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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
サバルカンド編
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第十一夜 おっちゃんと調査依頼

 冒険者ギルドの報告窓口に向かうおっちゃんの気は重たかった。

 原因は、大量の胡椒だった。報告窓口に、おっちゃんの身長の半分以上ある大きな袋を置く。


 元気もなく、暗い気分でアリサに告げる。

「依頼のあった胡椒、採ってきたで、換金してや」


 報告窓口に置いた袋は、いつも使っている袋の十倍の量が入る大きな袋だった。

「アリサはん、今回は特別やで。普段は、こんなに採れんからね。あと、もう、指名依頼は止めてな。おっちゃん、好きな時にジャングル入って、稼ぐのが合っているんよ。期限とかある仕事だと、心が磨り減るねん」


 アリサが申し訳なさそうな顔で詫びる。

「無理を聞いてもらって、すいません。どうしても断れない依頼だったんです。それに、胡椒が欲しい時は、おっちゃんに頼むのが確実なんです。おっちゃんほど確実かつ安全に胡椒を採って帰ってくる冒険者はいないんですよ」


 胡椒の値上がりが止まらず、市場から胡椒が消えかけていた。原因は需要の増加と供給の減少。

 いくら高くても香辛料を扱う商人にとって、胡椒が手に入らない状況は死活問題だった。


 アリサが計量を終えて、感じの良い声で代金を告げる。

「金貨二十八枚と銀貨八十五枚です」


(また、胡椒の価格が上がりよった。あかん、これ、絶対、噂になる)


 ダンジョンの深くに潜ればべつだが、一週間で金貨二十枚は新人の冒険者には稼げない。

 倹約下手なおっちゃんの一日の生活費は、銀貨二枚。


 金貨一枚が銀貨百枚なので、おっちゃんは数日で三年分以上の生活費を稼いだ計算になる。


 目立ちたくはない。お断りを口にする態度は簡単。だが、渡世には義理がある。


 冒険者ギルドから頭を下げて「どうか、胡椒を取ってきて下さい」と頼まれて断れない流れだった。


 ずっしりとする重みを財布に感じながら、暗い気持ちになった。

 朝から高級なワインを飲んで、高い料理を頼んでも、美味しく感じなかった。


 食事を終えて二階に上がろうとすると、アリサが呼び止めた。

「おっちゃん、ちょっと、いいですか? お話があるんですが」


 仕事の依頼カウンターに移動する。

「最初に断って置くけど、胡椒なら、もうしばらく採りにいかんよ」


 義理は果たした。きちんと、釘を刺しておかないと、なし崩しの依頼は困る。


 アリサが頬を膨らませて意見する。

「違いますよ。実は、債権回収の依頼を引き受けた冒険者が、戻ってこないんです」


「回収した金をパクって、とんずらしたんか、それで、ケジメをとらそう、いう話か」


 冒険者ギルドの心情はわかる。だが、あまりやりたくない仕事だった。


 アリサが表情を曇らせ、声の調子を落として説明する。

「最初の方だけなら、持ち逃げの線もあるんですが、事実確認に行ったもう一人も帰ってこないんです」


 ケジメを取らせるより、悪い話だ。ホラー展開か。

「それで。おっちゃんに三人目の犠牲者になれ、と」


 アリサが控えめな態度で依頼する。

「そうはいいませんが、調査に行ってもらえないでしょうか」


 調査に行く仕事は良いが、今は目立ちたくない。前回のグール騒動で株が上がってしまった。

「他に行く奴がおらんの? おっちゃんは、胡椒を採取するしか能のない、単なる、おっさんやで」


 アリサが拝むような態度で頼む。

「信頼ができて、腕の立つ、冒険者。なおかつ、手の空いている冒険者は、おっちゃんしかいないんです」


(望んでいないのに評価が上がっている。これ、まずいな)


 砕けた態度で、やんわりと他人を推薦する。

「嘘やろう。ほれ、酒場を見てみい。暇そうにしている冒険者が三十人はおる。奴らに仕事を振ってやればいいんちゃうの? 働きたい奴に仕事を斡旋するのがギルドの仕事やろう。ほら、あそこの、あいつ。仕事できそうやでー、名前は知らんけど」


 アリサは渋々の顔で引き下がった。

「わかりました。指名依頼ではないので、こちらも無理にいえません」


「ほな、そういうことで、頼むわ」


 翌朝に朝食を終えて部屋に戻ろうとすると、アリサから呼び止められた。


 依頼受付カウンターに行くと、アリサが暗い顔で話し掛けてくる。

「昨日、館に出かけた冒険者が戻ってきません」


(また、戻ってこんかったのか、これは間違いなく、危険やな、手を出さんほうがええ)


「アリサはん。三回も人を出して、三度とも戻ってこないって、これ絶対に訳ありやで」


 アリサが困った顔をして、言い辛そうに切り出した。

「それで、おっちゃんに調査しに行ってもらえないでしょうか」


 目の前で手を振って断る。

「ないない。話の流れからいって、行け、言うか? これ、絶対にまずいって。もっと仰山の人を出すか、有名な冒険者パーティに話を持って行ったほうが良いって、館で何か恐ろしい事態が起きているって」


「次、おっちゃんが失敗したら、有名な冒険者パーティを投入しようって、ギルド・マスターは言っています」


「おっちゃんは生贄か。なんて、(ひど)い話を考えるギルドなん。三人も行方不明なんやろう。もう、ええやん」


 アリサがしれっとした顔で、すらすらと訂正する。

「一回目が二人、二回目が二人、三回目が五人なので、九人が消えています」


 初耳だった。事態は思っているより深刻だった。

「え、なに、複数で送って、誰も帰ってけえへんの? それ、むっちゃまずいやん。そんなところに、おっちゃん一人で向かわせるって、完全におっちゃんを、潰そうと思うてるやろう。アリサはん。いったいいくらで、おっちゃんを売ったん」


 アリサが困った顔でお願いしてくる。

「そんな人聞きの悪い話は言わないでください。今日はギルド・マスターから、おっちゃんへの指名依頼の形を採っているんです。報酬もきちんと出しますから、どうにか、お願いできませんか」


(あの、妖怪ババアが絡んでいるのか。いつも、碌な話を持ってこん)


「まあ、ギルド・マスターからの指名と言うなら、やらんこともない。でも、おっちゃんは、危険な仕事はしないからね。危なそうだったら。こんな恐ろしい場所でした、って報告に帰ってくるだけよ」


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[一言] ここのギルドはあかんやろもう
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