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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
バサラカンド編
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第百二夜 おっちゃんと若返りの薬

 数日後、領主のハガンが病気になったとのニュースが街に流れた。ハガンは今年で七十八歳、充分な高齢だった。街の人間は「もう、助からないのでは」と噂していた。


 おっちゃんは他人事だと思って気にも留めなかった。

 依頼掲示板の前に人だかりができていた。気になったので掲示板の前に行った。人だかりの原因は調達依頼だった。求めている品は若返りの薬で、依頼人は領主のハガン。報酬は金貨三万枚。


(領主の奴も必死やな。金で寿命を延ばそうとしている。ハガンはもう長いことないのかもしれん)


 若返りの薬は存在する。だが、製法と材料は全く謎だった。国で一番大きな魔術師ギルドの薬師の長でも製造方法を知っているか、微妙な代物だった。


 金貨は欲しいが、できない依頼なので誰も手を出せなかった。そのうち、人だかりが調達依頼の掲示板の前から消えた。


 おっちゃんも手を出さなかった。出したくなかった。


 お昼に冒険者ギルドに一人の男性が現れた。綺麗な真っ白な髪と白い短い顎鬚があった。

 くりっとした青い目をしている。年齢は五十代前半。肌は色艶がよい白色。手に杖を持ち、頭には紫のターバンを巻き、白のガラベーヤを着ていた。


 男性が調達依頼掲示板の前に行った。依頼票を外して、依頼受け付けカウンターに持っていった。男性はエミネと話し込むと、手紙を受け取って冒険者ギルドを後にした。


 まさかと思い、調達依頼の掲示板の前に移動した。若返りの調達依頼の依頼票が消えていた。


 気になったので、エミネの声を掛ける。

「ねえ、エミネはん。若返りの調達依頼の依頼票が消えていたけど、さっきの男の人がひょっとして受けたん」


 エミネが浮かない顔をして短く教えてくれた

「レインさんの話? うん、やるんだって。若返りの薬を作れるそうよ」


「そうか」と口にして、おっちゃんは依頼受け付けカウンターから離れた。

(レインと言うのか。詐欺師には見えんかったな。あんな無茶な依頼を受けて大丈夫やろうか。相手は傲慢な領主やぞ。できませんでした、では文字通りに首が飛ぶで)


 翌日は採取依頼掲示板と調達依頼掲示板に人だかりができていた。

 おっちゃんはなんやと思って見に行った。掲示板には四十件の採取依頼票と四十件の調達の依頼票が貼られていた。依頼人は全てレインとなっている。


 冒険者が依頼票を剥がして、次々と依頼受け付けカウンターに持って行く。おかげで依頼受付カウンターは大混雑した。


 冒険者がどんどん出かけてゆき、どんどん帰ってきた。

 レインの依頼は何件か増えたものの、依頼票は日に日に少なくなっていった。

「レインは本当に若返りの薬を作れるのか」が、冒険者の間では話題となっていた。


 遂には依頼票が残り二件まで減った。だが、残り二件からは減らなかった。残っている品は百年に一度だけ咲く『百年花』と『エンシェント・マスター・マミー』の心臓だった。


「やはり、厄介なのが残ったな。『百年花』はどこに咲いているか、誰も知らん。『エンシェント・マスター・マミー』は『黄金の宮殿』におるらしいが、かなりの強敵やね」


 お城からの兵隊が冒険者ギルドにやって来るようになった。兵士は毎朝、受付カウンターでエミネと話している。


 詳しい話は聞こえない。でも「品物はまだか」の言葉が聞こえたので催促されていた。催促は毎日続いた。

 頭を下げてエミネが城の兵士を見送る光景が日課になった。


 おっちゃんは(ねぎら)いの言葉を掛ける。

「ご苦労さん。毎日、毎日、大変やね。催促して出てくる品でもないやのにね」


 エミナが沈んだ顔で、ぼそぼそと答える。

「本当に困るわ。手に入らない物は手に入らないのに。でも、兵隊さんは悪くないわ。兵隊さんだって、仕事で来ているんだもの」


「全く目処が立たんのか」


「『エンシェント・マスター・マミー』の心臓は今、上級冒険者が挑戦しているから手に入るかもしれない。だけど、『百年花』については、全く目処が立たないわ。砂漠の崖の上に咲くらしいけど」


「そんな。バサラカンドに崖なんて、いくつあると思うとんのや、全部、登って探せと要求するんか」


 エミネが暗い顔でしんみりと話す。

「無理よね。でも、兵隊さんも上司に言われて催促されて困っているわ。このままだと、責任を取らされて、処刑されるかもしれないんだって」


「ハガン、無茶苦茶やん。人を殺して手に入る品でもないのに」


 エミネが寂しく笑う。

「でも、他人事ではないわ。きっと、お城の兵隊さんが処刑されたら、次は私に飛ばっちりが来るかもしれないわ。もし、そうなったらお別れね、おっちゃん」


「なんや、もう、そんなとこまで話が来ているのか。ハガンに頭に来るの。どれ、おっちゃんも探してやる。『百年花』について、教えてや」


 エミネがスケッチを見せながら教えてくれた。

「『百年花』は青いサボテンの花で百年に一度、花を付けるわ。主に切り立った高い場所に咲くといわれているの。これがその花の絵よ」


 おっちゃんはスケッチを見て固まった。

(あれ? この花はどこかで見た覚えがあるで。そうや、麝香鳥の住処や)


 おっちゃんは知っていると告げようとしたが、黙った。

(ここで教えたら、おっちゃんの評判が上がるな、ここは北方賢者様の出番や)


 おっちゃんはスケッチを返した。準備をして夜に麝香鳥の住処に向かった。

『暗視』と『遠見』の魔法を唱えて麝香鳥の巣を探した。


 巣を発見すると、麝香鳥がエサを求めて巣を離れるのを待った。

 麝香鳥がエサを探しに出掛けた。裸になりワイバーンに変身して、巣の有った場所に行った。


 巣の付近には小さな青い花をつけたサボテンがあった。スケッチで見た『百年花』だった。

 足でスコップを持って素早く掘り起こして『百年花』を袋に詰めた。飛び立とうとすると、背後に視線を感じた。


 振り返ると麝香鳥がいて、気の立った叫び声を上げた。

 麝香鳥が襲い掛かってきて、鋭い爪がおっちゃんの体に食い込む。


 おっちゃんは逃げ出した。おっちゃんが逃げると、麝香鳥は追撃してきた。

 ひたすら逃げたが、麝香鳥は追ってきて執拗におっちゃんに攻撃を加えた。


「あかん。このままではやられる」


 おっちゃんは止むを得ず反撃に出て、麝香鳥と空中戦になった。

 空中での戦いは麝香鳥が慣れているので、断然、麝香鳥が有利だった。


 おっちゃんの攻撃は当らなかった。おっちゃんは徐々に高度を下げた。

 麝香鳥も合わせて高度を下げた。


 おっちゃんは地面に到達すると、屈み込むような姿勢を採った。

 上空から麝香鳥が爪で襲い掛かってきた。


 おっちゃんは地面を大きく蹴って、地上で一回転する。回転するときに、ワイバーンの長い尻尾が麝香鳥の顔を鞭のように叩いた。


 初めて攻撃を受けた麝香鳥が驚いて距離を取った。

 おっちゃんは今だとばかりに大声を上げた。翼を拡げ、体を大きく見せた。麝香鳥は近寄ってこなかった。


 おっちゃんは体を大きく見せながら、ゆっくりと後退した。

 大きく距離が開くと、麝香鳥は飛び去った。


「ふー、なんとかやり過ごしたの」


 おっちゃんは、半身半馬のケンタウロスに姿を変え、『透明』の魔法で姿を消した。


 服と装備を回収して『百年花』入りの袋を持ち、冒険者ギルドに帰った。

 朝になって「フルカンを探しているんやけど」と聞いて廻った。


 昼に疲れた顔のフルカンが現れた。フルカンを伴って密談スペースに行く。

「なんや、お疲れのようやね。忙しいのか」


 フルカンは嫌々な表情で吐き捨てた。

「ああ、忙しい。どこかの馬鹿領主のせいでな。色々やる仕事が増えた」


「それはお気の毒に。ところで今日は、北方賢者さんから贈り物があるんよ。『百年花』や。ハガンが探していたやろう。渡してやって」

 おっちゃんは袋を開けて、『百年花』を見せた。


 フルカンが驚いた顔で確認してきた。

「いいのか? 冒険者ギルドを通せば、良い金になるんだろう」


「金は充分あるから、今は、ええ。それより、ハガンに忠告して。民衆を苛めていると家が絶えますぞって北方賢者が言っていたと、伝えておいて。言って治るとは思えんけど、少しはおとなしくなるやろう」


「わかった。きちんと伝えておく」

 フルカンは大事そうに『百年花』を持って帰った。


 おっちゃんは眠った。起きて食事をする前に掲示板を確認する。

 最後に残っていた二件の依頼票は、外されていた。


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