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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
タイトカンド編
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第百七十三夜 おっちゃんと武器売買

 おっちゃんはタイトカンドに戻る。マルックに会いに鍛冶師ギルドに行った。

「製鉄村は『始原の薬』があれば救えるで。『始原の薬』と交換に使うから、武器を三十点ほど売ってや」


 マルックがおっちゃんを手招きして、ギルドの隅に連れてゆく。

「おっちゃん、悪いんだけど、その取引は武器じゃなくて金貨に変更できないか。ハイネルンの軍事行動のせいで、大量の武器の輸出がお城から禁止されているんだ」


「でも、取引相手はハイネルンやないで。『イヤマンテ鉱山』や」


 マルックが暗い顔で意見を述べた。

「組合員の家を廻れば、武器の三十はすぐに集まるだろう。だが、『イヤマンテ鉱山』も他国みたいなものだ。剣の一振りや二振りなら、こっそり輸出できる。でも、三十の売買は無理だ。衛兵の眼がある」


「武器を売ってもらえないと、製鉄村は救えないで」


 マルックが弱った顔で意見を述べる。

「俺たちも売りたい心情なんだが、お城は大の得意先でもある。意向を無視するわけにはいかないんだ。かといって製鉄村も見捨てられん」


「そうか、わかった。なら、おっちゃんに考えがある。とりあえず、武器を三十を用意しておいてや。武器の代金は製鉄村に請求してや」


 おっちゃんは冒険者ギルドに帰ると、依頼受け付けカウンターに行く。

「セニアはん、おっちゃんが『イヤマンテ鉱山』の調査依頼を出したいんやけど、ええか。募集人数は三十人。報酬は一人につき銀貨八十五枚。期間は一日。仕事中に見た内容を他人に漏らさない人のみ応募可。参加希望者は面接有りや」


 セニアが浮かない顔で指摘した。

「一日で銀貨八十五枚だと人は集まると思うわ。でも、移動時間を考えると捜索に使える時間は何時間もないわよ」


「ええよ。ちょっと、複雑な事情がある仕事なんよ」

「わかったわ。依頼人が言いたくない内容は聞かないわ。ギルドへの依頼料と冒険者への報酬で、金貨三十枚を先払いしてもらって、いい?」


「ええよ」と、おっちゃんは貯金から金貨三十枚を払った。


 依頼票が貼られると、すぐにおっちゃんの元に面接を受けに冒険者がやって来る。


 面接時におっちゃんは説明する。

「今回の仕事に求める能力は、一つや。「支給品の武器を捨てて逃げろ」と命令した時に、きちんと支給品の武器を捨てて逃げられる冒険者や。捨てた武器を取りに戻ろうとする人間は応募せんといて」


 説明を受けた冒険者は怪訝(けげん)な顔をする。おっちゃんの真意を質問する冒険者もいた。


 おっちゃんは睨みつけて釘を刺す。

「あまり、ごちゃごちゃと訊くような人はこの仕事を請けんといて」


 勘の良い冒険者や慣れた冒険者はおっちゃんの言葉を聞いて黙る。それでも、色々と聞いてくる冒険者は面接で落とした。


 報酬に釣られて三十人の冒険者が翌日に集まった。三十人の冒険者を前に声を掛ける。

「ほな、行くで。従いて来てや」


 三十人を連れて、鍛冶師ギルド前に整列させる。おっちゃんは一人で鍛冶師ギルドに入ってマルックを呼ぶ。


「お客さんを連れてきたで、武器を売ってや。冒険者が武器を買う分には問題ないやろう」


 マルックが複雑な表情をする。

「おっちゃんの考えって、そういう作戦か」


「なんの話か、よくわからんなあ。おっちゃんはお客さんを紹介しにきただけや。今日は偶々(たまたま)お客さんが多い日だった。それだけの話や。早う売って。これから、冒険に行かならん」


 マルックが苦い顔をしたが、決断した。

「わかった。俺は冒険者一人につき一点の武器を売っただけ――でいいんだな」


 おっちゃんは頷いた。店に一人ずつ冒険者を入れて「支給品や」と武器を渡した。三十人に箱入りの武器を持たせた。箱を捨てようとする冒険者には「箱は取って置いてや」と指示する。


 夕方前に『イヤマンテ鉱山』に到着し、廃坑道の入口で冒険者を整列させる。


 五mだけ進んで大声を上げる。

「なんや、あれは? 世にも恐ろしいモンスターや。皆、支給された武器を捨てて逃げるんや」


 おっちゃんは振り返った。事情を飲み込めない冒険者がいたが、要領のいい冒険者は箱に入れた武器を地面に置いて洞窟の外に逃げ出した。


 すぐに、他の冒険者も同じように武器を置いて逃げ出す。

 全員が外に出たのを確認して、おっちゃんは洞窟の外に出る。


「よし、全員無事やな。ダンジョン探索は危険に付き中止する。依頼人の都合による中止やから報酬は払う。ほな、街まで撤退して報酬を受け取ってくれ。なお、今日中に報酬を受け取らなかった場合は、命令違反で報酬は払わんからな」


「おっちゃんはどうするんですか?」と誰かが怪訝な顔で尋ねる。

「今回、出遭ったモンスターは危険や。おっちゃんはここに残って、今日一日、モンスターが出てこないか見張る。だから、撤退は各自で頼む、以上や」


 話を理解した冒険者がおっちゃんに背を向けて去った。一人また一人と、タイトカンドに向けて冒険者が帰って行く。


 三十人が消えると、おっちゃんは洞窟内から武器の入った箱を回収して積んで、夜を待つ。

 夜になると、四人の護衛と五人の人足を連れたアーマットが現れる。


「こんばんは、アーマットはん。武器を用意しました。確認してください」


 アーマットが箱を開けて、武器を確認する。

「確かに、武器を受け取りました。これは約束の『始原の薬』です」


 おっちゃんは五百㏄のガラス瓶に入った紫色の『始原の薬』を受け取る。


 翌日の昼に冒険者ギルドに戻った。


 冒険者ギルドに戻ると、セニアが浮かない顔で確認してくる。

「おっちゃん、調査が失敗したって本当?」


「うん、やらかした。自分の影を恐ろしいモンスターと見間違えたんよ。そんで、武器を捨てて逃げるように、冒険者に指示を出した。おっちゃんのミスやから報酬は払ったって」


 セニアが表情を曇らせて尋ねる。

「依頼人の判断による中止として、全員に報酬は払ったけど、本当にこれで良かったの?」

「ええよ。おっちゃんがびびりだったために失敗した依頼やからね」


 おっちゃんはその日は休んで次の日、早くに製鉄村に向った。


 製鉄村に着くと、カイヤが困った顔で出迎えた。

「ムストウが寝込んでしまいました」


 ムストウは、ぐったりとして、火の勢いも弱くなっていた。

「これが『始原の薬』や」とムストウの前に『始原の薬』を置く。


 ムストウがゆっくりと『始原の薬』を飲むと、ムストウから勢い良く炎が上がった。

「おおう、力が(みなぎ)ってきた。熱く心が燃え上がるようだ。もう大丈夫だ」


 おっちゃんは経費込みの報酬として金貨三十五枚を受け取り宿屋に帰る。

「さ、これで、仕事は終わりや。明日から休むで」


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