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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
エルドラカンド編
122/548

第百二十二夜 おっちゃんと東方賢者

 御前試合が終わり、三日が過ぎた。街では祭りが終わり、冬小麦の種蒔きの準備が始まっていた。

 おっちゃんは教皇の私室でマキシマムの仕事を手伝っていた。


「よし、その手紙を清書してバサラカンドのユーミットに送れ。おっちゃんも手紙を出したければ、一緒に出していいぞ」


 部屋をノックする音がして、侍従長が入ってくる。

「猊下、バサラカンドからお客様が見えました。東方賢者のレイン様です」

(レインか。バサラカンドに同じ名前の人間がいたな。偶然か)


 マキシマムが仕事の手を止め、興味を示した。

「東方賢者か。面白い人間が来たな。顔は知らないが聞いた覚えが有る。東の大陸から来た知識人で、物凄く博識らしいな。それで、その東方からの賢者様は本物なのか?」


 侍従長が澄ました顔で伝える。

「バサラカンド前領主ハガン様とホールファグレ枢機卿からの手紙をお持ちです」


 侍従長が二通の手紙を差し出し、マキシマムが手紙を確認する。

「どちらの手紙も本物のようだな。作成する魔法薬に教皇庁のお墨付きが欲しい、とある。枢機卿の推薦があれば、審査も通り易いだろう。おっちゃんはどう思う」


「まずは、会ってみたほうがええと思いますよ。おっちゃんも東方賢者さんに会ってみたい」


 マキシマムが元気よく決断する。

「よし、会おう。応接室に通せ。おっちゃんも来い。一緒に会ってみようぜ」


 教皇の応接室は三十畳ほどの部屋だった。調度品の類はないが、天井と壁には宗教画が描かれている。部屋には大きな赤いソファーと大きな樫の木テーブルがあった。


 レインは綺麗な真っ白な髪をしており、白く短い顎鬚があった。くりっとした青い目をしている。年齢は五十代前半。肌は色艶がよい白色。手に杖を持ち、頭には紫のターバンを巻き、白のガラベーヤを着て、肩には布の鞄を提げていた。


(バサラカンドで見たレインそのものや。今度はエルドラカンドに何が目的で来たんや。本当に作った薬にお墨付きが欲しいだけか。また、何ぞ怪しい薬でも作りに来たんとちゃうのか)


 レインはマキシマムを見ると席を立ち礼をする。

「このたびはお会い頂き、ありがとうございます」


 マキシマムがレインに席を勧め、席に着いた。

 おっちゃんはマキシマムの右後方に控える。


 マキシマムが悠然と構えて話を始める。

「教皇庁に魔法薬を作成して卸したいとの話だったな。教皇庁のお墨付きを得るには、品質の検査がいる。金も掛かる。東方賢者と名高いレイン師であれば、教皇庁の認可を得ないほうが安い値段で市場に出せると思うが」


 レインが目を細めて柔和な顔で語る。

「一般的な品なら、お墨付きは必要ありません。ですが、私が売りたい品は『精神治療薬』です。一般的に売られていない品なので、効果を保証するお墨付きをいただきたいのです」


「人間の心に作用する薬は一般的ではないな。作り方も解毒薬や麻痺解除薬と違い極度に難しいと聞く。教皇庁のお墨付きがあったほうが、売れるかもしれない」


 レインが頭を下げて頼む。

「そうなのです。薬の意義については、ホールファグレ枢機卿にも認めて頂いております。是非とも、ご配慮をお願いします」


「人に益あらば、然るべく動くのが教皇庁だ。薬にお墨付きを与える件については、一考しよう」


 マキシマムが振り返って、おっちゃんに訊く。

「おっちゃん。何か聞きたいことはあるか」

(さて、本物かどうか確かめるかの)


「二つほどあります。レインはんは、バサラカンドで秘薬を作った経験があるとか。秘薬を作って売ったほうが、儲かるんやないですか」


 若返りの薬と言わず、秘薬と、おっちゃんはわざと口にした。


 レインは穏やかな顔ですらすらと答える。

「若返りの薬の件ですか。あの時は領主のハガン様が苦しんでいたから、引き受けました。でも、私の薬作りは、お金のためではないんです。悩める人のためです。今回は心を病んでいる人たちの救済になればと思い、薬を作ります」


「『精神治療』は冒険者にも需要が有ると思いますが、レインはんは、ダンジョンに行かれた経験は、ありますか。最近の冒険者事情を知らんと、薬の販売は難しいんちゃいますか」


「ダンジョンにはここしばらくは行ってないですな。ですが、薬は冒険者のためではなく一般の方にも販売します。おそらく、一般の方への需要のほうがあるでしょう」


(おかしいで。レインは『黄金の宮殿』にいた事実に間違いはない。隠す話でもないやろう)


 おっちゃんは疑念を隠して謝罪した。

「生意気な口を利いて、すいませんでした。確かにレインはんの言う通りかもしれませんな」

「わかっていただけて、ありがたい」


 レインはマキシマムとその後、簡単な世間話をして帰っていった。


 レインが帰ったあと、マキシマムが気楽に構えておっちゃんに尋ねた。

「『精神治療薬』の話。どう思う。本当だと思うか」


「怪しいと思います。おっちゃんは以前に、レインを見かけた過去があります。姿格好は同じですが、レインは最近までダンジョンの『黄金の宮殿』にいました。なのに、レインはダンジョンにはここしばらく行っていないと、嘘を吐きました」


 マキシマムが顎に手をやり思案する表情をする。

「東方賢者の偽者か。さて、何を企んでいるのやら」

「どうせ、よからぬ内容に決まっています。即刻、捕まえたらええ」


 マキシマムが真剣な顔で発言した。

「俺の考えは違う。レインに監視を付けて泳がせようと思う。そこでだ、俺はおっちゃんをレインの助手にする条件で、レインにエルドラカンドでの魔法薬造りを許可しようと思う」


「おっちゃんは、魔法薬については無知です。レインが怪しい薬を作っても、何をしているかわかりません。もっと薬に詳しい人間を付けたほうがいいと思います」


「相手が俺の暗殺を企むような人物なら、魔法薬にいくら詳しくともダメだ。むしろ、素人ですと、おっちゃんを付けていろいろと質問させたほうがボロを出す」


「わかりました。猊下がそう仰るのなら、やってみます。ただ、おっちゃんは毎日、教皇庁から通うように伝えてください。そのほうが、おかしな動きが報告しやすい」


「わかった。おっちゃんの進言した通りにしよう」


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