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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
エルドラカンド編
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第百二十四夜 おっちゃんと毒薬

 翌日、レインがお墨付きを貰うために教皇庁にやって来た。教皇庁にある専用の薬品検査室に魔法薬が入った箱が運ばれる。箱は全部で八箱あった。


(おかしいで。魔法薬が入った箱は、もっとたくさんあった)

 検定を始める前におっちゃんは尋ねる。

「レイン先生。魔法薬が八箱しかありませんけど、残りの箱はどこですか」


 レインが柔和な笑みを浮かべて答える。

「とりあえず、八箱でいいんです。残りは後日にまた検定を受けます」


「では、検定を開始します」と係官が箱に手を掛けた。箱を開けると緑色の煙が勢い良く噴出した。

 おっちゃんは口を押さえる振りをして、高級毒消しポーションを飲んだ。


 係官が倒れ、おっちゃんも演技で倒れた。レインは、なんともなかった。

「なんだ、これは」の大きな声が遠くから響く。


(毒ガスやな。あちこちで毒ガスを撒いたんか。だが、教皇庁に僧侶は大勢おる。『解毒』の魔法を使える人間には事欠かん。とすると、レインの目的は教皇庁の攪乱か)


 レインがこの場を去ろうと背を向けた。

 おっちゃんは音もなく立ち上がる。背後からレインの心臓を目掛けて突きを放った。タイミングは申し分なかった。


 だが、レインが身を捻って間一髪で躱した。おっちゃんは次々と高速の突きを繰り出す。

 レインが手にした杖で、おっちゃんの攻撃を受け流す。レインは防戦一方だが、おっちゃんの攻撃を全て防いでいた。


(こいつ、やりよるで)

 レインが『分解消去』魔法の詠唱を開始した。おっちゃんは焦った。


 詠唱が終われば、おっちゃんは消される。おっちゃんは剣撃でレインの詠唱を止めようとした。されど、レインは攻撃を受け流しつつ、詠唱を継続する。


 詠唱が終わる。そう思ったとき、入口からマキシマムが姿を現した。

「おっちゃん、大丈夫か」


 レインの視線がマキシマムに行った。レインが詠唱の最後で目標を変え、マキシマムに『分解消去』を放った。


 レインから放たれた七色の光は命中し、マキシマムを貫通した。

『分解消去』の魔法は当っても貫通する事態にはならない。貫通したのであれば対象が『幻影』のような魔法で作られた幻を意味する。


 レインに一瞬の隙ができた。おっちゃんは隙を見逃さなかった。おっちゃんは踏み込んで強烈な突きを放った。


 レインの脇腹に深々と剣が刺さり、白い煙が上がった。レインの顔が苦痛に歪んだ。

 レインが脇腹を庇って距離を取った。レインが苦しそうな声を上げる。


「その剣は聖剣か。貴様は何者だ」

「たんなる、おっちゃんや、さあ、これでしまいや」


 おっちゃんは『金剛穿破』で止めを刺そうとした。

 レインが杖を地面に叩きつけた。おっちゃんの剣が届く前にレインの姿が消えた。


「杖に『瞬間移動』の魔法を込めておったんか。詠唱なしで『瞬間移動』を使いよった」

 おっちゃんは急いで教皇庁の外に出た。空に向って二発の『火球』の魔法を打ち上げる。爆発音が空に響いた。


(レインは逃がした。だが、レインの雇った冒険者は、まだエルドラカンドの中や。今の爆発音を門衛が聞けば、門は閉まる。逃がさへんぞ)


 おっちゃんは、『飛行』の魔法で内門を飛び越えた。内門の外に出ると冒険者を探した。

 冒険者がいたので「待て」と声を出し追う。トラップ・カードがある場所に冒険者を追い込む。


 冒険者がトラップ・カードの場所を通りかかると、大量の鳥黐(とりもち)がトラップ・カードから噴出された。


 おっちゃんは街中を逃げ惑う冒険者を次々とトラップ・カードの場所に追い込む。

 鳥黐、鉄の檻、巻きつくロープ、麻痺毒を持った蔓が次々とトラップ・カードから出現して冒険者を捕縛していった。


 あらかた罠に追い込むと、内門に戻った。内門が開いて、バルタが聖騎士と兵士を合わせて四十名近くを引き連れて出てくるところだった。

「こっちや」と、おっちゃんは冒険者を追い込んだ場所をバルタに教えた。


 夕方には罠に掛かった冒険者の回収が終わった。教皇庁の内外で八人の冒険者が捕まった。


 翌日の朝食時にバルタがマキシマムの許に来て、神妙な顔で報告する。

「猊下。捕縛した冒険者を尋問して情報を得ました。アントラカンドに送った密偵からも報告が上がってきました。二つを合わせて考えると、敵の首謀者が割れました」


 マキシマムが眉間に皺を寄せて尋ねる。

「そうか。敵を誘いこんだ甲斐があったな。それで、敵は誰だ?」


「魔術師のゼノス・グリーンフィールドです。ゼノスはアントラカンドで魔術師ギルドのギルド・マスターを殺害して逃げています。かなり危険な人物です」


 おっちゃんは感想を述べる。

「アントラカンドの魔術師ギルドのギルド・マスターは、国で最高の魔術師でっしゃろ。そんな人物を殺すとは、たいそうな事件を起こしよるな。でも、そこまで腕が立つなら、納得が行くのも事実や。相手は並の実力者やない」


 マキシマムが不機嫌な顔で訊いた。

「それで、バルタ。ゼノスの目的はなんだ? 怨恨ではあるまい。俺はそんな奴は知らんからな」


「ゼノスは逃亡直前に教皇庁の下に鎮座する神の情報を集めていた形跡があります。おそらく、ゼノスの狙いは、教皇庁が所有する神でしょう」


 マキシマムが腕組みして下を向く。

「それなら、俺を殺す動機もわかるな。神と交信できる人間は、この世に唯一人。神の力を手に入れたければ、俺を殺すしかないからな」


(ゼノスの目的は教皇庁が保有するダンジョン・コアやな。ゼノスはダンジョン・マスターになって力を手に入れるのが目的か。大それた計画を立てよる)


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