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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
アントラカンド編
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第百四十五夜 おっちゃんと不穏な陰

 後日、魔術師ギルドが受けた被害が明らかになった。

 魔術師ギルドの職員の大半はモンスターにより殺されていた。学長候補のミルコも殺害され、レオナルドは行方不明になっていた。


 魔術師ギルドの清掃の仕事を引き受けた冒険者の話ではそれはもう中は(ひど)いものだった。

「アントラカンドはダメかもしれない」の噂が流れた。


(学長選どころではなくなってしもうたな。アントラカンドはよくも悪くも、魔術師ギルドが中心の街や。この影響は大きいで)


 おっちゃんはグリエルモの安否が気になった。家に様子を見に行ったが留守だった。

「グリエルモはんは留守か。無事やといいんやけど」


 魔術師ギルドは一時的に閉鎖され、アントラカンドに暗い(かげ)を落とした。

 冒険者ギルドへも少なからず影響が出た。魔術師ギルドからの清掃以外の依頼が消失した。


『迷宮図書館』からの戦利品を適正な値段で冒険者から買い上げてくれる場所がなくなったのも痛手だった。魔術師ギルドから商品を買って他の都市に運んでいた商人も大打撃を受けた。


 おっちゃんは酒場で飲みながら、これから先どうするか考える。

(採取依頼も雑用も減った。完全な不況や。『迷宮図書館』に行かずにやっていくには辛いかもしれんな。仕事がなくて喰えん。街を捨てるようで心苦しいが、他の街に行く将来も考えたほうがええかもしれんな)


 おっちゃんの向かいに腰掛ける人物がいた。グリエルモだった。

「グリエルモはん、無事だったのか。良かった。グリエルモはんなら、やられはせんと思うとった」


 グリエルモが沈んだ顔で告げた。

「あまり良くないよ。ドーラが亡くなった。他にも何人か知り合いが死んだ。学長選のお祭り騒ぎにもうんざりしていたけど、葬式巡りをするよりは良かったよ」

「知り合いが大勢なくなったのか、それは辛いの。おっちゃんにも経験がある」


 グリエルモが真剣な顔でポツリと話した。

「頭の良いやつから馬鹿な奴まで、大勢の魔術師がなくなった。魔術師ギルドでは人材が足りない。昨日まで学生だった俺にまで教授就任の話が来ているよ、深刻どころではない人材不足だよ」


「グリエルモはんは学生にしては出来過ぎやからな。これを機に、表舞台に上ったらええのかもしれんよ。グリエルモはんはまだ若い、これから大勢の人を育てていける」


 グリエルモが真剣な顔で、おっちゃんを見据えて誘った。

「おっちゃん、良かったらだけど魔術師ギルドで働かないか。おっちゃんの腕なら助教授にだってなれる。おっちゃんには、それくらい腕があるだろう」


 おっちゃんは頭を振って断った。

「すまんのう、おっちゃんは『光』の魔法を使うくらいしか能がないおっさんや。魔術師ギルドに来るような賢い人間を教える立場やない。それに、おっちゃんは冒険者やから定職は似合わん」


 グリエルモは表情を曇らせて息を一つ吐いた。

「おっちゃんの教壇に立つ姿が見たかったけど、残念だ。無理にとは言わない。魔術師ギルドは合わない人間にとっては苦痛以外の何物でもない場所だからな。それは俺がよく知っている」


(グリエルモはん、魔術師ギルドの事件で少し変わったな。以前はどことなく厭世的な空気があったが、今は街のためになにかしようとしている。おっちゃんも、できることなら助けてやりたいの)


 グリエルモからの誘いがあった二日後。依頼掲示板の横の広告スペースに、魔術師ギルドの職員募集と教員募集の紙が貼られた。募集人数は合計で五十人近かった。


「魔術師ギルドの魔術師と冒険者の魔術師は毛色が違う。それでも冒険者にまで募集を広げるのなら人材不足が深刻なんやな。でも、冒険者に学校勤めがきちんとできるか疑問や」


 おっちゃんの心配を他所に、魔術師の大量募集により冒険者から転職するものが続々と出た。酒場のあちこちで解散や脱退の話が日常になった。


『迷宮図書館』に挑むには魔術師が必須らしく、魔術師が抜けた冒険者は他の街に行くか、他から引き抜くしかない。冒険者の間がギスギスし出した。


 全く知らない中級冒険者が声を掛けてくる。

「おっちゃん、魔法使いだろ。良かったらウチのパーティに入らないか。冒険に必要な知識は俺たちが教えてやるよ」


「すまんな。おっちゃん、魔法を使える言うても初歩的な『光』の魔法くらいしか使えん。ダメダメ魔法使いや。おっちゃんのせいでパーティに迷惑は掛けられん」


中級冒険者はそれでも食い下がった。

「『光』でも、使えればいいよ。とりあえず一度でいいから入ってくれ。分配でも差をつけないから」


「すまんのう」と頭を下げて再度、断った。中級冒険者はまた次へと勧誘を続ける。

 断って寛いでいると、また別のところから声が掛かった。


 静かに独りで冒険をしたいおっちゃんには、鬱陶(うっとう)しかった。おっちゃんは魔術師の格好を止めて、剣士の格好に戻る。剣士の格好をしていると声を掛けられなくなった。


(格好だけの魔術師ぽいのに、手当たりしだいに声を掛けとる。冒険者間の魔術師不足も洒落にならない段階やで。仕事はない、ダンジョンには行けん、となったら冒険者はやっていかれんぞ。魔術師ギルド以上に冒険者が打撃を受けとる)


 そのうち、魔術師不足に見切りをつけて冒険者が街を去り始めた。混雑していた酒場から人が消えた。冒険者ギルドの向かいで繁盛していた陽炎亭もガラガラになった。


(街の一般人には被害が出てなかったけど、経済には影響が出始めたの。街の人間には辛い状況やな)


 おっちゃんも街を出ようかと考え始めた。



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