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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
タイトカンド編
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第百七十八夜 おっちゃんと消えたモンスター商人

 沼ヒドラが倒された翌日に雨は止んだ。だが、空はどんよりと曇っていた。

 冒険者ギルドでは「なぜ、沼ヒドラがいたのか」と「誰が魔道具を置いたのか」で話題になっていた。議論はされるが、答は出ない。


(雨を降らしていた魔道具を見たが、あれはダンジョン製や。人間が作った魔道具やない。おそらく、ダンジョン通販で買ったものや。だが、あれだけの品は簡単に買える品やない。形跡を追えないやろうか)


 おっちゃんは、アーマットに会いに『イヤマンテ鉱山』の廃坑道に向った。

 夜までキャンプをしていると、三人の護衛を連れたアーマットが現れた。


「こんばんは、アーマットはん。雨がやっと上がりましたね。今日は、ちょっと聞きたい話があって来ました。過去に『イヤマンテ鉱山』から雨を降らす魔道具が盗まれた事件って、ありますか」


 アーマットが渋々の感じで教えてくれた。

「盗まれた記録はないですね。ダンジョン通販を通して売った実績ならありますが」

「誰に売ったか、教えて貰うわけにいきませんか」


 アーマットが苦い顔して教えてくれた。

「本来なら教えたくないところですが、長雨では『イヤマンテ』鉱山も被害を受けたので、義理立てする必要はないでしょう。売った相手は霞人の商人のポポルです」

「魔道具は安いものやないでっしゃろ。ポポルってそんなに大金持ちなんですか」


 アーマットが溜息混じりに教えてくれた。

「ポポルは出入りの商人でした。でも、雨を降らせる魔道具を買えるだけの資金力はありません。おおかた、誰かの代理で購入したのでしょう」

「誰の差し金やろう」


 アーマットが曇った顔で教えてくれた。

「『イヤマンテ鉱山』では魔道具技師のガルベルクを保護しております。石化兵器の開発者です」

「『イヤマンテ鉱山』が包囲された原因って、もしかして、ガルベルクでっか」


 アーマットが淡々とした表情で語る。

「人間の国家が何を考えているかわかりません。可能性は高いでしょうね。また、保護したガルベルクが言うには、タイトカンドで起きた事件は全てハイネルンにやってきた軍師のユダのせいだと申しています」


 ユダの名前はたびたび聞いていたので、知っていた。

「ユダの目的は領土でっか」


 アーマットが浮かない顔で発言する。

「ユダはハイネルン王のハインリッヒと組みレガリア王国への侵攻を企てています。ハインリッヒの目的は領土かもしれませんが、ユダの目的は違うようです」

「領土拡張以外に戦争をする目的って、あるんですかね?」


「ガルベルクの話ではユダは人間ではないそうです。ユダは独自の目的を持っているそうですが、詳細は不明です。私がお話しできる情報はこれくらいです」

「なんや、おかしな話になってきましたね。情報、助かりました。ほな、失礼します」


 おっちゃんは『イヤマンテ鉱山』を出てタイトカンドに帰って一夜を明かす。

 霞人にお土産用のボトル・ワイン四本を購入して、霞人の集落へと飛んだ。


 長老に挨拶してワインを渡した。

「こんにちは、長老はん、お世話になっています。今日はちょっと聞きたい話があってきました。霞人の商人でポポルさんって、おるやろう。ポポルさんに会いたいんやけどいますか」


 長老が申し訳なそうな顔をする。

「長雨の件で来たのじゃろう。残念ながら長雨が降り出した頃から、ポポルは行方不明になっておる。言い訳になるが、長雨はポポルの一存でやったこと、霞人として人間の街を攻撃する意図はない」


「わかっとるよ。けど、ポポルさんが消えた状況は残念やわ。色々と聞けると助かったんやけど。とりあえず、情報ありがとうな」

(ポポルの線から情報を得る展開は無理やな。どこに行ったかわからん。最悪、消されておるかもしれん)


 おっちゃんはタイトカンドに帰り、セニアを呼んで密談スペースに行く。

「セニアはん。先の長雨の件を、おっちゃん、調べていたんよ。すると、どうもハイネルンの人間が裏で糸を引いているらしい。『イヤマンテ鉱山』から魔道具が流出した話も聞けた」


 おっちゃんは意図的にポポルの情報を伏せた。人間と霞人の衝突を避けるためだった。

(余計な言葉は禁物や。霞人と人間の争いで得をする奴らなんて、ハイネルンだけやで)


「わかった、おっちゃん。ギルド・マスターには情報を上げておくわ。それと、おっちゃんがいない間に、リューリさんが来ていたわよ。注文の品ができたんだって」


 おっちゃんはセニアとの話が終わると、リューリの元に行った。

「こんにちは、リューリはん武器ができたって聞いたよ」


 リューリが明るい顔で出迎える。

「おっちゃん、注文の槍ができたよ。いい出来栄えだよ」


 矛先が金色に光る長さ百五十㎝の短槍をリューリが持ってきた。槍を手にすると槍は軽かった。

「随分と軽いな。普通の槍の半分以下の重さやな」


「『霊金鉱』で武具を作ると鉄の製品より軽くできるんだよ。でも、威力は鉄の槍以上だよ。こっちに来て」


 リューリが鍛冶場の外に出る。店の庭の案山子(かかし)に鉄板を括りつけ、リューリが得意げな顔でお願いする。

「おっちゃん、槍で鉄板を突いてみて。そうすれば威力がわかると思うよ」


 おっちゃんは槍を構えると、鉄板を思い切り突いた。槍の穂先が軽々と鉄板を貫通した。

「ほー、凄い威力やな。これなら、鉄の殻を持ったアイアン・タランチュラにだって通用する威力や」


 リューリがニコニコした顔で告げる。

「でしょう。ただ、思ったより霊金鉱を使ったから、おっちゃんから預かった分の霊金鉱をほとんど使っちゃった」


 予定より材料が掛かっても問題なかった。

「ええよ。『霊金鉱』を持っていても、おっちゃんは使えない。それで、仕事料はいくらや。これだけの仕事や、いい値段がするやろう」


 リューリが控えめな態度で申し出る。

「仕事料なんだけどさ、残っている『霊金鉱』の全部を貰うじゃ、駄目かな」

「なんや、そんなんでええのか。ええよ、残っている『霊金鉱』は仕事料代わりに上げるわ。あと、この槍を預かってもらって、ええか。後で取りに来るから」


 リューリが笑顔で頼んで来た。

「槍なんだけど、店に飾っておいてもいいかな。これだけの仕事は滅多にできないから、見せてアーロン親方の腕を知ってもらいたいんだ」

「ええよ、飾っておいて」

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