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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
タイトカンド編
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第百六十六夜 おっちゃんと古参冒険者

 おっちゃんは炭焼き村で雲龍へのお土産用の黒炭を三十㎏買った。黒炭を背負って炭焼き村からタイトカンドまでの道のりを歩いて行く。


 霧が深くなって雲龍が現れた。

「どうも、おっちゃんです。お土産に黒炭を持って来ました」


 雲龍が鷹揚な態度で述べる。

「殊勝な心がけだな。どれ、貰ってやろう」


「今日はちょっとご相談があるんですが。雲龍さんが体の中に入れて吐き出した黒炭なんですけどな、人間の世界では『雲龍炭』と呼ばれて高い値が付くんですわ」


 雲龍が不思議そうな顔をした。

「そうなのか。人間とはわからぬ生き物だな」

「今まで食べてから吐き出した炭って、どこにあるか教えてもらうわけには行きませんか」


 雲龍が鼻を鳴らして、尊大に発言する。

「そんな物は霊峰に行けば山ほどあるぞ」

「霊峰にある雲龍炭を貰うわけには、いきませんやろうか」


 雲龍が軽い調子で発言した。

「いいぞ。好きなだけ、持って行け。ただし、持っていけたらな」

「どういう意味でっか」


 雲龍が忌々しそうに発言した。

「霊峰には今、厄介なモンスターが住み着いておる。そいつの吐く毒のせいで、定期的に体に黒炭を入れて体調を整えなくてはならないくらいだ」


「雲龍さんを苦しめるほどのモンスターですか。どんな奴ですか」

「岩でできた牙と、湿った土でできた体を持つ、猪の姿をしたモンスターだった。近づくと、体から毒のガスを噴出する。あの毒が厄介だ」


(あれ? それ、ベトムやんか。そんなに強いモンスターや、ないはずや)

「大きさと数を教えてください。どれくらいでっか」

「数は一体だが、全長百mは、優にあるぞ」


 無茶苦茶でかいベトムやん。巨大ベトムやん。そんなのがいるのか。厳しいの。

「わかりました。ベトムはこっちで排除します」


 雲龍が驚いた。

「やるのか」

「やらないと、『雲龍炭』が手に入らないんでっしゃろ」


 おっちゃんは冒険者ギルドに帰った。

「セニアはん。ちょっと、教えて。超巨大ベトムを退治したいんよ。ベトムに詳しい冒険者を紹介して」

 セニアが考え込む仕草をする。

「ベトムに詳しい冒険者ですか。ヨアキムさんかしら。ほら、あそこにいるお爺さんがそうですよ。ベトムだけでなくモンスター全般に詳しいですよ」


 ヨアキムは七十歳近い白髪の老冒険者だった。ヨアキムはよれよれ革鎧を着て顎鬚を生やしていた。

 ヨアキムは冒険者の酒場の片隅でワインをチビチビやっていた。


「なあ、ヨアキムはんって信用できる人」

「できますよ。見た目は、そこらへんにいるおじいちゃんですが、おそらく、タイトカンドで最高の冒険者です。仕事を頼むと腕に見合った金額を請求されますが」


(外見は、ピークを過ぎたお爺ちゃん冒険者やな。だが、この爺さん、腕は立つ。まず、姿勢が良い。なにより、一見、長閑(のどか)な空気の中に名刀のような輝きがある。できる冒険者の空気や)


 おっちゃんは、ヨアキムの正面に腰を下ろす。

「わいは、おっちゃん言う冒険者です。セニアはんから聞きました。ヨアキムさん、ベトムに詳しいんやて。よかったら、おっちゃんの相談に乗ってもらえまえんか」


 ヨアキムは飄々(ひょうひょう)とした態度で気楽に尋ねる。

「別に、詳しいってほどでもないよ。ただ、ちいとばかり長生きしているから、物を知っているだけじゃ。それで、この爺から何を聞きたい」


「よかった、相談に乗ってもらえて。おっちゃんが好きな物を奢るさかいなんでも注文して」


 ヨアキムは澄ました顔で、おっちゃんの提案を拒否した。

「施しは不要。ワシは、冒険者じゃ。仕事の依頼ならきちんとした報酬が欲しい」


 おっちゃんは気を悪くしなかった。お気楽な口調で依頼する。

「わかった。ほな、指名依頼でお願いするわ。依頼は討伐や。相手は百m越えのベトムや。できるか?」


 ヨアキムがにやりと笑い、気軽に発言した。

「できるが、高く付くぞ。金貨二百枚じゃ」


「わかった。ちょっと待ってや」

 おっちゃんは、今まで貯めた貯金を確認する。金貨で百二十枚が溜まっていたので金貨百枚を引き出す。


「ほな、前金で百枚、払うわ。あとは成功報酬ってことで、ええ?」


 ヨアキムは、おっちゃんが素直に金貨を持って来た態度に驚いた。

「お主、本当にそんな百m越えのベトムがいると思うのか。仮にいたとして、ワシに倒せると思っておるのか」


「ヨアキムはんができないと認めるなら、止める。でも、できる言うなら、同じ冒険者として信じる。おっちゃんはどうしても巨大ベトムを倒して『雲龍炭』を手に入れたいんよ」


 ヨアキムは金貨を数えてから、立ち上がる。

 おっちゃんは引き止めて聞いた。

「ちょっと、待って。ヨアキムはんを信用はする。でも、どうやって百m越えのベトムを倒すのか、教えて。さすがに普通の武器では通用しないやろう。それに、頭数もいるやろう」


 ヨアキムが明るい顔で気負わずに発言する。

「そこまで大きいと人数がいても役に立つまい。だが、ベトムには弱点がある。毒を吐くベトムだが、ベトムは木酢液が苦手なんじゃ。どんなに大きくなっても、ベトムである限り木酢液で倒せる」


「そうは言っても、百mを越えたら、生半可な量では倒せんやろう」


 ヨアキムは頭を人差し指で、頭を軽く叩く。

「頭を使えば簡単だ。ワシに任せておけ。おっちゃんは残金の算段と『雲龍炭』を掘る準備だけして待っておれ。準備ができたらワシが声を掛ける。それじゃ、調達する物があるからこれで失礼する」


 おっちゃんは鍛冶師ギルドにマルックを訪ねた。

「『雲龍炭』は霊峰にある。霊峰に『雲龍炭』を取りに行くで。準備してや」


 マルックが浮かない顔で否定的な発言をする。

「でも、霊峰には雲龍がいるだろう」


「今は、いないみたいやな。代わりに、百m越えのベトムがおる。ベトム退治は、冒険者のヨアキムはんに依頼した。報酬は、金貨二百枚。おっちゃんが半分を出すから成功したら金貨百枚を出して」


 マルックが渋い顔で、やんわりと意見した。

「成功したら、でいいなら出してもいいが、おっちゃんは儲けがないだろう」


「もちろん、おっちゃんも報酬を貰うよ。運ぶのに成功したら『雲龍炭』の半分ちょうだい」

「そっちも、成功したら、だからいいけど、俺は難しいと思うぜ。ヨアキムさんが凄い冒険者だとは認めるが、それは二十年も前の話だからな」


 おっちゃんは自信を持って発言した。

「おっちゃんはヨアキムはんが勝つほうに賭けた。それだけや」


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