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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ストラスホルド編
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第百八十四夜 おっちゃんと弁護士アルミン(前編)

 翌日、おっちゃんは冒険者ギルドの依頼掲示板を確認に行く。様々な仕事の依頼があるが、取り立てて変わった依頼は見当たらなかった。

「国が変わっても、冒険者のやる仕事は変わらんな。少し安心したで」


 おっちゃんは依頼を確認だけして、どれにも手を出さなかった。

 ギルドの受付嬢のフローラから声を掛けてきた。フローラは金色の髪を肩まで伸ばしており、細い眉と面長の顔をした女性だった。年齢は二十代後半であり、蒼のパンツルックで仕事をしている。


「冒険者さん、頼みたい仕事があるんだけど、いいかしら」

「わいは、おっちゃん言うんよ。それで仕事って何?」


 フローラが穏やかな表情で尋ねる。

「その前に確認だけど、おっちゃんはハイネルン出身の冒険者ではないわよね。依頼人がハイネルン出身者以外の冒険者を探しているのよ」


「ハイネルンの冒険者ギルドで、ハイネルン出身者以外の冒険者を探しとるんか。変わった依頼人やね。どんな仕事なん」


 フローラが冷静な顔で淡々と語る。

「弁護士のアルミンさんのお手伝いよ。アルミンさんは冒険者のヌルザーンさんの弁護を引き受けたんだけど、ヌルザーンさんがハイネルン人とは話したくないって条件を付けて、困っているのよ」


「それじゃあ、弁護ができんわな。でも、なんで、ヌルザーンはハイネルン人と話したくないんやろう。ちと、気に懸かるな」


 フローラが困った顔をする。

「そこは、本人に聞いてもらわないと、わからないわ。あと詳しい話は引き受けてくれたら、アルミンさんが話してくれると思うわ」


(すぐ終わりそうな依頼やな。なんの仕事も受けんいうのも冒険者としてはおかしいな)

「わかった。どこまでやれるかわからんけど、やってみるよ。アルミンさんを紹介して」


 フローラは、アルミン宛の紹介状と、事務所の場所を描いた地図を渡してくれた。

 アルミンを訪ねて街の北にある高級住宅街に行く。

 高級住宅街に入ってすぐの場所にアルミンの事務所はあった。事務所は二階建てで一階がパン屋になっていた。


 外にある階段から上がり、事務所のドアをノックする。背の高いスマートな中年男性が出てきたので挨拶する。

「冒険者ギルドから派遣されてきました。おっちゃんいう冒険者です。よろしゅうお願いします」


 スマートな中年男性が顎に手をやって、満足気に頷く。

「確かにその洗練されていない話し方は、ハイネルン人ではないな。結構だ。さっそくビジネスの話をしよう。公判はあまり先に延ばせない。少し待っていてくれ。出かける準備をしてくる」


 数分でアルミンが秋物の薄いコートを着て出てきた。

「悪いが歩きながら話をさせてもらうよ」


アルミンが歩き出したので横に従いて一緒に歩く。アルミンが澄ました顔で説明する。

「被告人はヌルザーン・ユルドゥズ。バサラカンド出身の冒険者だ。ヌルザーンは、パーティで分配すべき宝を横領した罪で、仲間の冒険者から告訴されている」


 冒険者が欲に目が(くら)んで宝を独り占めする事件は、よくある。だが、裁判になるケースはレガリア国内では聞かない話だった。


(レガリアなら懸賞金が掛けられたり、冒険者ギルドから追っ手が掛けられたりする。でも、基本的に冒険者の不始末は冒険者同士で決着するのが基本や。訴訟は起きん)


「アルミンはん。ハイネルンでは冒険者同士の不始末は訴訟で決着するのが普通なん?」


 アルミンが不快感を露に意見を述べた。

「なにをいっているんだね、君は。争いごとは裁判で決着させるのが普通だろう。法律による統治こそ、文明人たる人間のあるべき姿だ。法に基づかない決着など人間社会では許すべきではない」


(法律家らしい意見やね。でも、アルミンはんの考えだと、冒険者には馴染まないかもしれんな。性格の不一致から、ヌルザーンの態度が頑になったかもしれんの)


 アルミンがおっちゃんを見ずに、幾分か(さげす)んだ言い方をする

「もっとも、冒険者という人種には少々野蛮な面がある。裁判による決着をあまり望んだりはしない」


 アルミンがムッとした顔で、面白くなさそうに告げる。

「だからといって、被告人が裁判を受ける権利が軽んじられていい話ではない。法は尊重されるべきであり、認められた権利は行使すべきだ」


「アルミンはんの考えは、わかりました。でも、なんで、ヌルザーンはんはハイネルン人とは話したくないんでっしゃろ」


 アルミンが気取った顔で答える。

「被告人がどうしてハイネルン人不信になったかは知らない。知りたいとも思わない。だが、被告人から事情を聞けないと、満足な弁護ができない」

「そうでっしゃろな。事情によっては、無罪の可能性もある」


 アルミンは、きっぱりとした口調で否定した。

「状況からして無罪の可能性はない」


 アルミンが口調を和らげて言葉を続ける。

「だが、原告と示談できる可能性はある。示談には盗んだ品物の回収が是非とも必要だ。おっちゃんには是非とも、盗んだ品をどうしたのか聞き出して欲しい」


「やるだけは、やってみます。けど、仲間を裏切ってまで欲した品でっしゃろ。簡単に話してくれるかどうか」


 アルミンが怖い顔でピシャリと釘を刺した。

「期待には応えてもらわねばならない。ヌルザーンから簡単な話を聞き出しただけなら銀貨三十枚だ。でも、盗んだ品の行方まで聞き出したら、金貨二枚の報酬を支払う」


「そんなに貰えるんでっか。いったいヌルザーンは何を盗んで、誰がそんな報酬を用意してるんでっか? 冒険者からの仕事なら、そんなに儲からんでっしゃろ」


 アルミンが憮然とした顔で発言する。

「私が言わない内容については、聞く必要はない。ほら、見えてきたぞ、あそこが拘置所だ」


 古い大きな、石造りの二階建の建物が見えてきた。

(なんか、ヌルザーンの事件は怪しいで。単なる横領事件ではないのかもしれん)


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