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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ストラスホルド編
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第百九十夜 おっちゃんと秘密の使者(前編)

 おっちゃんは馬を乗り換えながら、グラスホルドを目指した。

 グラスホルドは平原の中に建つ、人口三万人の町だった。グラスホルドの城壁は馬避けのもので、高くなく、厚さも人が立てるほどに厚くはない。見張り塔は八箇所あるが、屋上にバリスタを置けるほどに大きくはなかった。


(戦になればグラスホルドは簡単に落ちるかもしれんな)

 街は警備が厳重ではなく普通に入れた。街の様子はいたって普通で、戦争間近の空気ではなかった。


 厩舎に馬を預けて、街の中央にある城に向かう。城の入口で立つ衛兵に伝える。

「レガリア国のヘルブラント卿の遣いで、クリフト王のお見舞いに来ました。面会は可能ですか」


 衛兵はすぐに城の中に戻ると、おっちゃんを中に入れた。

 城の中では戦いの準備が進んでいた。だが、城の兵士には、戦に対する高揚感もなければ悲壮感もなかった。ただ、淡々と準備が進んでいた。


(なんや、まるで、ここが戦場になると、誰も思っておらん雰囲気やな。なんで、こんなに静かなんや)


 おっちゃんは、二十畳ほどある寝室に通された。

 天蓋付きのベッドには立派な白い髭を持つ白髪の老人が寝ていた。老人が人の手を借りて、ベッドの上に体を起こした。


 老人の顔色は、よくなかった。

「レガリアからの使者よ。(わし)がクリフトだ。病床から失礼する。体の調子が思わしくないのだ」


「わいは、オウルと言います。レガリアとハイネルンの交渉を預かるヘルブラント特使に派遣されました。レガリアとハイネルンの関係悪化については、御存知ですか」


 クリフト王は苦しそうな顔で訊いて来た。

「知っておる。ハインリッヒの奴に、クリフトを支持すれば関係改善を拒否する、とでも言われたのであろう。それで儂の病状を探りに来た。違うか?」


有態(ありてい)に言えば、そうです。レガリアは今どちらに着くか迷っております」


 クリフト王は挑戦的な顔をして自嘲気味に話す。

「嘘を言わんでいい。儂の状態を見れば、わかるであろう。儂についても良い展開にはならない、とな」


「判断するんはヘルブラント卿やヒエロニムス国王やから、なんとも言えませんな」


 クリフト王が険しい顔で意見を述べた。

「儂には息子が二人いた。息子二人は亡くなったが、孫が二人いる。一人はハインリッヒ。もう一人は、孫娘のサンドラだ。王位を継ぐのであれば、このどちらかしかおらん」


「そうですか。率直に聞きます。サンドラさんは政治家として優秀な方でっか?」


 クリフト王は少し咳き込み、苦痛の篭った顔で会話を続ける。

「サンドラとハインリッヒでは、どちらが王として優れているか一目瞭然。だから、儂が宮殿を出ると、ハインリッヒは王座に就いた。儂が亡くなっておるのなら、ハインリッヒが王を名乗っても良い。だが、儂が存命中なら許されん所業じゃ」


 クリフト王は拳を強く握り、蒼白い顔のまま語る。

「儂は病気を(わずら)っておる。延命のために石になり、治療法を探させておった。ところが、その間に、ハインリッヒが王座に就いた。儂には、それが許せん。儂は死ぬまで王じゃ」


(えらく王座に固執しておるね。他人に譲る気はないようや)


 クリフト王が執念の篭った顔で、呪いの言葉を吐くように話す。

「儂の取り巻きは儂が死んだ後にサンドラを旗頭にするつもりだ。だが、儂はこのまま死なん。必ず王座に返り咲いてみせる」


(これは、あかんね。完全に権力の亡者や。それに、今日明日は大丈夫かもしれんが、一ヶ月は()たんかもしれん。現状ではハインリッヒに着いたほうがええな。でも、なんか気に懸かる)

「なんぞ、秘策でもありますか」


 クリフトは、ただ曖昧(あいまい)に笑うだけだった。

 おっちゃんはクリフト王の見舞いを終えると、グラスホルドに宿を取って食事にする。


 食事をしていると、ボロの赤いローブを着た、土気色の顔をした禿げ頭の年配の男がおっちゃんの向かいに腰掛けた。


「あんたがおっちゃんか。探したぞ。ユーミットの願いにより、助っ人としてやってきた。その節は世話になったな」


 おっちゃんには男の顔に全く見覚えがなかった。

「どこかでお会いした過去がありましたか」


「会うのは初めてだな。私の名はバストリアン。スレイマンの壺より解き放たれた者だ」


 バストリアンの名前は覚えていた。バサラカンドのユーミットを助けるためにアフメトに渡したスレイマンの壺に封じられていた、悪魔型の使徒だ。


(神が創った使徒なら確かに強力な存在や。けど、バストリアンの性格は知らん。果たして、どこまでプラスになるのやろう)


「そうでっか。心強いわ。よろしゅうお願いします」


 バストリアンが軽い調子で訊く。

「これからどうする」

「とりあえず、クリフト王が動くまで様子見ですわ」


 バストリアンが「ふん」と軽く鼻を鳴らす。

「実に手伝い甲斐のない仕事だ。いいだろう、私がクリフト王を見張ってやろう」


 バストリアンは宿屋を出て行った。

(大丈夫かな? バストリアンはん、問題を起さなければええけど)


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