表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ストラスホルド編
196/548

第百九十六夜 おっちゃんと『古都アスラホルド』(後編)

 おっちゃんはユダの力を借り、アントラカンドにある冒険者の店ハキムに飛んだ。

 ハキムの店の入口をユダと一緒に潜る。丸顔の小柄な老人で、茶のベレー帽を被ったハキムがいた。


 おっちゃんと一緒にいるユダを見ると、ハキムの顔が悲しげに曇る。

「おや、とうとう、見つかっちまったか」


 おっちゃんは店の看板を『準備中』に換えて窓にカーテンをする。


 ユダが切迫した顔で告げる。

「もう、いいでしょう。人間の真似事は止めてください。『古都アスラホルド』はダンジョン・マスターの不在で閉鎖寸前まで追い込まれています。帰るなら今しかありません」


 ハキムが店主の椅子に深く腰掛けて、おっちゃんに寂しげな視線を送る。

「物は相談だが、おっちゃんがダンジョン・マスターをやる気はないか。おっちゃんがやりたいなら、地位を譲ってもいい」


「地位の譲渡は無理や。おっちゃんはダンジョン・コアに、ダンジョン・マスターにはなれないと、はっきり告げられた」


 ハキムは天井を見上げて、辛そうな顔でぼやいた。

「そうか。ダンジョン・コアに拒絶されたのなら無理だな。だが、俺は冒険者の店の店主がすっかり気に入っちまった。もうダンジョン・マスターはやりたくはない」


「冒険者ギルドのギルド・マスターをやりながら、ダンジョン・マスターをやっている存在もいるんや。ハキムはんも冒険者の店の店主をやりながら、ダンジョン・マスターをやったらええやん」


 ハキムが悲しげに笑う。

「両立は無理だな。顧客が俺の仕掛けた罠に掛かっていなくなるなんて、寂しいだろう」

「なら、冒険者にダンジョンを攻略させて、ダンジョン・コアを破壊させるしかないな」


 ハキムが悲哀の篭った顔をする。

「破壊は意味がない。先天的ダンジョン・マスターは、ダンジョン・コアが破壊されようと、ダンジョンからは逃げられない。別のダンジョンが誕生して、新たなダンジョン・マスターになるだけの話さ」

「そうなんか」


 ハキムが目を閉じて、思案する口調で訊いて来た。

「なぜ、この世界にダンジョンが存在するか知っているかい?」

「昔はよう考えた。でも、結論が出なかったな」


 ハキムが穏やかな表情で、ゆったりした口調で語る。

「大いなる存在は、物語を求めているんだ。ダンジョンに必要な存在は宝物でもダンジョン・コアでもない。冒険者の命でもない。攻略されていく過程で(つむ)がれる物語なんだ。物語がこの世界を存続させているんだ」


「難しい話はわからんが、ダンジョンに戻ってきてもらうわけにはいかんやろうか」


 おっちゃんは思いのたけを語る。

「おっちゃんは元ダンジョン・モンスターや。職場がなくなる辛さはわかる。ダンジョンがなくなれば冒険者もモンスターも困る。また、できるからといって、ダンジョンはなくなっていいもんやない。頼んます。もう一度、ダンジョン・マスターに復帰してください」


 ハキムは「うん」と答えない。おっちゃんは妥協案を提示した。

「もし、冒険者と戦うのが辛いなら、ユダはんを影武者に立てたらええ。ユダはんかてそれくらいはできる。その上でダンジョン・マスターしかできん、最低限の仕事をしたらええやん。店だってストラスホルドに出したらええやん」


 ハキムが苦しそうな顔で、吐き出すように発言した。

「わかっている。わかっているんだよ。逃げられないことは。いいよ、戻るよ。『古都アスラホルド』へ。これが、俺の物語なんだろう」


 ユダとハキムと今後を話すために残る運びとなった。

 おっちゃんは用が済んだので、ユダにマジック・ポータルを開いてもらってストラスホルドに帰還した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ