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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
タイトカンド編
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第百七十夜 おっちゃんとアイアン・タランチュラ(前編)

 有名な上級冒険者の失敗により、アイアン・タランチュラ討伐に挑戦しようとする冒険者は誰もいなくなった。掲示板に討伐依頼が貼られたまま、五日が過ぎる。


 おっちゃんが昼食を終えて宿に戻ろうとすると、冒険者の酒場にマルックが現れた。

 マルックが気さくに話し掛けてくる

「よう、おっちゃん。ちょっと相談に乗って欲しい話があるんだが、いいか」


 いい気分はしなかった。マルックが何を頼んでくるか、だいたい見当は付いていた。たいてい、こういう時は一番やりたくない仕事を人は持って来る

「話だけならいいけど、おっちゃんは今、休業中やで」


 マルックが気軽に発言する。

「知っている。セニアから聞いた。とりあえず話だけ聞いてくれ」


 マルックはおっちゃんを密談スペースに誘う。席に着くと切実な表情で切り出した。

「実は俺たち鍛冶師は今とても困っている。黒炭がなくても仕事ができないが、鉄がなくても仕事ができない」


「それはそうやろうな。ほんで話って?」


 マルックが切々と語った。

「知っていると思うが、アイアン・タランチュラが鉄鉱石の鉱床の上に居座って鉄が採掘できない。製鉄村は辛うじて近くに鉄が湧く『緑沼』の底を(さら)って、どうにか鉄を得ている状況だ」

「鉄が湧く沼なんてあるんやな」


 マルックが苦しい顔で依頼してきた。

「あるにはあるが、量が少ない。このままではいずれ製鉄は止まる。せっかく、黒炭が運べるようになって製鉄炉が使えるようになったのに、鉄鉱石がないんでは製鉄村はやっていけない。そこでだ、製鉄村を救ってくれ」


「おっちゃんかてどうにかしてやりたい。けど、既に上級冒険者が失敗している。簡単には行かんで」


 マルックは簡単に口にした。

「上級冒険者の力でどうにかならないなら、おっちゃんの知恵でどうにかして欲しい」


「そんなん、無茶振りやん。おっちゃんはしがない、しょぼくれ中年冒険者や。アイアン・タランチュラのような恐ろしい化け物なんてどうにもできん」


 マルックは、ほとほと困った顔をして深々と頭を下げた。

「製鉄村は土地が痩せて農業が不向きな場所にある。それでもやっていけた理由は鉄があったからだ。鉄は製鉄村の生命線なんだ。このまま製鉄が止まれば、身売りしなければいけない子供も出る。頼む、おっちゃん製鉄村を救ってくれ」


「おっちゃんは休業中なんやけどなあ」


 マルックが頭を少し上げて縋る顔で頼む。

「わかっている。わかっているが、そこはそれで、いったん復帰してくれ。もう、おっちゃんしか、頼る人間はいないんだ。おっちゃんに断られたら相談を持って行くところがない」


 マルックは簡単に引き下がりそうになかった。

「わかった。けど、製鉄村を救ったら、今度こそしばらく休業に入るからね。あと解決できるかどうか、わからんよ」


「ありがとう、おっちゃん」

 ホッとした表情で、マルックは帰って行った。


 マルックが帰って行くと、おっちゃんを待っていた人間がいた。ハイネルンの冒険者のカールで、明るい顔で依頼してきた。

「おっちゃん、大事な話がある。もちろん、おっちゃんにも利益になる話だ」


「ええ、またか? おっちゃんは今、別の仕事中なんやけどな。後でええか」


 カールが切実な表情で頼む。

「話だけでも聞いて欲しい、本当に重要な話なんだ。それに急ぐ話でもある」

「まあ、聞くだけなら」と、おっちゃんは密談スペースにカールと一緒に戻った。


 カールが神妙な顔で切り出した。

「おっちゃんが、モンスターと取引がある商人だと聞いた」

(あかんな、これ、もう、おっちゃんのこと噂になっとるな。公然の秘密、いうやつや)


 おっちゃんは一応、惚けてみた。

「さあ、なんのことやろうな。おっちゃんはなんの話かさっぱりわからん」


 カールが神妙な顔のまま話を続ける。

「わかった。なら、言い方を変える。手段は問わない。誰と取引してもいい。大地の精の毒を買ってきて欲しいんだ」


「なんで、そんな物が欲しいの」


 カールが真面目な顔で切り出した。

「ハイネルンの西部では、主食はジャガイモだ。ジャガイモが芋腐病で危機に瀕している。聞けば、タイトカンドでは大地の精の毒を『イヤマンテ鉱山』から買って被害の拡大を防いだと聞く」


「大地の精の毒を薄めたら、芋腐病には効くみたいやね」


 カールが表情を曇らせ、切に語った。

「ハイネルンは豊かな土地ではない。特にジャガイモを主食にしているハイネルン西部のハイネルン人にとって、芋腐病は脅威なんだ。このまま病気を食い止められないと餓死者が出る」


「なら、カールさんが『イヤマンテ鉱山』に行って、大地の精の毒を買ってくればええやん」


 カールが沈痛な面持ちで首を振った。

「やろうとしたが、駄目だった。『イヤマンテ鉱山』のモンスターには、ハイネルン人には売れないと言われた」


「軍隊で『イヤマンテ鉱山』を囲んだから、敵視されたんやな。当然やね」

「そこで、おっちゃんに俺たちの代わりに大地の精の毒を買ってきてもらいたいんだ」


 おっちゃんは二つの依頼を解決する方法に思い至った。おっちゃんはそっけなく伝えた。

「一つ確認したいんやけど、カールはんは、ほんまにタダの冒険者? それとも、実はあるていどハイネルンで地位のある人? タダの冒険者なら、御偉いさんを連れて来て。話の続きはそれからや」


 カールは数秒ほど迷ってから、神妙な顔で打ち明けた。

「わかった。正直に言う。俺はただの冒険者じゃない。ハイネルンでそれなりに地位のある人間だ。どうだろう、大地の精の毒を売ってくれないか」


「ええけど、高いよ。報酬は金貨やない。ハイネルンで開発した石化兵器が欲しい」


 カールが驚いた。

「なんで、ハイネルンの開発した石化兵器を知っているんだ」


「商人にとって、情報は命やからね。それで、どうするん? 石化兵器と大地の精の毒となら交換してもええで」


 カールが険しい顔で断った。

「無理だ。石化兵器は戦略兵器だ。輸出するわけにはいかない」


「ほな、貸してもらうだけで、ええよ。実はな製鉄村の近くの鉱床の上にアイアン・タランチュラが出て、困っているんよ。アイアン・タランチュラには普通の武器は効かん。だが、ハイネルンで開発した石化兵器なら、倒せると思うんよ」


 カールが難しい顔をしたが、決断した。

「わかった。石化兵器は貸せないが、アイアン・タランチュラは俺たちが退治しよう。だから、報酬として、大地の精の毒を渡してくれ」


「契約成立やね。ほな、準備できたら教えてや」



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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白い! [一言] 毎回毎回救ってくれ、何とかしてくれって頼り切りなのどうしようもないね。 僅かな要求の放っておいてくれという要求も無視するし。 そういう性分の男の物語として見てるから見れ…
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