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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
アントラカンド編
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第百四十六夜 おっちゃんと不思議な霧

 ある日、眠っていると軽い揺れで目を覚ました。

「なんや地震か。アントラカンドじゃ珍しいの」


 早朝に起きて下に行く。窓が開いていて窓の外は霧一色だった。

 おっちゃんは霧に嫌なものを感じた。食事を終えると部屋に戻って冒険用の格好に着替える。


 街の東門から出て街の外へ歩いていく。東門を出て真っ直ぐ歩いているはずが、東門に戻ってきた。

「これは、あれやな。以前にフィルズのとこで遭遇した『狭間の霧』と同じやな。コンパスが使えるかもしれん。やってみよう」


 おっちゃんはベルト・ポーチからコンパスを出して、金の針が示す方向に向かった。

 おっちゃんの予想通りに霧の外へ出られた。振り返ると街全体を茸型の霧が覆っていた。


「茸の傘の部分は魔術師ギルドの屋上やな。まだ事件は終わってなかったんか。これは早くどうにかせんと、傾きかけている街に止め刺す事態になるかもしれん」


 おっちゃんは銀の針に従って冒険者ギルドに戻った。

 ギルド内でも街から出られなくなったと騒ぎになっていた。


「魔術師ギルドの事件の後や、魔術師ギルドでまた何か起きたのかもしれん。このまま黙っていても、霧が晴れるとは思えん。魔術師ギルドに行ってみんか?」


 おっちゃんが声を掛けると、上級冒険者の『荒野の嵐』の五人が「俺たちも行こう」と名乗りを上げてくれた。

「心強いわ。よろしく頼むで」


 おっちゃんと『荒野の嵐』は魔術師ギルドに行った。魔術師ギルドが近付くにつれて緊張感が高まってくる。


 魔術師ギルドは静かだった。命が宿った本が飛んでいなければ、ミニ・デーモンもいない。

(再占拠の可能性はないな。さて、何が起きているのやら)


 正門を潜って受付に行く。普通に職員がいたので、ほっとした。

「街で異常な霧が発生して、街から出られなくなりました。魔術師ギルドで異変がありませんか」


 魔術師ギルドの受け付けの男性は心外だと言わんばかりに否定した。

「誰もが変わった研究や実験をしているわけでないのです。レオナルドさんの研究成果は封印されています。なんでも異変は魔術師ギルドのせいにされては困りますよ」


「街で一番高い建物である魔術師ギルドの屋上に上がって、街の様子を確認したいんです。屋上に上げてもらうわけにはいきませんか」


 受付の男性が冷たい顔で拒否した。

「簡単には屋上には人を上げられませんね。魔術師ギルドは上層階に行くほど重要な物があるんです。屋上に行くには、それなりに地位のある人の許可が必要です」


 おっちゃんは言い合いは無駄と判断したので、作戦を変えた。

「そうですか。なら、グリエルモはんに会いたいんやけど魔術師ギルドにおりますか。グリエルモはんとはちょっとした知り合いなんで、霧の異常を相談したい」


「グリエルモ先生なら先ほど出勤してきたので部屋にいると思います」


 グリエルモの部屋を教えてもらい、訪ねた。グリエルモの部屋は机と椅子しかなく、部屋はがらんとしていた。


 おっちゃんを見ると、グリエルモは意外そうな顔をした。

「珍しいお客だな。いったい、どうしたんだ? 教員の話を引き受ける気にでもなった」


「おかしな霧が発生して、街から出られんようになってしもうた。どうも、魔術師ギルドの屋上が怪しい。屋上に入れてもらうわけにはいきまへんか」


 グリエルモが真剣な顔で協力してくれた。

「確かにこの霧は異常だな。俺も気にはなっていた。街から出られなくなったとあっては放ってはおけない。俺は今日から教員だから鍵を借りられる。鍵を借りてくるから待っていてくれ」


 ほどなくしてグリエルモが鍵を借りてきた。おっちゃん、グリエルモ、『荒野の嵐』の合計七人で屋上への扉を開けた。


 直径五十mの円形の空間に出た。屋上には転落防止用の柵があったがところどころ壊れていた。

『荒野の嵐』の一人が口を開いた。

「魔法陣と魔道具を壊した後と変わりがないな。特段におかしな点はないようだが」


 グリエルモが『高度な発見』の魔法を唱えた。

 高度な発見は、魔法やカムフラージュで隠された物を見つける『発見』の上位魔法だった。


 グリエルモが緊迫した声を上げた。

「この屋上の霧の中に、なにかいるぞ」


 グリエルモの言葉に緊張が走った。グリエルモが『マーキング』の魔法を掛けると、薄く赤い魔法の光によって高さ四mの男の顔が空間に浮かび上がる。


 男の顔が息を大きく吸い込んで吐き出すと、冷たい風が吹き荒れる。

 おっちゃんたちは飛ばされないように堪えた。

『荒野の嵐』が散開して霧の魔物に攻撃を浴びせるが、攻撃はすべて霧の魔物をすり抜ける。


 グリエルモが叫ぶ。

「大きな顔は飾りだ。本体は、もっと小さい。本体を叩かなければダメだ」


 おっちゃんは『高度な発見』の魔法を唱える。霧の魔物の脳天にある直径五十㎝の隠された存在に気が付いた。おっちゃんは頭頂部にある直径五十㎝の存在に『光』の魔法を掛けた。

「光っている場所を狙ってくれ」


 攻撃対象がわかると『荒野の嵐』は動きが早かった。すぐに剣で、魔法で光った箇所が攻撃される。

 隠された存在が破壊された。空に直径一mほどの黒い穴が開いた。穴に霧が一気に吹き込んでいった。


 全ての霧が穴に吸い込まれると、アントラカンドの空には青空が広がっていた。

「あの、モンスターは、なんやったんろうか」


 グリエルモが浮かない顔で話した。

「わからないが調べておいたほうがよさそうだな。もっとも、資料を大量に失った魔術師ギルドでどれほどの情報が得られるかわからないけど」


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