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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
タイトカンド編
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第百五十八夜 おっちゃんと霞人(後編)

 エステリアが短刀を取り出し『光』の魔法を唱えた。エステリアの持つ短刀に光が宿った。

「暗いから注意してくださいね」


 エステリアを先頭に霧の掛かった夜の谷を上って行く。八分ほど進んだ。

「ほら、あそこ」とエステリアが声を出す。


 よく見えなかったが、近づくと紫の花を咲かせる草があった。セニアに教えてもらった、仙人草だった。おっちゃんは仙人草を摘んだ。


「あそこにも」とエステリアが仙人草の場所を教えてくれる。エステリアはすぐに仙人草を四株、発見した。おっちゃんはいわれるがままに仙人草を摘んだ。


(ほー、霞人は夜目が利くだけやないな。霧の中でもどこに何があるかわかるんやな)


 おっちゃんはダンジョン流剣術が使えた。ダンジョン流剣術の中には聴覚、視覚、嗅覚、触覚が効かない状態でも相手の位置を知る『天地眼』と呼ばれる技があった。おっちゃんは『天地眼』を修得しており、半径三m以内であれば霧の中でも物の位置がわかった。


 エステリアが五株目を探して谷を上ってゆく。

「ほら、ここにも」とエステリアが仙人草のある場所まで歩いて行った。おっちゃんは仙人草を採りにいこうとして、一m先には地面がない状況に気が付いた。


 五株目の仙人草は宙に浮かんでおり、エステリアも同じく宙に浮かんでいた。

(なるほどのう。仙人草の幻を作り出して、そこに誘い込んで谷底へ落とすんか、魔法を唱えた形跡がないから、幻を作った技も、宙に浮いているのも、生まれつきの能力っちゅうわけか。おっちゃんの変身みたいもんやのう)


 おっちゃんは地面のある場所で踏み止まる。

「どうしました。おっちゃん」とエステリアが誘う。エステリアの顔はにこやかな笑顔だが、声には僅かに焦りの色が滲んでいた


「すんまへん。どうやら、おっちゃんはそこまで行けないようですわ。おっちゃんに羽はないですからね。その仙人草はエステリアさんに上げますわ」


 エステリアの顔が険しくなり短刀を構えた。

 おっちゃんも剣に手を掛ける。エステリアはそのまま宙を浮くように後退して行って、霧の中に消えた。エステリアが消えると一m先にあった仙人草も消えた。


 しばらく警戒したが、エステリアの気配は感じなかった。おっちゃんはワーウルフに変身して、チーズの匂いに嗅覚を集中する。


 遠くからチーズの匂いがした。おっちゃんは『暗視』と『飛行』の魔法を唱えて、夜の霧の中を慎重に進む。しばらく空を進むと霧が晴れてきた。


 霧の向こうには大きな崖が見えてきた。崖の上には体長二十mの立派な翼を持つ緑色の龍が眠っていた。おっちゃんは龍を偽物だと見抜いた。

(ほんまによくできているけど、存在感とか生活感が欠けているね)


 龍に近づくと龍が消えてテントが立ち並ぶ村が現れた。

 おっちゃんはワーウルフから人間に姿を変えて村の端に下り立った。


 村から恐ろしい姿をしたモンスターが何十体も現れて、近づいてきた。

(数は多いけどほとんど偽物やね。実体を伴っている相手は精々二人か三人やね)


 モンスターがおっちゃんを取り囲んだ。一つ目鬼のモンスターが恐ろしい声を上げた。

「人間、ここに何をしに来た」


「なにってねえ、エステリアはんを追ってきたら、ここに辿り着いたんですわ。エステリアはんおられますか。エステリアは偽名かもしれませんけど」


 一つ目鬼が吠える。

「エステリアになんの用だ」


「エステリアはんと一緒に仙人草を採りに行ったんですわ。四株が採れたんで二株はエステリアはんの取り分やと思うんですけど、どこか行ってしまったんですわ」


 モンスターの群れを掻き分けてエステリアが出てきた。エステリアが険しい顔で言った。

「どうして、ここがわかったの」


「変身できるのが、エステリアはんだけだと思ったら、間違いですよ。おっちゃんも、できるんですわ」


 おっちゃんは顔をワーウルフに変えた。

「エステリアはんのフードに入れたチーズの匂いを追ってきました」


 エステリアがフードを探って、小さなチーズ片を見つけて顔を歪める。

「まさか、あの時にチーズの破片を。でも、どうして、あの時はまだ正体はばれていなかったはず」


「いいや、一目ちらっと見た時から、エステリアはんは人間やないとわかりましたよ。おっちゃんはちいとばかり変身には五月蝿(うるさ)いですからね。ほな、仙人草の取り分ですけど、四株が採れたんで、二株でええですか」


 エステリアが不機嫌に答える。

「あげるわよ。そんなもの。ここじゃあたくさん採れるからね。それで、私を追っかけてきた本当の理由は何?」


「霞人とお知り会いになりたかったんですわ。時々、行商に寄らせてもらっていいですか。おっちゃんは商人の真似事なんかもしているんですわ。人間の街で買ってきたものを、仙人草なんかと交換してくれると嬉しい」


 エステリアが不機嫌な顔をして、強い口調で拒絶した。

「とりあえず、今日は帰って。必要なものは今はないわ」


「そうですか。まあ、おっちゃんも今日は商品を持って来てないので帰ります。あと、おっちゃんは『イヤマンテ鉱山』に出入りして、商いをしたいんですわ。よかったら誰か紹介してもらえますか」


 エステリアが腰に手を当てて、ムッとした顔で発言する。

「無理ね。良く知らない人を大事な場所に紹介なんてできないわ」


(そうやろうね。繋がりがあるのなら、簡単には紹介できないのはわかる。でも、エステリアはんの話だと危機は乗り切ったらしいから、急いで取り入る必要もないやろう)


「そうですか。では、今日のところは帰ります。そんでもって、何度か取引させてもらって信用を得たら『イヤマンテ鉱山』に出入りしたいと思います。ほな、また来ますわ」


 おっちゃんは村に背を向けて飛び立った。

『幻谷』から離れた場所で一夜を明かしてから、タイトカンドの冒険者ギルドに戻った。


「セニアはん仙人草を採ってきたで。換金してや」

 セニアが仙人草を確認して、明るい顔をする。


「これ、夜咲きの仙人草ですね。花の咲いている仙人草は買い取り価格が高めです。一株が銀貨四十八枚ですから、金貨一枚と銀貨九十二枚になります」


(夜咲きが高いの情報はほんまやったんやな)

「なえ、セニアはん。霞人が欲しがる物って何か知っとる? 知っていたら教えて欲しい」


 セニアが不思議そうな顔をして教えてくれた。

「霞人は香のよいワインと黒炭を欲しがるって聞いた覚えがあります」


「ワインはわかるけど、黒炭なんてなんで欲しがるの。霞人は寒がりなんか?」


 セニアは首を傾げる。

「わかりません。ただ、ここら辺りの昔話だと黒炭を欲しがる霞人の話は有名ですよ」


(黒炭なんか、ええのか。どれ、持っていってみるかの。それで駄目なら他の物を持って行けばええ)


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