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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
タイトカンド編
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第百七十九夜 おっちゃんと雷雲

 翌日も曇りだった。「なかなか晴れんな」と、おっちゃんは一人で酒場で飲んでいた。すると、怖い顔をしたヨアキムがやって来た。


「おっちゃん、一緒に『緑沼』に来てくれ」

「仕事の話か。おっちゃんは今、休業中や。だから、仕事の話なら他を当ってもらえんか」


 ヨアキムが怖い顔のまま告げる。

「休業とかそんな悠長な話ではない。街の存続に係わる話だ。とりあえず、一緒に来て状況を確認するだけ確認して欲しい」

「なんや、余裕ないな。まあ、ヨアキムはんには世話になっとるから、見るだけなら、ええよ」


 おっちゃんはヨアキムが操縦するワイバーンに乗って『緑沼』へと向かった。

『緑沼』からタイトカンドに行く途中の上空四百m地点に、直径五百mの渦巻く黒雲が存在した。

「なんや、あの雲、おかしいで」


 おっちゃんが声を上げると雷雲が光った。

 雷雲から真下に幾筋もの雷が降り注ぐ。雷は下にあった松の林に降り注ぐと、木々を次々に打ち砕いてゆく。


 ヨアキムが険しい顔で声を上げる。

「あの雷雲、今朝は『緑沼』にあったが、今は『緑沼』からだいぶ離れたこの場所にある。このまま進めばタイトカンドに到達するだろう」


「それ、まずいやん。あんな雷雲がタイトカンドの上空に来たら、街は滅茶苦茶にされるで」


 ヨアキムが苦い顔をして告げた。

「誰の仕業か知らんが、タイトカンドを攻撃するのが目的だろう」


「なんや。ハイネルンの攻撃は、二段構えやったんか。雨の魔道具を破壊して、安心したところで、雷を発生させる魔道具が来るんか。それにしても、ヨアキムはんよく気が付いたな」


 ヨアキムが凛とした顔で宣言する。

「事情により沼ヒドラの肉が必要になったので、今朝、肉を取りに行って気が付いた。よし、あの雷雲を破壊するぞ。おっちゃん、手を貸してくれ」

「そんな、あんな雷雲、どうやって破壊するんや」


 ヨアキムが険しい顔で答える。

「あの手の魔道具は雷雲の中心付近にあるはずだ。このまま近づいて、クロスボウの矢を射ち込む。おっちゃんは、魔道具のある位置の探知を頼む」


「参ったな。ここまで来たから協力するけど、魔法で探せる距離なんてたかが知れている。もっと近づかないと無理やで」

「心配するな。雷に撃たれないように上から行く」


 ヨアキムの乗るワイバーンが、旋回しながら高度を上げる。ワイバーンが雷雲より高く飛んだ。

 眼下に広がる雷雲が見えた。上から高度を落として近づこうとした。


 雷雲が光った。雷雲から上空に電撃の篭ったバレーボール大の球体が飛んできた。

 球体の数は一つではなかった、十も二十も中心からワイバーンに向けて飛んできた。ヨアキムが巧みな手綱捌きでワイバーンを操る。


「駄目や。魔法で正確に感知できる距離は三十mや。まだ百m以上ある」

「心配無用。球を飛ばしている位置から、魔道具の位置はわかった」


 ヨアキムが雷雲に向けて矢を放った。

 球体が矢に当って矢が落ち、ヨアキムが無念の声を上げる。

「だめだこの距離では落とされる。もっと近づかねば」


「あかん。クロスボウでは破壊できん、それにこれ以上、近づいたら落とされる。無理は禁物や。いったん退却や。無理にでもやる、いうなら、おっちゃんを下ろしてから一人で挑戦して。無駄死には御免や」


 ヨアキムが悔し気な顔をして攻撃を断念し、退却する。

「一時退却する策は良い。だが、どうする。このままでは雷雲がタイトカンドを襲うぞ」

「今ので状況は色々とわかった。街は救えるかもしれん。せやけどなー、でも割に合わんなー」


 作戦が成功しても失敗しても、おっちゃんは街にいられなくなる予感がした。


 ヨアキムが厳しい顔で、強い口調で発言した。

「なんだ、報酬の問題か。それなら、ワシが冒険者ギルドでも領主にでも掛け合ってやるぞ」


 街の人間の顔が浮かぶ。

(やらなくて済むのなら、やらなくて済ませたい。だが、おっちゃんがやらねば、街は救えんからな)


「ヨアキムはん、今日ここで起きた事件の顛末は誰にも語らないと約束できるか。できるなら、街を救う手を貸したる」


 ヨアキムが真剣な顔で、頑として言い放った。

「わかった。秘密にしてくれと頼むなら、墓の中まで持って行く」

「そうか。なら、まず街に戻ってくれるか。武器を調達する」


 ヨアキムと一緒にタイトカンドに戻った。

 おっちゃんはヨアキムにワイバーンをしまってくるように頼む。

 ヨアキムがワイバーンをしまって来ると、アーロンの鍛冶場を尋ねた。


 鍛冶場に行くと、リューリが迎えてくれた。

「リューリはん、すまんけど槍を返してもらっていいか。厄介な奴と戦わなければならんくなった。おそらく、勝っても負けても槍は失われる。でも、戦わんとタイトカンドが危ない」


 槍が失われると聞いて、リューリは残念そうな顔をする。

「わかったよ。槍は、おっちゃんの物だから持って行って」

「すまんな。せっかく、作ってもらったのに」


 リューリが寂しげに微笑む。

「いいよ。道具は道具さ。見世物じゃない。きちんと使って、冒険者の身を守ってこその武器だよ。おっちゃん、武器をまた預けに来てとはいわない。でも、おっちゃんは帰ってきて」


「わかった」と頷くと、リューリが『霊金鉱』でできた槍を持ってきた。


 ヨアキムに渡すと、ヨアキムは槍を手に取り、満足気に頷く。

「良い武器だ。これなら、あの厄介な球体も貫通して魔道具も打ち抜くことができるじゃろう。だが、良いのか? 『霊金鉱』製の武器なら、さぞや高価だろう」


「ええんや。街の人間の命には代えられん。ただし、槍は一本しかない、外したらあかんよ」


 リューリの鍛冶場を出て街外れに行くと、ヨアキムが浮かない顔をして訊いて来る。

「ワイバーンを帰してきたが、どうやって黒雲に近づく気だ」

「ワイバーンでは近づけん。もっと頑丈で機敏な存在を使う。ほな、掴まって」


 おっちゃんは袖を差し出した。おっちゃんの袖をヨアキムが掴み、瞬間移動で霊峰に飛んだ。

霊峰に出ると、ヨアキムが怪訝な声を出す。

「ここは、どこだ」

「雲龍が棲む霊峰や。雲龍と交渉して乗せてもらう」


 ヨアキムが疑いも露に尋ねる。

「確かにワイバーンより頑健で機敏な存在だが、そんなことは、可能なのか」

「わからん。でも、雲龍はんの力を借りたほうが確実や」


 話をしていると、遠くから雲龍が飛来した。雲龍はおっちゃんたちの姿を見ると、目を細める。

「なんだ、おっちゃんか。今日は、なんの用件で来た」


「タイトカンドに雷を降らせる魔道具が近づいてます。このままでは、タイトカンドが危ない。魔道具を壊す手伝いをしていただけませんやろうか。報酬は払います」


 雲龍が不承不承の顔で発言する。

「人間たちの街がどうなろうと知ったことではない、と言いたい。だが、おっちゃんには住み家からベトムを追い払ってもらった借りがある。借りを作ったままでは気分が悪い。協力してやろう」


「雲龍はんが恩義に厚い龍で助かりました。おっちゃんとヨアキムはんを乗せて、黒雲の中央まで飛んでください」


 雲龍が顔を(しか)めて発言する。

「人を頭の上に乗せるなど、したくはない。だが、今回だけは特別に手を貸してやろう」


「ヨアキムはん。作戦はこうや。雲龍はんが魔道具まで近づく。おっちゃんが『光』の魔法で印をつける。ヨアキムはんが槍を投げて魔道具を打ち落とす。以上や。できるか?」


 ヨアキムが厳しい顔で告げる。

「ここまでお膳立てしてもらって、できない、では済まされないな、必ずややり遂げてみせよう」


 雲龍が下りてきて地に臥したので、頭におっちゃんは乗せてもらった。

 命綱としてロープでヨアキムとの体を繋いだ。


 おっちゃんは雲龍の頭の上に立ち、しっかりと角を握った。ヨアキムは座って、龍の(たてがみ)を掴む。

「準備ができたで。雲龍はん、お願いします」


 雲龍が浮き上がり空を飛ぶ。おっちゃんが指示を出し雲龍を誘導した。雲竜の速度はワイバーンより速い。だが、おっちゃんは風圧をほとんど感じなかった。


(雲龍の頭に初めて乗ったけど、速いとか快適とかのレベルやないで。まるで、世界のほうがどんどん後ろに流れて行くような感じや)


 一時間も飛ぶと黒雲が見えてきた。黒雲は雲龍を察知したのか、電撃の篭ったバレーボール大の球体を無数に飛ばしてきた。


「こんなもの、子供騙しだ」と雲龍が口にして球体を軽々と躱す。雲龍の体から大量の霧が噴き出す。雲龍が黒雲の周りを大きく廻ると、霧に黒雲が包まれた。

「おっちゃん、このまま中心に行くぞ」


 おっちゃんは『高度な発見』を唱える。下方向十五mに隠された魔道具の存在を感じ、おっちゃんは隠された魔道具に『光』の魔法を掛ける。


「ヨアキムはん、あったで。あれや」

「承知した」とヨアキムが立ち上がり、霧の中に薄ぼんやりと光る魔道具に槍を投げた。


 金属を打ち抜く軽い音がした。下で激しく魔道具がスパークする音がする。

 雲龍が上昇して霧が消える。


 黒雲が激しく光った。大きな雷が真下に放たれた。雷が松の林を薙ぎ倒す。

 雷雲は貯まっていたエネルギーをすべて放出した。徐々に薄くなり、消える。雷雲の真下にあった松の林は、焼け野原になっていた。


「危なかった。危うく、タイトカンドが消滅するところやった」

 火災の心配をしていると、雨が降り始めた。


 おっちゃんは雲龍と別れ、『瞬間移動』でタイトカンドに帰った。


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