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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
タイトカンド編
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第百六十四夜 おっちゃんと尋ね人

 翌日に、石化した霞人を元に戻す。翌々日に、タイトカンドに戻る前に長老に挨拶をしに行く。

「ほな、村人も元に戻りましたんで、おっちゃんはタイトカンドに帰りますわ」


 長老が改まった態度で申し出た。

「おっちゃんには世話になったな。大した礼はできんが、礼がしたい。なにか必要な物はないか」

「『霊金鉱』か『霊金鉱』でできたアクセサリーはありますやろうか」


 長老が申し訳なさそうに口にする。

「すまんな。我々は人間のように、アクセサリーを身に着ける習慣がないんじゃ」

「なら、冒険に役立つような魔法薬なんか、ありましたらいただけますか」


「毒消しくらいしかないが、いいかの」

「ありがたく頂戴します。貰ってばかりやと悪いんでワインを置いていきますから。皆さんで飲んでください」


 おっちゃんは五十㏄瓶に入った毒消し十二本と高級ワイン六本を交換した。

『瞬間移動』を使いおっちゃんはタイトカンドに帰った。


 おっちゃんは人が空いている時に、セニアに話し掛ける。

「セニアはん、ちょっと教えて。ハイネルンの冒険者が人を探しているって聞いたんやけど、誰のことかわかる?」


 セニアが少し考える仕草をしてから思い出す。

「そういえば、人探しをしているハイネルンの冒険者さんがいましたね。私も似顔絵を見せてもらいました。探している人の名前は、ガルベルクさんです。なんでも、魔道具の技術者さんです」


(霞人の集落で使われた石化の魔道具と、消えた魔道具の技術者か。関係ありそうやな)


「もう、見付かったん?」

「まだのようですけど、見つけたら、報酬が出るらしいですよ」


 おっちゃんは酒場で、一人じっと考える。

(ハイネルンで石化の魔道具を開発して軍事転用しようとしている。ただし、味方に犠牲者が出ては困る。なんで、対抗策となる『霊金鉱』でできた石化耐性アクセサリーを作ろうとしているんやな。おそらく、ここまでは合っている)


 おっちゃんはエールを飲みながら思索する。

(石化の魔道具を開発した人間は、ハイネルン人のガルベルクや。だが、なんらかの理由で、ガルベルクがハイネルンから逃げ出した。ハイネルンではガルベルクを追っているようやが見付からん。霞人の村まで探しているところを見ると、もう探せる場所はあらかた探したんやろう)


 ハイネルンの手を逃れて隠れられる場所といえば、思い当たる場所は一箇所しかなかった。

(ガルベルクが隠れている場所は、『イヤマンテ鉱山』やな。『イヤマンテ鉱山』には知り合いおらん。霞人の紹介で話を聞きに行って見るか)


 おっちゃんはその日は眠りに就いて、翌日に霞人に会いに行こうとした。


 朝起きて食事をしていると、冒険者ギルドに血相を変えた冒険者が駆け込んできた。

「大変だ。ハイネルンの軍が国境を越えて攻めてきた」


 街に出ると、街にある二つの門は閉鎖されていた。兵士が慌ただしく城壁の上に上がって行く。

 街は防衛態勢に移行する真っ只中だった。

(兵士の動きが速い。城の人間は今日の事態を見越していたんやな)


 冒険者ギルドに戻った。下手に動けないので、冒険者ギルドで時間を潰す。

 昼になると兵士が冒険者ギルドにやって来て、奥へと消えて行った。


 しばらくすると、冒険者ギルドのギルド・マスターのウルマスと兵士が一緒にやって来た。

 ウルマスは今年で五十になる熊のような大男だった。顔は髭面で四角い鬼瓦のようにおっかない顔をしていた。


 ウルマスが兵士を見送ってから冒険者一同に声を掛ける。ウルマスが険しい顔で発言する。

「ハイネルン軍が国境を越えて進軍してきた話はすでに聞いていると思う。ハイネルンの目的はタイトカンドの攻略ではなく『イヤマンテ鉱山』だと判明した」


「戦争になる懸念はないんですね」と、誰かが不安げな顔で質問する。


 ウルマスが怖い顔で説明する。

「現時点ではない。だが、ハイネルンの軍が国境を越えてきたとなれば王都リッツカンドが黙っているわけがない。展開によってはこの街が前線になる可能性がある」


 ウルマスが一度、言葉を切ってから冒険者を怖い顔をして見渡した。

「諸君らは冒険者だ。もし、街を出るなら止めはしない。戦争で一旗あげようとする気概を咎めたりもしない。全ては諸君らの判断に任せる。だが、『イヤマンテ鉱山』に行くのだけはやめろ。それだけだ」


 ウルマスが踵を返して奥に戻って行った。冒険者たちがあれこれと議論を開始する。

(ハイネルンの目的がガルベルクの捜索なら、時間が経てば撤退するやろう。だが、『霊金鉱』や『重神鉱』の採掘ならここは前線になる。戦争になったら逃げるしかない。でも、しばらくは様子見やな)


 おっちゃんは事態を静観しようと決めた。多くの冒険者もすぐにはタイトカンドを出て行こうとしなかった。

 一週間もすると戦争の噂を聞きつけたのか、傭兵たちが売り込みにタイトカンドを訪れるようになった。


 街では矢や武器の輸出がストップして領内向けに買い占められた。ライ麦、肉製品、乳製品を輸入に頼っていたタイトカンドでは食糧が値上がりし出した。


 ジャガイモだけは近隣で豊富に取れるので値上がりを免れた。冒険者の店でも料理に使われる肉が小さくなり、ジャガイモの割合が増えた。


 誰かが噂する。

「戦争になるな。タイトカンドが主戦場になる」

「国王は南のアントラカンドに兵を集めるようだ」

「領主のボルゲはハイネルンに寝返るかもしれない」


 不安な中、様々な噂が飛び交う。

 戦争の機運が飛び交う中、冒険者ギルドに一報が入る。


「ハイネルンが『イヤマンテ鉱山』の囲みを解いて撤退して行った」

 冒険者ギルドに安堵の空気が流れた。


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