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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ストラスホルド編
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第百八十六夜 おっちゃんと宝の行方

 冒険者ギルドに帰ると、ヨアキムがやって来て密談スペースにおっちゃんを誘う。

「おっちゃん、今日は手紙を持って来た。ユーミット閣下からだ」


 手紙を読む。手紙にはバサラカンドの運営には問題が山積みである内情と、戦争について危惧(きぐ)している内容が書かれていた。

「ユーミットはんも大変なんやな。この件が片付いたら、一度、バサラカンドに戻って顔を出したろう」


 手紙を最後まで読む。戦争を回避する助けになるようにおっちゃんに強力な助っ人を送る、と書いてあった。


「ユーミットはんも、人を頼るだけやなくて、誰かのために手を差し伸べられるようになったんやな。でも、誰が来るかわからんけど、強力な助っ人って誰やろう」


 ヨアキムがニコニコ顔で口を出す。

「そうか、ユーミット閣下が人を送ってくれるのか。来たら、遠慮なく使ったらいい。やって来たが仕事がない、では助っ人も張り合いがないだろうからな」


「そうやな。今回は戦争の回避いう重たい仕事やから、さすがに、おっちゃん一人では、辛い。そんで、特使のほうでは、なんか動きがあったんか」


 ヨアキムがサラリと告げる。

「ヘルブラント卿の体調が回復しない状況には進展がない。数日は、なにもないだろう」

「そうか。手紙を持ってきてくれて、助かったわ」


 ヨアキムと別れると、おっちゃんは手紙を処分した。

 おっちゃんは翌朝、冒険者の酒場で朝食を摂り部屋に戻って一服する。


 そろそろ報酬を受け取りに行こうかと下に降りて行くと、アルミンが冒険者ギルドにやって来た。

 アルミンはおっちゃんを見つけると向かいに腰掛けて、小さな袋を渡してきた。中には銀貨が三十枚、入っていた。


「なんや、アルミンはんから報酬を持って来てくれたんか。これから取りにいこうと思うとったのに」

 

アルミンが澄ました顔で発言する。

「ものは、次いでだよ。あれから思案したが、ヌルザーンが隠した宝を回収しなければならない。隠された場所が『古都アスラホルド』では、一般人が回収しに行く仕事は無理だ」

「ダンジョンの中やからね。それで、冒険者を雇って回収する依頼を出しに来たんか」


 アルミンがツンとした顔で教えてくれた。

「いいや。ヌルザーンを訴えている冒険者に宝の隠し場所を教えに来た。それで宝があったら、訴えを取り下げてもらえないか交渉するためにここにいる」


「それでヌルザーンを訴えた冒険者と待ち合わせしておるんか」

 アルミンが満足げな顔をして発言する。

「宝がきちんとあって回収された場合は、おっちゃんには約束どおりに追加で金貨を支払おう」


 アルミンがおっちゃんの背後に視線をやり、立ち上がった。

「私がヌルザーンの弁護を引き受けた弁護士のアルミンです」


 アルミンは五人の冒険者と共に、密談スペースに移動した。

 おっちゃんは振り返ってアルミンの交渉相手を確認する。だが、取り立てて特徴がない普通の冒険者だった。


 おっちゃんは、アルミンと冒険者が入っていった密談スペースの入口が見える位置に移動した。中の話し合いの様子はわからない。

(果たして交渉は上手く纏まるやろうか)


 十五分ほどで冒険者とアルミンが密談スペースから出て来た。

 外から見た感じでは、それほど雰囲気が悪いわけではなかった。


 アルミンは密談スペースの前で冒険者と別れ、おっちゃんのいる場所に歩いて来た。

「追加で仕事を頼みたい。ヌルザーンを訴えている冒険者に同行して、『古都アスラホルド』まで行ってもらえないか」

「宝のあるなしを、一緒に行って確認する仕事ですか」


 アルミンが鷹揚な顔で頷く。

「すんまへん、アルミンはん。おっちゃんは、ダンジョンに行かん冒険者なんですわ。それに、おっちゃんは『古都アスラホルド』へは行った経験がないから行っても足手まといや」


『古都アスラホルド』は閉鎖的なダンジョンなので、他のダンジョンとの付き合いはない。ダンジョン・マスターも会合には出席しない人物なので、知られていなかった。


 おっちゃんは人間の姿をしている。だが、おっちゃんは人間ではない。変幻自在のモンスターのシェイプシフターであり、元ダンジョン・モンスターだった。


 おっちゃんとしては『古都アスラホルド』に行っても知り合いと会いそうにないので、行っても問題なかった。されど、元ダンジョン・モンスターとしては、腰が引けた。


「そうか。冒険者といえば、ダンジョン慣れしている人間だとばかり思っていたがな。残念だ」

アルミンは、おっちゃんに固執しなかった。すぐに、おっちゃんの前から依頼受け付けカウンターの前に移動する。


「特段に、おっちゃんに(こだわ)る理由はないようやね」


 翌朝、アルミンが一人の女性冒険者と一緒に、冒険者ギルドにやって来た。

 やって来た女性冒険者には、見覚えがあった。イザベラだった。イザベラはヌルザーンを訴えていた冒険者と一緒に、冒険者ギルドを出て行く。


 おっちゃんは空いてきた時を見計らってフローラに尋ねる。

「『古都アスラホルド』に庭園エリアってあるやろう。そこまで探索に行って戻ってくるなら、どれくらい掛かる?」


 フローラが気軽に答える。

「どれほど探索をするかにもよるけど、簡単な調査なら朝に出れば、夕方前までには戻って来られるわ」


 おっちゃんは冒険者が帰ってくるのを待った。

 夕方になり、夜になる。冒険者たちは帰ってこなかった。


 アルミンが姿を現しフローラに冒険者の帰還を尋ねていた。フローラは表情を曇らせて首を振るだけだった。


 おっちゃんはアルミンに声を掛けた。

「こんばんは、アルミンはん。冒険者は戻って来ませんね」


 アルミンが苛立った顔で口にした。

「夕方には戻ってくるはずだったんだが、なにかトラブルがあったな」

「よかったら、おっちゃんが待っていますから、アルミンはんは事務所に帰られたらどうですか」


 アルミンが渋い顔で答えた。

「私もここで待つ」


 夜が更けてきた。冒険者の帰還は絶望的と思えたので、おっちゃんは夜になると眠りに就いた。

朝起きると、アルミンはまだ酒場にいた。おっちゃんが朝食を摂っていると、アルミンも朝食を頼む。


(訴えていた冒険者が帰ってこなかったら、裁判はどうなるんやろう)

 おっちゃんが食後にミルクティを飲んでいると、ふらふらになったイザベラが冒険者ギルドの入口を潜った。


 アルミンが駆け寄りイザベラから何かを受け取って、代わりに小さな袋を握らせた。アルミンがイザベラに背を向けると、イザベラがその場に倒れこんだ。


 アルミンは振り返ることなく、外に出て行った。

 おっちゃんは倒れたイザベラに駆け寄る。イザベラは疲弊(ひへい)し大きな怪我をしていた。

「おい、誰か怪我の治療ができるもんが、おらんか」


 おっちゃんの呼び掛けに青い僧衣を着た男が進み出た。

 僧衣の男が魔法で応急的な治療を施しフローラの指示で、ギルドの治療室にイザベラを運んだ。イザベラは助かるかどうか微妙だった。

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