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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
サバルカンド編
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第十七夜 おっちゃんとギルド防衛戦(後)

 サバルカンドの街には北門と南門があった。冒険者ギルドに近い門は南門。南門さえ閉じれば問題ないとおっちゃんは考えていた。


(北門から冒険者ギルドまで行くまでに相当に回り道しなければならん。溢れ出るモンスターは、街を制圧しようとはしていない。北門から出たモンスターが、ぐるりと城壁伝いに廻って冒険者ギルドを目指すとは考えづらい)


 北門を出たモンスターはそのまま餌を探して、四方に散って行くはずとの思惑があった。

 おっちゃんは空を飛んで新市街と旧市街を結ぶ南門を目指した。


 下を見れば巨大な蟲が至る所にいた。蟲の足音に混じって、悲鳴が聞こえている。


(予想していた以上に悲惨な状況や。どれくらい人間が生き残れるやろう)


 巨大な蟷螂(かまきり)が空を飛ぶおっちゃんに向かってきた。おっちゃんは剣を抜く。

 一突きの許に巨大な蟷螂を始末した。落下した巨大蟷螂に巨大な蟲のモンスターが群がり、蟷螂の死体を処理する。


 高さ十五mの大きな門が見えていた。門は鋼鉄製の大きな門だった。門は開ききった状態だった。


(やはり、門は開いとったか)


 門から続くダンジョン通りを、幾種類もの大型の獣が歩いている光景が見えた。


(獣型が出てきよった。獣型は虫型より下の階にいるはずや。門を閉じて、新市街への流入を止めないと、まずい。新市街に亜人型、精霊型、悪魔型が出てきたら終わりやで)


 門を観察する。トロルの力で押しても、閉まりそうに見えなかった。


(トロルが数人懸かりで押しても、無理やな。人間が手で押して閉めるタイプの門ではない。どこかに門を閉めるための機械か、魔法の装置があるはずや)


 門の右隣には高さ十七m、直径六mの円柱状の塔が設置されていた。塔の入口は門の横に存在した。扉は固く閉ざされており、付近には多数の獣型モンスターがいた。


(塔の上から入れないやろうか)


 塔の上端に移動する。

 床に、下へと続く跳ね上げ式の扉があった。跳ね上げ式の扉を上げようと、取っ手に手を掛けた。

 扉が開いた。覗き込もうとすると、剣が突き出てきた。


 間一髪、おっちゃんは剣の一撃を回避した。すぐに扉から離れた。

 扉の下から、剣が何度も突き出てきた。機械的な動きではないので、人間の仕業と見抜いた。


「ストップ、ストップ、ワシは人間やモンスターやない」


 おっちゃんの声が聞こえたのか、剣の突き出しが止んだ。

 膝を突いて、扉の下を覗き込んだ。


 扉の下は部屋になっており、鎧兜に身を包んだ衛兵がいた。

「ワシは、おっちゃん、冒険者や。あんたは、ここの守衛さんか」


 衛兵は、しゃがみ込んだ。

「そうだ、門衛のライアンだ」


「ライアンさん、すまないが、門を閉めて欲しいんよ。門が開いていると、新市街の南側にモンスターが溢れて、新市街の南側は全滅よ」


 ライアンが下を向き、苦しそうな声を上げて拒絶した。

「門は閉められない。命令がない」


「命令がないって、街はモンスターだらけやで。旧市街にあるお城だって、きっと包囲されている。城から伝令なんか、来るわけない。来たとしても、その頃には新市街の住民はモンスターの腹の中や」


 ライアンは苦痛に満ちた声で答える。

「それでも、命令がないと、門は閉じられない」


「ライアンさん、もしかして、怪我しているん。だったら、冒険者ギルドまで運ぶよ。冒険者ギルドに行けば、治療ができる。門は閉めてもらわんと、冒険者ギルドも陥落するんやけどね」


 ライアンは苦しそうに呻きながらも拒否する。

「ダメだ、ここを動くわけにはいかない」


(強情な男やな。どうあっても動きそうにないね。騙すようで悪いけど、仕方ないね。こっちも百人の命が懸っているんよ)


「おっちゃん、魔法が使えるんよ。ちょっと傷を見せて」


 跳ね扉から下の階に移動した。


 ライアンのいる部屋には下に続く階段と、大きなレバーがあった。

「もしかして、あの、レバーを動かせば、門は閉まるの?」


「そうだ」とライアンが苦しげに口にした。


 おっちゃんはライアンの傷口を観察した。


 ライアンの脇腹に大きな傷があり、出血していた。

(これは、あかん、重傷や。すぐに手当てをしないと)


 部屋に使えるものがないか見回すが、使えそうな道具はなかった。

 おっちゃんに傷を治す魔法は使えない。


「今、楽にしてやるさかいに」

『深き眠り』の魔法を掛ける。ライアンはすぐに眠りに落ちた。


 おっちゃんはライアンの傷を処置して、眠らせたまま冒険者ギルドに運ぶつもりだった。


 おっちゃんはレバーを握った。

 レバーは堅かった。全体重を掛けてレバーを引く。歯車が(きし)む音がした。


 跳ね扉から外に出ると、門がゆっくり閉まっていく姿が見えた。


「ちょっと待って、てや」


 おっちゃんは飛んで、冒険者ギルドに戻った。


 冒険者ギルドでは防衛戦が続いていた。皆はよく戦っていた。


 窓から戻ったおっちゃんは、大きな声を上げる。

「アリサはん、魔法の傷薬を持ってきて。傷に掛ける即効性のあるやつ。急いで」


 命令を受けたアリサが傷薬を持ってきた。傷薬を持ってライアンの許に急いだ。


「ライアンはん、今すぐ治療してやるさかいに」


 ライアンの許に着いたときには、ライアンは事切れていた。


(やりきれんな)


 感傷に浸っている暇はない。まだ、冒険者ギルド内では防衛線は続いている。

 おっちゃんは塔の最上階の跳ね扉に『施錠』の魔法を掛けて、冒険者ギルドに戻った。


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