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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
エルドラカンド編
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第百二十夜 おっちゃんと教皇の娯楽(前編)

 エルドラカンドは温暖で農業に適した場所にある。冬でも雪が降らず暖かい。秋の陸稲の収穫が終わると、冬小麦の種蒔きが行われる。


 陸稲の収穫から冬小麦の種蒔きが行われる間に、エルドラカンドでは豊作を祈願した祭りが行われる。豊作祈願祭である。


 マキシマムと一緒に食事を摂っていると、マキシマムが機嫌よく話し掛けてきた。

「もうすぐ、豊作祈願祭りの時季だ。今回は俺の企画で特別な催し物をする。教皇の前で行われる御前試合だ」


「王様の前でやる御前試合は聞いた覚えがあります。ですが、教皇の前でやる御前試合は聞いた覚えがないですな」


 マキシマムが愉快そうに笑った。

「そりゃそうだ。教皇庁の歴史で初めてだ。そこで、おっちゃんにも参加してほしい」

(戦いは好きやない。まして、人の目がある場所は苦手や)


 おっちゃんは丁寧な口調で申し出た。

「おっちゃんは剣の腕は、からっきしですよ。予選落ち確実ですわ。負けて無様な姿は曝したない。棄権しても、よろしいでっしゃろか」


「違う。選手として出るのではない。御前試合は二部制だ。騎士の部と冒険者の部がある。おっちゃんには冒険者の部の審判をやって欲しい。仕事は本戦からだ」


「審判ならええですけど、暗殺未遂事件があったばかりです。御前試合なんて、止めたほうがええんとちゃいますか。きっと、よからぬ考えを抱いて参加する奴はおるですやろう」


 マキシマムが強い調子で発言した。

「中止はしない。俺はこの日のために二年前から準備させてきた。町長の協力も得ている。それに、敵に背を見せるのは、好きじゃない」


(マキシマムはんらしいの。これは何を言っても無駄か。なら、協力するまでや)

「あまり、気が進まんけど、猊下の判断を尊重します」


 豊作祈願祭の日がやって来た。街は祭り気分で一色になった。生憎の曇り空だったが、祭には多くの人が出ていた。


 御前試合の警備はバルタが取り仕切っていた。バルタの仕事に口を出すとギクシャクするので、警備は任せた。


 会場は一通り見ておく。本戦会場は教皇庁前の広場で行われる。騎士の部は事前登録制で騎士か聖騎士のみが参加を許され予選はない。


 冒険者の部は誰でも参加自由で、百名近く集まった。冒険者の部では予選が行われる。

 予選会場は城壁の外。予選参加者の腕はピンからキリだった。予選は観覧無料だったので、大人気の見世物だった。


 試合は用意された木剣のみが使用が可能。鎧は顔が隠れないものなら何でもいい。

 とはいっても、重い鎧を着ればそれだけ不利になる。冒険者は全員が薄手の革鎧か厚手の服を着ていた。


 冒険者だけあって、装備には一工夫してあった。鉢金をする者、皮の帽子を着用する者、脛当てをする者、爪先に金属を入れたブーツを履く者と、様々だった。


 おっちゃんはマキシマムの命令により、予選を見物に来ていた。

 次々と試合が消化され、本戦に出場する十六人が決まった。


 予選を見ていたが、誰が優勝しそうか予想がついた。

「優勝はサリバンやな。技量が他の者より二枚ぐらい上や」


 サリバンはおっちゃんと同じくらいの身長でスキンヘッドの男性だった。身長はおっちゃんと同じだが、サリバンは横に太い。


 サリバンの体型は太っているわけではない。筋肉質な体をしているので、がっしりとしている。目は険しく、獣のような目をしていた。


 サリバンの近くで一人の恰幅の良い商人がサリバンに声を掛けていた。男は白い羽根がついた緑の丸い帽子を被っていた。


 服装は商人が着るようなゆったりめのクリーム色のワンピースを着て、上からは赤のジャケットを羽織っていた。商人はしきりにサリバンを褒めていた。


「さすがは私が見込んだ男、サリバンだ。この調子で本戦も頼むぞ。狙うは優勝だ。優勝したらボーナスを出そう」


 サリバンは静かに応える。

「ボーナスの準備をしていてください、サンチョ様。必ずやご期待に添いましょう」


 本戦開始前に昼食を摂るマキシマムに会いに行く。

 マキシマムは食堂でサンドイッチを食べていた。


 おっちゃんとバルタの分もあったので、一緒に食事をする。

 マキシマムが機嫌よく尋ねる。

「どうだ、御前試合のほうは、面白い選手はいたか」


 バルタが澄ました顔で答える。

「面白いかどうかはわかりませんが、騎士の部はエドワード伯爵がお抱えの騎士ジョバンニで決まりでしょう。正確無比たる剣技は美しくすらあります」


「冒険者の部はサリバンでんな。一見、荒々しい獣のような戦いぶりですが、なかなか頭を使った戦い方をしよる。戦い方を見るに、サリバンは剣闘士出身の冒険者やと思います」


 マキシマムが子供のように興味を示した。

「なかなか、面白い選手が来ているな。午後の本戦が楽しみだ」


 本戦は縦横十二mの四角い競技場の中で行われる。マキシマムは競技場から十m離れた場所にある段上に設置されたテントの中から観戦していた。


 午後になる。厳重な警備の中で御前試合が開始された。まず、騎士の部からスタートした。

 騎士の部は冒険者の部と少しルールが違った。武器は木剣を使用するが、鎧は騎士や聖騎士が使う甲冑を着用して行われた。


 騎士の部はバルタの予想通りにジョバンニが勝ち上がってきた。ジョバンニは完璧な守りの型を貫き、相手に隙ができると必ず一本を取り綺麗に優勝した。


 次に冒険者の部が行われた。冒険者の部は、おっちゃんの予想通りにサリバンが勝ち上がってきた。


 サリバンは終始ずっと攻勢に出ていた。攻撃は激しく、守りに廻った選手はサリバンの激しい攻めを凌ぎきれず必ず負けた。


 御前試合は熱狂の中で幕を閉じた。最後の表彰式と褒賞の授与も問題なく幕を閉じた。

「ふう、御前試合は問題なく終了や」


 豊作祈願祭は、メイン・イベントだった御前試合が終わり、ゆるやかに終わりを迎えた。

 マキシマムは最後に来賓と交流を兼ねた、立食パーティに向う。


 おっちゃんはサンドイッチを掻き込んで、正装に着替えた。マキシマムの小姓として立食パーティに向かった。


 おっちゃんが立食パーティの会場に来ると、パーティ会場の雰囲気がおかしかった。

 いるはずのマキシマムとバルタの姿もなかった。


 壁際にいた給仕を捕まえて理由を尋ねると、浮かない顔で教えてくれた。

「最初はエドワード伯爵と商人のサンチョさんとの間のちょっとした言い争いでした。中身はジョバンニとサリバンはどっちが強いかです。そのうち、他のお客たちにも論争が飛び火しました」


「なんや、大人気(おとなげ)ないな。そんなのどっちも相手を称えときゃええやないか」

「そこに猊下が現れて、よし、じゃ決着をさせよと言われました。それで、急遽もう一番、試合をする事態になったんです」


「もう、なんや。なんで、そんな余計な仕事を増やすかな。仲良くしいや、で良かったやん」


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