表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
アントラカンド編
138/548

第百三十八夜 おっちゃんとチーズの代金

 赤牙人の集落が近づいてきた。赤牙人の見張り兵がいた。だが、先頭を赤牙人が歩いていると、不思議そうに見るが、襲ってこなかった。


 おっちゃんは機嫌よく足を進める。そのうち、泥レンガでできた家々が見えてきた。

 村の入口に到達すると、赤牙人の二人が足を止めた。村人がおっちゃんを遠巻きに見ている。


 おっちゃんは大きな声で叫ぶ。

「すんまへん、この子たちの保護者の方、いますか、ちょっと話があるんですわ」


 二度ほど同じ内容を叫ぶ。おっちゃんより頭一つ高い赤牙人の女性が出てきた。


 赤牙人の女性は堂々とした態度で、眼に力を入れておっちゃんを見据えた。

「私は、この村長のモランだ。なんのようだい」


「わいは、おっちゃん言う商人です。この村に交易に来ました。ところが、この小さい子が、おっちゃんのチーズを勝手に食べたんですわ。そんで、金を払わん言うんです。なんで、親御さんに払ってほしいんですわ」


 モランはチーズを持ったティムをギロリと見る。

「嘘は言うな。正直に答えろ。ティム、このおっちゃんの言葉は、本当か」


 ティムが黙って頷く。

 モランの手が飛んできて、勢い良くティムの頬を叩く。

 ティムが倒れ、チーズも地面に落ちた。


「ちょっと、おっちゃんのチーズに、なんてことしてくれますの。落ちたら、もう売り物になりませんやん」


 モランが冷たい顔で言い放つ。

「人間の持ってきたチーズなんか、食えるか。だが、安心しろ、代金は払ってやる。ただし、私に勝てたらだがな。勝負は相撲だ」


 モランは大きな赤牙人から曲刀を受け取ると、自分の周りに円を描いた。

「この円から私を押し出せたら、お前の勝ちだ。勝てたら、代金を払ってやるよ」

「服を脱いでも、いいでっしゃろうか」


「好きにしろ」と、モランが認めた。

 おっちゃんは、ローブを脱ぐ。次いで、服を脱ぐ。下着も全部すっかり脱いだ。


 さすがに下着まで脱ぐと、赤牙人は笑った。でも、おっちゃんは気にせずに、脱いだ服を綺麗に畳んでおいた。


 おっちゃんは、モランから五mの距離で身を屈め、地面に両拳を突く。

「行きますよ。はっきよーい」


 モランがまともに構えず、おっちゃんを見下したような顔をした。

 次の瞬間、おっちゃんは身長三mの筋肉の塊のモンスター・トロルに変身した。


「残った」の掛け声で、全力で、ぶちかましをお見舞いする。

 トロルになったおっちゃんのぶちかましは、洒落にならない威力がある。トロルのぶちかましをまともに食らえば、全身甲冑の冒険者でも、下手すれば死ぬ。


 危険を感じたモランは、とっさに避けた。もちろん円から出た。

「はい、モランさんの、負け」と、おっちゃんは人間に戻った。


 モランが驚いた顔で発言する。

「あんた、人間じゃなかったのか」


 おっちゃんは服を着ながら、愛想よく答える。

「嫌ですわ。おっちゃん、一度も人間やなんて言った覚え、ないですやん。勝手に勘違いしたら、あかんよ。もっとも、変身くらいしか能がないけどね」


 モランが額に手をやり愚痴る。

「私もまだまだだね。この子たちのことは言えないわ。いいわ。負けたから、チーズの代金は払うわ。いくらだい」


「チーズの代金なんですが、砂塵サボテンで払ってもらえると嬉しいんですわ」


 モランが拍子抜けした顔をする。

「あんな草でいいのか。そんなのそこら中に生えているわよ」

「でも、おっちゃんはそれが欲しいんですわ」


「わかった。すぐに用意させる」

 モランは何人かの村人を連れて砂塵サボテンを採ってきてくれた。


 おっちゃんはチーズが入っていた袋に砂塵サボテンを入れると、赤牙人の村を後にした。

 冒険者の店ハキムに戻り、砂塵サボテンをカウンターに並べる。ハキムが顔を綻ばして喜ぶ。


「これまた、大量だね。おっちゃん。これだけあれば、抗石化薬が千本以上は作れるよ。大量にできるから、金貨一枚より安く、店に出せるね」


「それは、よかった。冒険者や商人の犠牲者が少なくなるといいな」


 ハキムは金貨六枚を、おっちゃんに払った。

 おっちゃんは寂しくなっていた財布に金貨を入れた。


 三日後、ハキムの店には大量の抗石化薬が入荷した。冒険者や旅の商人が列をなして抗石化薬を買う。


 おっちゃんも用心のために、抗石化薬を二本、購入した。価格は二本セットで銀貨百三十枚と、かなり価格が抑えられていた。ハキムは僅か一日で、おっちゃんに投資した額を回収した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ