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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
エルドラカンド編
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第百二十三夜 おっちゃんと魔法薬

 おっちゃんは急遽、魔法薬の勉強をした。

 付け焼き刃な知識など役に立たないかもしれない。だが、助手をやる以上は無知では済まされない。できる限りの知識を詰めこんで、レインの許に赴いた。


 レインは教皇庁の仲介で街外れに薬品工房を借りていた。レインは素人のおっちゃんにもわかりやすく、魔法薬作成の基礎から教えてくれた。レインはおっちゃんの目の前で隠すことなく作業をした。


(魔法薬作りに関しては、ええお師匠さんや。教え方も教え慣れとる)


 数日は怪しいところはなかった。レインが出かけた隙に身の回りの品を調べてみるが、怪しいものは出てこなかった。


(おかしいの。なにか一つくらい怪しい物を持っていて良さそうな気がするんやけど)


 一週間が経過した。冒険者がレインの許を訪れるようになった。エルドラカンドに冒険者ギルドはないので、他の街の冒険者ギルドからの冒険者だった。


(動き出したか。なにを企んでいるんや)

 怪しいのでそれとなく訊いてみる。

「レイン先生、最近は冒険者がよく来るようになったけど、何を頼んでいるん?」


 レインが柔和な笑みで答えた。

「『デドラ湿原』に生える薬草を採りに行ってもらうためですよ。彼らはアントラカンドの冒険者ギルドから派遣してもらった冒険者です。『精神治療薬』には『デドラ湿原』で採れる生薬が良く効きそうなのでね」


 レインの言葉をおっちゃんは疑った。

(おっちゃんも採取で喰っていたからわかる。ここに出入りしている冒険者の格好は採取に特化した格好ではないね。採取もできるけど、荒事も得意な冒険者や。なんか、きな臭くなってきたで)


 おっちゃんは教皇庁に戻った時に、バルタに相談した。

「レインの工房に頻繁に冒険者が来るようになったんよ。名目は生薬の納品やけど怪しいわ。尾行に優れた者に頼んで、冒険者がどこに行っているか探ったほうがええね」


 バルタが真剣な顔で応じる。

「わかりました。教皇庁の密偵に探らせましょう。猊下に私から報告しておきます」


 レインの薬作りは佳境に入った。次々と魔法薬を作り瓶詰めにしていく。

 おっちゃんも一生懸命に手伝った。おっちゃんの見ていた限り、怪しいそぶりは一切なかった。だが、おっちゃんは安心していなかった。


(おっちゃんは素人や、薬草に似た毒草を使われてもわからん。もっともらしい効能を述べられても嘘に気付けん。全て疑って懸かることや)


 おっちゃんは用心のためにポケットに高級毒消しポーションを忍ばせておいた。レインの魔法薬が一定数できあがり、教皇庁で認定を受ける日が近づいてきた。


 品物ができれば、おっちゃんの助手は終了する。


 おっちゃんは助手が終了する前の日にレインに聞いた。

「レイン先生、今日までありがとうございます。最後に一つ教えて欲しい配合があるんよ。レイン先生だけが知る若返りの薬や。材料だけでも教えてもらえませんやろうか」


 レインは顎鬚を撫でながら、困った顔をした。

「教えてもいいですけど、まだ、おっちゃんには造れないと思いますよ。製法は独特ですから」


「それでもええ。いつの日か若返りの薬を造れるように、勉強していきたいんです」

「しからば」と、レインは若返りの薬の材料を六十ほど挙げた。おっちゃんは黙ってメモをした。


(レインがバサラカンドで依頼を出した時、材料は八十以上あった。六十では少なさ過ぎる。それに、レインの挙げた材料の中に『エンシェント・マスター・マミー』の心臓と『百年花』がない。この材料は嘘やな。つまり、このレインはやっぱり偽者や)


 おっちゃんは笑顔を浮かべる努力をして、感謝の表情を装った。

「ありがとうございます、先生。きっといつの日か若返りの薬を造ってみせます」

「頑張ってください。努力はおっちゃんを裏切らないでしょう」


 レインが魔法薬を持ち込んで認定する前の晩に、おっちゃんはマキシマムとバルタに相談する。

「レインは間違いなく偽者や。知っているはずの若返りの薬の材料を間違えた。明日、魔法薬を教皇庁に運んでくるが怪しい。魔法薬の搬入に街の荷運び業者を使えばいいのに冒険者を手配しとる」


 バルタが険しい顔で静かに発言する。

「狙うは猊下のお命ですかな。懲りない敵ですな」


 おっちゃんは頷いた。

「可能性はある。レインが来る前に、『生命の杯』はどこか安全場所に移動させて置いたほうがええな。冒険者を尾行していた密偵はどうなったん。話を全く聞かんけど、上手くいってないんか」


 バルタが沈んだ顔で首を振った。

「密偵は全員、『デドラ湿原』に入ってから消息を絶ちました」


 好ましくない報告だった。おっちゃんは慎重になった。

「これは危険や。明日の偽レインの魔法薬の搬入はやめさせたほうがええな。敵の手の内が読めん」


 マキシマムが神妙な顔で発言する。

「搬入は予定通り行わせる。敵が尻尾を出してから捕まえる」


 マキシマムが決断するなら、従わなければならない。おっちゃんは代替案を出した。

「なら、おっちゃんから提案があります。猊下は神の目が有る場所で待機していてください。そこから、魔法の映像を使って、明日は仕事をしてください」


 マキシマムが不機嫌な顔で意見する。

「おいおい、俺に隠れろって進言するのか。冒険者が何人いるかわからないが、十人や二十人にやられる俺じゃないぜ」


「偽レインの作戦が失敗すれば、敵は逃亡します。なんで、神の目を使って、エルドラカンド全体を監視しておくんです。逃げる敵を設置したトラップ・カードを発動させて捕まえてください」


「わかった」とマキシマムが応じ、バルタが真剣な顔で確認する。

「他に何かやっておく仕事はありますか」


「門衛に連絡をしておいたほうがええ。連絡があるか、異変があれば、すぐに門を閉めさせてください。門を閉めたらこちらから連絡があるまで人を通さんことや。内門と外門を閉めれば、簡単にはエルドラカンドからは出られん」


「わかりました。明日の朝一番で伝令を出しましょう」


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