表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
エルドラカンド編
112/548

第百十二夜 おっちゃんと教皇(後編)

 マキシマムが機嫌よく、おっちゃんに寄ってきた。

「ほら、剣を返すぜ。ちと、聖剣になってしまったが、許せ。ところで、あんたは誰だ。ここに何をしに来た」


「わいは、おっちゃんいう冒険者です。手紙を渡すために教皇はんを探してます。ここら辺で、教皇はんの一行を見掛けませんでしたやろうか。なんでも、『デドラ湿原』にいるらしいんですが」


 マキシマムは気軽な調子で命じた。

「なんだ、俺に用事か。いいだろう、剣を借りた礼だ。今ここでその手紙を読んでやるよ。ほら、よこせ。すぐに終わる」


(ほんまにマキシマムはんが教皇なんか。えらい想像と違うで。どっちかというと教皇よりバーサーカーやで)


 おっちゃんが躊躇(ためら)っていると、バルタが口を開く。

「おっちゃん様、こちらにおわすお方こそ、間違いなく現教皇マキシマム様です」


 バルタの言葉を、おっちゃんは信じられなかった。

 だが、マキシマムが早く手紙を出せと手で催促する。


 おっちゃんは疑いながらも手紙を渡した。


 マキシマムが封を解いて手紙を読む。バルタが控え目な口調で確認する。

「猊下、手紙の内容はなんでしょうか」


 マキシマムが目を細めて手紙を読む。

「バサラカンドの件だ。バサラカンド領主のユーミットの言い分が書いてある。バサラカンドはモンスターと共存するから認めろと主張している。聖騎士の報告とは違うな」


 バルタは鼻で笑った。

「何を馬鹿な言葉を、モンスターと共存なんて、できるわけがない。きっと操られているのでしょう」


 おっちゃんが弁解しようとする前に、マキシマムが口を開いた。

「いいんじゃね」とマキシマムはさらりと口にした。


「はっ?」とバルタが面喰らった顔をした。


「だから、教皇たる俺は、認めるって言ったんだよ。別にモンスターが人と同じ義務を負い、同じ権利を行使してもいいと、俺は承認したんだよ」


(あれ、これで、おっちゃんの任務完了なん? なんや、えらい簡単に行ったで)


 マキシマムは、おっちゃんに向き直った。

「ところで、おっちゃん。お前は人間じゃないだろう。『シェイプ・シフター』か?」


 おっちゃんは人間ではない。姿を変えられるモンスターの『シェイプ・シフター』だった。

 言い当てられて、おっちゃんは驚いた。思わず一歩びくっと引いた。

 初めて会った人間に人間でないと見抜かれた経験はなかった。


 バルタが怖い顔で剣に手を掛けた。マキシマムが素っ頓狂な声を出す。

「何してんのバルタ」


 バルタが「何を当然の内容を聞くんだ」の顔で答える。

「ですから、モンスターから猊下をお守りしようと」


 マキシマムが苛立った顔で、当てつけるように口を開いた。

「おまえ、俺の言葉を聞いていたのか? 俺はさっき、モンスターと人と同じく扱っても良いと言ったよな。その俺の前で、おっちゃんを斬るって、なに? 聖騎士団長は教皇に謀反を起こす気か。謀反を起こす気ならいいけど、俺は逆らう人間に容赦しないよ。人間ができてないから」


 バルタは非常に苦い顔をして、ゆっくりと剣から手を離した。


 マキシマムが気を取り直した顔で、おっちゃんと向き合った。

「さて、おっちゃんよ。教皇たる俺は、モンスターと人間の共存を認めた。だが、これはあくまで、一教皇の意見だ。教皇庁から正式な通達ではない。教皇庁のお墨付きが欲しいか」


 マキシマムが何を言いたいかわからなかった。だが、悪い人間ではなさそうなので正直に告げた。

「それはまあ、欲しいですわ。くださいな。お墨付き」


 マキシマムが平然とした顔で、すらすらと語った。

「教皇庁が正式に通達を出すとする。それには審問会を通さなければならない。審問会は有料だ」


 初めて聞いた。そんな仕組みは、知らなかった。

「え、有料ですの? おいくらでっか?」


「小さな懸案だと金貨千枚。中くらいの内容だと金貨一万枚。大掛かりな話だと、金貨が十万枚は必要だ。モンスターと人を平等扱っていいとなると、これは、もう最大懸案だ。俺も教皇庁の事務方がいくら請求するかわからん。バサラカンドにそこまで金はあるか?」


(ボッタクリすぎやで、教皇庁。いくら金があるバサラカンドといえど、金貨で十万枚を超えると、きついで。きっとユーミットはんも、ここまで金を要求されるなんては考えてないやろう。どうしよう)


 おっちゃんが返事に窮すると、マキシマムがにやりと笑った。

「審問会をタダにすることはできない。だが、値切ることはできる。どうだ、金貨一万枚にしてやろう。ただし、条件がある。おっちゃんは俺の小姓になれ」


 おっちゃんは面食らい、バルタも驚いていた。


 マキシマムだけが普通に会話する。

「なに、ずっとじゃなくていい、審問会が終わるまでだ。それで審問会の費用を金貨一万枚までに負けよう。悪い話ではないだろう」


「おっちゃんは嬉しいですけど、ほんまに、そんなんでええの?」


 バルタが弱った声で意見した。

「また、そんな勝手な話をして、大司教や枢機卿を怒らせますよ」


 マキシマムは全く意に介した様子はなかった。

「怒りたい奴は怒ればいい。ただし、俺は教皇だ。神の地上権利代行者だ。大司教や枢機卿より偉い。そんでもって、俺はトップ・ダウン型の権力者だ。下の意見など聞かん」


 マキシマムの言葉に、バルタが胃をやられたような顔で黙った。

 マキシマムが子供のように目を輝かせて発言する。

「あと、おっちゃんがモンスターなのは、三人の秘密な。そのほうが面白い」


(モンスターのおっちゃんが教皇の小姓やと、なんや、おかしな話になったで)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 二度読み中です マキシマム教皇…あまりにも大人物過ぎる 笑
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ