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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
アントラカンド編
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第百五十四夜 おっちゃんとジョブ・フェスタ(後編)

 フィルズの許に戻って、『サバルカンド迷宮』に情報が来ていない事実を告げる。

 フィルズが機嫌よく答える。

「どこかで情報が止まっているな。すぐに人を派遣しよう。三万の受け入れはでかい」


 フィルズが『瞬間移動』を修得している担当者を『迷宮図書館』から急遽、派遣した。

 会場の準備と求人票をセットにした冊子を確認する。会場と配布物は大方できていた。


「よし、あとは人員の移動やな。『狭間の霧』は使えるか?」


 フィルズが明るい顔で頷いた。

「可能だな。ここまで来てもらえれば、各ダンジョンを行き先とした『狭間の霧』を『迷宮図書館』より発生させられる。問題はアントラカンドから『迷宮図書館』までの道のりだ」


「それは、おっちゃんがどうにかする。幸い人間が持ってきた『狭間の霧』の発生装置がある。装置の使い方を教えてくれるか」


 おっちゃんは『狭間の霧』の発生装置の詳しい機能と使い方を教わった。説明を受けると難しい操作はなかった。


 フィルズが説明を終えると、付け加える。

「説明は以上だ。あと、閉鎖された空間に『狭間の霧』を発生させる行為は避けてくれ」

「使うとどうなるん」


「事故を起こして予期しない場所と繋がったり、暴発して地震のような揺れを発生させたりする危険性がある。安全に移動させたかったら、魔道具は開けた場所で使ってくれ」


 翌日には、『サバルカンド迷宮』と連絡が付いた。『サバルカンド迷宮』は明日にでも人が欲しいとの話だったので、ジョブ・フェスタの開催を急ぐ。


「良い感じになってきたで。人もアンデッドも、両方とも救えるかもしれん」


 二日後に、ダンジョン・モンスター・ジョブフェスタが開かれる次第になった。

 おっちゃんは、アントラカンドに戻った。報告を待っているアンデッドたちに話をしに行った。


「ジョブ・フェスタの日取りが決まって、明後日や」

「おーー」とアンデッドたちから歓声が上がる。


「求人倍率は約一・三三倍や。選ばんかったら、どこかに就職できる。求人の詳しい中身や、待遇については、会場で訊いてくれ。明日の夜から移動を開始するから待っといてや。あと、移動に際して人間に手出しする悪い子は会場まで連れていかんからね。そこだけはしっかり覚えていて」


 魔術師ギルドの地下から出ると、グリエルモに会いに行く。

「明日、アンデッドたちを魔術師ギルドの地下から出す。グリエルモはんはアンデッドを地下から出す階段を作るのと、誘導を手伝ってや」


 グリエルモは浮かない顔をする。

「俺が手伝うのはいいけどアンデッドは魔法で制御されているわけじゃない。地下から出したら街の人間を襲う心配はないか」


「このまま放っておいても解決する問題やない。たとえアンデッドたちを地下に封じ込めたとしても、アントラカンドはずっと地下に爆弾を抱える事態になる。そっちのほうが危険や」


 グリエルモが難しい顔をする。

「確かにハイネルンは滅びたわけじゃない。アンデッドを放っておけば、きっとまた、アントラカンドを攻めるために使う可能性があるな」


「そうや。だから外に出さなあかん」

「アンデッドをアントラカンドの外に出して、おっちゃんはどこに連れて行く気だ。五万人のアンデッドだ。村や街を簡単に滅ぼせる存在だ。野放しにしたら危険だ」


「アンデッドは、おっちゃんが『迷宮図書館』に誘導して、ダンジョンの奥底に封じる」

 ジョブ・フェスタがどうのと言っても信じてはもらえない。なので、ジョブ・フェスタの話はしなかった。


(行き先がダンジョンなのは、嘘を吐いてとらんけどね)


 グリエルモは懐疑的だった。

「上手く行くかな」

「行かせる。でないと街は終わりやで。何事にもリスクは付き物や。おっちゃんには勝算がある。その上で頼んでる」


 グリエルモが力強く頷いた。

「わかった。領主のザイードにもお願いして協力してもらおう」


 翌日は朝から慌ただしかった。急遽、アンデッドが大量に魔術師ギルドから出て街の大通りを通る、と公表される。


 夜に向けて兵士による交通規制が始まった。

(アンデッドを引き連れての行進は眼につく。残念やけどこの街とはお別れやな。冒険者の仕事も激減しているから良い頃合いかもしれん)


 街を去るには未練もあったが、ほとぼりが冷めるまでは帰らないつもりだった。

 おっちゃんは宿を引き払う準備をする。精算を済ませると、最後尾と書かれたプラカードを作って、夜になるのを待った。


 日が落ち、魔術師ギルドから街の外へ続く大通りに兵士が配備される。

「さあ、いよいよ、アンデッドを引き連れての行進や。ジョブ・フェスタの始まりや」


 おっちゃんは、チューバに似た魔道具を肩から提げると、魔術師ギルドに向かった。

 魔術師ギルドの地下に続く入口には、グリエルモが待っていた。


「グリエルモはんにも協力してもらいたい仕事がある。最後のアンデッドが出てきたら、このプラカードを持って、列の後ろを()いてきてくれるか」


 グリエルモがプラカードを怪訝に眺めて、感想を述べる。

「いいけど、なんかイベントの誘導みたいだな」


(ジョブ・フェスタに行くんで、イベントで間違いないんやけどね)

 おっちゃんがドアを開けて、『光』の魔法をワンドとプラカードに掛ける。


 グリエルモと一緒に下りて、行き止まりの柵のところまで来た。グリエルモが『石壁』の魔法をアレンジして、柵のある場所から下までの階段を作った。


 おっちゃんは『死者との会話』と『拡声』の魔法を掛けて指示する。

「ほな、三列になって従いてきて」と指示を出した。おっちゃんを先頭に、アンデッドたちがぞろぞろと従いてくる。


 魔術師ギルドの外に出ると、アンデッドを先導するおっちゃんを、街の兵士が恐怖の眼で見た。

 アンデッドたちは、おとなしくおっちゃんに従いてきて、街の外までやって来た。


 門から三百mほど離れた場所でおっちゃんは魔道具を起動させる。レバーを廻して直径十mの『狭間の霧』でできたドームを造る。


「さあ、この中を通って。出た先に係の人がいるから誘導に従ってや。慌てたらダメやで。ジョブ・フェスタは逃げんからな」


 アンデッドが続々と『狭間の霧』のゲートを潜った。

 おっちゃんは、グリエルモがやって来るのを待った。

 二時間後に、やっと最後尾のプラカードを持ったグリエルモがやってきた。


「ご苦労さん。これで、全部か?」

「全部だよ」とグリエルモが口にしたので、グリエルモに鍵となるワンドを渡した。


「ほな、これで、鍵を掛けておいて。おっちゃんはダンジョンの奥まで行ってくるわ」


 グリエルモが寂しげな顔で尋ねる。

「おっちゃん。なんで、ここまで街のためにしてくれるんだ。おっちゃんにとっては他人の街だろう」


「それはグリエルモはんや、ハキムはんがいるこの街が好きやからや。ほな、行ってくる。またな」


 おっちゃんは、グリエルモに背を向けて、『狭間の霧』を潜った。

 霧の中を百mも進むと、待機場所になっている『オルトカンド廃墟』の外縁に出た。


「無事到着と。アントラカンドは救えた。ここから、アンデッドたちを救う番や。無事にどこかに就職先が決まるとええな」


『拡声』で大きくなったフィルズの声が響く。

「『迷宮図書館』主催のジョブ・フェスタへ、ようこそ。ジョブ・フェスタは明日の朝から始まります。開始までに、求人冊子に眼を通して、どこのダンジョンに応募するか決めておいてください。あと、質問事項などありましたら、係員の腕章をした木乃伊(みいら)へお問い合わせください」


 フィルズの話が終わると、すぐに係員の木乃伊を取り囲むアンデッドの輪ができた。

 どのアンデッドも、就職に熱が入っていた。


「無理もないか。ずっと暗い場所でなにもせず、(くす)ぶっていたんやからな。自分を活かせる場所があればそこに行きたいはずや。頑張りや。おっちゃんにできるお手伝いは、ここまでやからな」


 おっちゃんは、実施本部がある廃市役所で待機する。


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