表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
アントラカンド編
148/548

第百四十八夜 おっちゃんと救出作戦

 一日を掛けてティムの村に向った。ドーム型になっている霧の固まりが見えた。近づくに連れ、霧は濃くなる。

「規模は小さいがアントラカンドに出た霧と同じやつやな」


 霧によってバラバラになる前に、おっちゃんはティムと『荒野の嵐』にロープを持つように指示する。

 おっちゃんはコンパスを見ながら銀の針の指す方向に進んだ。霧が少し薄くなると、村の入口が見えてきた。


 ティムが感嘆の声を上げる。

「やった。村に入れた。おーい、皆、助けを呼んできたぞ」


 ティムの呼びかけに反応して建物中から赤牙人が出てきた。赤牙人は、おっちゃんたちを見ると村の中に駆け込んだ。


(人間が来たなら、当然の反応やね)


「ここで待とうか」と、おっちゃんは村の入口で待っていた。すると、モランが数人の村人を連れて出てきた。


「こんにちはモランさん、久しぶりですな。おっちゃんです。ティムから救助要請があったんで冒険者を引き連れて、村を助けに来ました」


 モランはおっちゃんを強く見据えて言い放った。

「人間を村に入れるわけにはいかない」


「緊急時にそんな言葉を言ったら、いかんよ。なに、すぐ終わりますさかい。おっちゃんを信じて村の中に入れてー。それとも、この状況を打開する方法があるん?」


 モランは怒りの篭った声を発した。

「この霧は人間によって(もたら)されたものだ」


(なんや、モランはんは霧の発生について知っているようやね。これは、助けて話を聞いておいたほうがいい)


「なら、人間の手によって掃われてももええやろ。意地を張って村を危険に(さら)したらあかん。もっと柔軟に考えないと、下の者や弱い者が困る。弱い者を守るのは村長の務めでっしゃろ」


 モランは数秒黙ってから、強い口調で発言した。

「わかった。霧を掃えるものなら、やってもらおう」


「ほな、『荒野の嵐』さん、今朝の要領でお願いします。皆さんは危ないんで、家に入っていてください」


『荒野の嵐』の魔法使いが『高度な発見』を唱えて、霧を制御している存在を探した。『マーキング』で存在を浮かび上がらせる。


 霧が大きな人の顔状に集まった。魔法使いが弱点の箇所を光で印を付ける。

 弱点が浮かび上がると、『荒野の嵐』が怒涛の集中攻撃を浴びせた。二分と掛からずに、霧の魔物は破壊された。


 空に直径一mほどの黒い穴が開くと一気に霧が穴に吹き込んでいった。全ての霧が穴に吸い込まれると、村の上空に青空が広がっていく。


「はい、終了。『荒野の嵐』さんありがとうございます。村の皆さん出てきていいですよ。全部、終わりました」


 モラン以外は家から出てこなかった。モランが複雑な顔で礼を述べる。

「助かった、人間よ。このあと、歓迎の宴などやるが参加していくか」


 スティーブンが乱暴に答える。

「遠慮しておくよ。あまり歓迎されていないみたいだしな。おっちゃん、仕事は終わった。俺たちは一足先にアントラカンドに帰るが、いいか?」


「さすが信頼と実績の『荒野の嵐』や。ありがとうな。また何か縁があったら仕事を頼むわ」

「ああ、機会があったらな」とスティーブンたちが不機嫌な顔で村を去った。


 家屋から赤牙人が出てきた。モランが表情を和らげて、おっちゃんに向き合う。

「助けられたな。感謝する。おっちゃんは、歓迎の宴には参加してくれるんだろう。すぐにデザート・リザードを狩ってきて、肉の準備をする」


「お招きいただき、ありがとう。でも、勘違いしたらあかんよ。村を救ってはティムからの依頼や。仕事料もきちんと発生する。岩サボテンが百三十個でええよ」


 モランが控えめな態度で、やんわりと申し出た。

「そんな草ばかりじゃ悪いから、もっといい物を渡すよ。狩りにいかないと食糧がないから。まず、村で待っていてくれ。肉がなきゃ宴は始められない」


 おっちゃんは村の家で寝転がって、宴の準備ができるのを待った。

 モランたちは五十㎏クラスのデザート・リザードを狩ってきて、調理を始める。


 夕方の前にはデザート・リザードは全て解体され、焼けた肉の塊になっていた。

 おっちゃんはモランの隣に設けられた席に着く。宴には、百人以上の村人が参加した。


「村を救ってくれた恩人に乾杯」の合図で宴が開始される。

 他の者が食事に手を付け易いように、真っ先に肉を頬ばる。よく焼かれ脂が載った部位のデザート・リザードの肉は美味しかった。


 宴の間におっちゃんはモランに聞いた。

「あの霧が人間によって齎されたとか、言っていたでしょう。何か知っとるん? 知っていたら教えてくれるか。おっちゃんも気になっているんよ」


 モランが顰めた顔で教えてくれた。

「村の人間が見たんだ。村の近くで、冒険者が不思議な道具を使って霧を噴出させる場面をね」


 目撃した村人を呼び道具の形を地面に棒で描いてもらう。

 道具は手回しレバーがついた、チューバのような道具だった。村人の話では冒険者がチューバに付いているレバーを回すと、勢いよく大量の霧が噴き出したと証言した。


「どんな冒険者やった?」と訊くと「冒険者って種類があるのか」と逆にきょとんとした顔で訊かれた。


(おっちゃんも赤牙人の区別があまり付かんように、赤牙人にも冒険者の区別は付かんか。でも、誰かが何かの目的でやっている状況はわかった)


 宴が終わり一泊する。翌日、村を出ようとした時に、おっちゃんはモランから長さ十㎝の銀のデインプル鍵を貰った。


「岩サボテンのような草じゃ気がすまない。『迷宮図書館』の鍵を渡そう。冒険者の間では価値のある品だと聞いている。街に持っていって金に換えるといいだろう。少なくとも岩サボテンなんかよりは高い値が付くはずだ」


(価値があるなら、ええか。でも、金貨二十枚いくかは微妙やな。かといって、ここで岩サボテンのほうがええ言うのも、モランさんの体面を傷つける)


「そうかありがとう。ありがたく貰っていくわ。ほな、ご縁がありましたらまたな」


 おっちゃんは街に帰ると、ハキムの店に寄った。

「お得意さんの悩み事を解決してきたで。そんで、赤牙人から報酬として『迷宮図書館』の鍵を貰ったんやけど、買い取って」


 ハキムが浮かない顔で応じる。

「買い取りはいいんだけどね。魔術師ギルドがきちんと機能していないから、前みたいに金貨二百枚とかの高額な値段は付かないよ」


「『迷宮図書館』の鍵って、そんなにするんか。下手したら、家が建つで」

「迷宮図書館の中には初級から高度なものまで、魔法を覚えられるスクロールが落ちている。『瞬間移動』のスクロールを拾ったら充分に元が取れるからね。ただ、鍵にはグレードがある。どの鍵でも高いわけではないんだ」


 ダンジョンには行かないおっちゃんには、知らない知識だった。

「そうなん、ちょっとおっちゃんの貰った鍵を鑑定して。ひょっとしたら大金持ちになれるかもしれん」


「鑑定料は金貨一枚だけどいいかい。期待させて悪いけど、鑑定次第では鍵の値段が金貨二枚を下回る結果もあるよ」


(儲かる時もあれば、損する時もある。それが冒険や)

「ええよ。わからない鍵なら価値は零や。鑑定して」


 おっちゃんは金貨一枚を払って、鑑定を頼んだ。

 ハキムが一冊の本を出す。おっちゃんの持っていた鍵と本を見比べて鑑定していく。


 鑑定をするハキムの顔が徐々に曇っていく。

「おかしいな。これは『迷宮図書館』の鍵だけど、『迷宮図書館』で手に入る鍵の一覧にないぞ。とすると、まだ未発見の扉を開ける鍵か、よくできた偽物の、どちらかだな」


「買い取れんのか」


 ハキムは申し訳なさそうに発言する。

「すまないね、おっちゃん。鑑定できなったから、鑑定料は返す。おっちゃんの手に入れた鍵は大いなる発見か、ゴミのどちらかだ。どうしても、金に換えたいなら金貨十枚で引き取るけど、どうする?」


(ゴミなら処分するけど、宝なら持っておきたいな。誰かが必要とするかもしれん)

「金貨十枚か。とりあえず、金に困るまで持ってようかな」


「保留にするのもいいだろう。もし、売りたくなったらウチに売ってくれよ。俺もその鍵には少し興味がある」

「ええよ。ここしか売り先を知らんからね」


(まだ、財布の中には金貨で四枚くらいある。いざとなったら鍵を売ろう。魔術師ギルドの機能が復活したら、また『迷宮図書館』の鍵の値段は、上がるかもしれん)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ