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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
タイトカンド編
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第百六十二夜 おっちゃんと黒炭運搬(後編)

 翌日ヘルッコが冒険者ギルドにやって来た。おっちゃんは威勢よく切り出した。

「よし、ええやろう。ヘルッコからリューリに頭を下げる。組合員の差別を止めるのなら黒炭の件はおっちゃんがどうにかしてみる」


 ヘルッコが深々と頭を下げた。

「ありがとうございます」

「ただし、炭を全部運ぶ行為は無理や。運べる量は、おそらく七割ていどやと思って」


 おっちゃんは炭焼き村に行く。黒炭三十㎏を背負ってタイトカンドに向って歩いた。

 不自然に霧が濃くなってきた場所で黒炭を下ろす。しばらく待つと、霧の中から雲龍が現れた。


「待っとったで雲龍はん。今日はちいと話があるねん」


 雲竜は襲ってこなかったが、返事もしなかった。

「なら、おっちゃんから勝手に話すで。黒炭が欲しいのなら構わんけど全部は取りすぎや。全部を持っていかれたら、炭焼き村も人間の街も潰れてまうよ」


 雲龍が鼻を鳴らして、傲岸な態度で答える。

「我に話し掛けてくるとはいい度胸だが、そんな人間側の事情なんて知ったことではない」


 おっちゃんは軽く脅しに出た。

「この先の炭焼き村が潰れたら、上質の黒炭が手に入らなくなるよ。そうなれば、雲龍さんかて困るやろう。人間たちの間では黒炭に毒を入れようかとか、腹の立つほど強い冒険者を投入しようかいう話も出ているんよ」


 雲龍が怒気(どき)(はら)んだ声で言い放った。

「我にどうしろというのだ」

「黒炭を通行料として納めるから、黒炭の運搬を認めて」


 雲竜は強い口調で発言した。

「なら、半分は貰おうか」

「それは高いわ。今までだって、ごっそり持っていったでしょう。精々三割やわ」


 雲龍が怒った声を出す。

「それじゃあ、少ないわ」

「わかった。こうしよう。荷馬車三台分に負けて。荷馬車三台分もあれば充分やろう」


 量に満足したのか雲龍は即答した。

「わかった。とりあえず、次の時は荷馬車三台で手を打とう」


 おっちゃんは街に戻ると、鍛冶師ギルドのヘルッコを訪ねた。

「よし、明後日、黒炭を買い付けに行くで。荷馬車を十台用意してや」

「荷馬車十台は用意できると思いますが、護衛はどうします」


「護衛は十人もいればええ」


 ヘルッコが不安げな顔で訊いて来た。

「前回は五十人近くいたのに、死者も出たんですよ。大丈夫ですか」

「信用してや。あと、黒炭の買い付け代金は貸してもらわねばならんからね」


 翌々日に、大型の荷馬車十台と冒険者十人からなる買い付け隊がタイトカンドを出た。

 おっちゃんは炭焼き村で黒炭を買うと、縦に長い隊列を取って炭焼き村を出た。


 霧が不自然に濃くなって来たところで、指示を出す。

「あかん、雲龍の気配が近づいている。後方三台の黒炭を捨てるんや。雲龍が置いてある黒炭に気を取られているうちに前の七台を運ぶ。急げ」


 前の七台の荷馬車が進み。冒険者の手によって、後ろ三台の荷馬車から黒炭が道に捨てられた。

「ほら、早く行くで。雲龍に見付かったら危険や」


 十人の冒険者を伴って、空になった三台の荷馬車が速度を上げて進む。

 霧が晴れたところまで来ると、一団が安堵する。


 安全だと思うが、注意を喚起する。

「安心したら、あかんよ、納品するまでが仕事や。ここで盗賊にでも遭ったら全てがパーや」


 無事に鍛冶師ギルドまで着き、荷馬車の到着に歓声が沸いた。

 ヘルッコが出てきて感謝の言葉を述べる。


「ありがとうございます。これで、職人も作品が作れます」

「十台中七台しか運べんかった。堪忍してや」

「七台分もあれば充分です」


 精算をする。買い付けた黒炭は四tで金貨が四十枚。大型の荷馬車と馬のレンタル代金が十セットで金貨三十枚。護衛の冒険者と御者の給与に金貨十枚。売却する黒炭が二・八tで一㎏あたり銀貨四枚なので、売り上げが金貨百十二枚。利益が金貨三十二枚となった。


(これは、リスキーやな。成功すれば金貨三十枚以上に儲かるけど、失敗すれば、金貨八十枚以上の損や。雲龍と取引が成立しとるからできるけど、普通の商人なら躊躇う取引やね)

 貯まった金はなくすと困るので冒険者ギルドに預けた。


 翌日、炭焼き村で三十㎏の黒炭をお土産に買ってから雲龍に会いに行く。

「いやあ、先日はご協力ありがとうでした。これ、お土産です。食べてください。ところで、質問なんですが、雲龍はんどこか体の具合が悪いんですか」


 雲龍が不機嫌に問い返す。

「なぜ、そんなことを聞く」


「雲龍はんは体の調子が悪い時に、黒炭を食べるって聞いたものですから。それで、吐き出した炭はどこにとってありますか。できれば、回収したいんですわ」


 雲龍が凝縮した黒炭の塊である『雲龍炭』を吐いた。

「ほら、欲しいなら、持って行け」


 おっちゃんはぺこぺこして礼を述べた。

「いいんですか。ありがとうございます」


 おっちゃんは『雲龍炭』の塊を担いで『瞬間移動』で帰ろうとすると、雲龍が警告した。

「ワシの霧の中で『瞬間移動』は使わんほうがいいぞ。どこに出るかわからない」

「そうでっか。ありがとうございます」


 おっちゃんは重たい『雲龍炭』を担いで霧のない場所まで移動する。それから『瞬間移動』でタイトカンドまで飛んだ。


『雲龍炭』を背負ってリューリの鍛冶場まで歩いて行く。

「リューリはん。変わった炭が手に入ったんよ。ちょっと見て」


 出てきたリューリが『雲龍炭』を手にすると顔色を変えた。

「親方、ちょっと来て。おっちゃんが『雲龍炭』を持って来た」


 アーロンがすぐに出てきた。『雲龍炭』を見ると真剣な顔で尋ねる。

「これは間違いない。『雲龍炭』だ。どこでこれを手に入れた」

「道に落ちとった」


「『雲龍炭』を俺に売ってくれ。今は持ち合わせがない。だか、作品が売れたら、あとで必ず払う」

「ええよ。これ、上げるわ。ただし、条件がある。ヘルッコが頭を下げにくるから、マルックとも仲直りせんとあかんよ。二人の仲がこじれたことで、多くの人が気に病んでいるからね」


 アーロンがすぐに「うん」と言わないと、リューリが口を開く。

「私のことなら、もういいです。これがあれば『霊金鉱』が精錬できます。例の依頼を受けられますよ」


 アーロンが考え込むので、おっちゃんの意見を伝える。

「まあ、ええわ。すぐに仲直りが無理だと言うならこれを見ながら考えて。仲直りできない時は『雲龍炭』を返して。可哀想なマルックにやるわ」


 おっちゃんは踵を返して冒険者の店に戻った。


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