冒険者の店は続けるんやな。どれ、まだ、オープン前やけど顔を出してみるか)


 おっちゃんはハキムの店を訪れる。

 ハキムの店は裏通りに面した場所にあった。広さはアントラカンドにあった店の時より少し広かった。


 店の入口を開けると、ハキムが木箱から商品を出しているところだった。

「こんにちは、ハキムはん。新装開店おめでとう。よかったら手伝おうか。棚卸しの仕事を思い出す」


 ハキムが微笑んで応じる。

「どこに何を置くかまだ決まってないから、一人でやるよ。でも、人生ってなにがあるかわからないね。もう、ハイネルン領には戻って来ないつもりだったのにな」


「なにが起きるかわからないのが人生や。おっちゃんかて冒険者やのに、戦争を回避する仕事をやらされるとは思わなかった」


 ハキムがしんみりと語る。

「色々とユダが迷惑を掛けちまったねえ」


「戦争は一人ではでけん。ユダがいなくても、ファルコ元帥がおったらいずれは戦争を目論んだやろう。タカ派軍人はどこの国にもおる。今は逆にユダが戦争の枷になっておるから、しばらくは安心や」


 ハキムとは他愛もない短い会話をして別れた。おっちゃんが白熊亭に戻ると、グロリアがやって来ていた。おっちゃんとグロリアは白熊亭の一階で会話をする。


グロリアが澄ました顔で申し出る。

「おっちゃんに話があります。宰相アレックスがおっちゃんに、仕官する気はないかと勧めております」


「え、なんで? おっちゃんはしがない、しょぼくれ中年冒険者やで」


 グロリアが冷静に話を進める。

「謙遜なされなくても結構です。おっちゃんが今まで幾つものユダの企みを潰してきた北方賢者だとわかりました」

「人違いやろう。時々、間違われる」


 グロリアはおっちゃんの言葉を気にせず話を続ける。

「また、今回は先王を見事に説得して内戦の芽を摘んでくれました。ハイネルンでは優秀な人材が常に必要なのです」


「せっかくやけどおっちゃんは冒険者や。どこかに仕える気はない。気ままにぶらぶらと暮らしたい」


 グロリアはあっさり引き下がった。

「そうですか。決心は固いようですね、残念です。宰相アレックスも、仕官は無理かもしれないと考えておりました。無理なら、笑って送ってやれと申しておりました」

「そうか。物分かりのええ人で助かったわ」


 王都リッツカンドへは無事に帰れた。王都に帰ってヘルブラントが国王に文書を渡す。ヘルブラントは特使の任務を無事に終えた。


 報酬を貰い使節の護衛は終わりを告げた。おっちゃんは国王から呼ばれる予感があり、使節団解散後、早々に宿を引き払う準備をした。


 準備をしていると、ヨアキムから声を掛けられた。ヨアキムが笑って言葉を掛ける。

「随分と早くにリッツカンドを離れるのだな。会いたくない人間でもおるのか?」


「そんなこと、あらへん。おっちゃんは冒険者やさかい、冒険の旅に出たくなっただけや。ほな、またどこかで会ったら、一杯やろうや」


 ヨアキムが笑顔で申し出る。

「慌ただしい奴じゃな。(わし)はタイトカンドにおるから、会いたくなったら、いつでも訪ねてくるといい」


 おっちゃんが宿屋の入口から出ようとする。宿屋の入口に王家の馬車が停まる光景が窓から見えた。


 おっちゃんは慌てて裏口から外に出た。どっちに逃げようと考えていると陽気な声がした。

「おや、旦那。お帰りですか。お帰りはこちらですよ」


 声の主はバストリアンだった。バストリアンはニヤニヤした顔で、マジック・ポータルを開いていた。

「その、マジック・ポータルはどこ行きや?」


 バストリアンがニッコリと微笑む。

「どこって、バサラカンドですよ。もう、おっちゃんには次の仕事が入っているんですよ」


「なんや、休む暇ないな。でも、バサラカンドなら、ええわ。バサラカンドなら少しは寛げるやろう。とりあえず、バサラカンドに退避や」


 おっちゃんはバサラカンドに戻るマジック・ポータルを潜った。

【ストラスホルド編了】

©2017 Gin Kanekure

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