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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
サバルカンド編
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第十夜 おっちゃんと呪いの品

 おっちゃんは翌日に一人で、カインの死体を捜すためにジャングルに入った。


 ジャングルに入って『物品探知』の魔法を唱え、銀の鍵を探した。

 銀の鍵を持ってジャングルに入る人間なんて、そうそういない。


 鍵を発見した時、誤認はないと踏んだ。


 銀の鍵を発見した場所は、トロルの足でも二日も掛かりそうな難所だった。

(これ、人間やったら、よほどジャングルを知り尽くした人間でないと、帰ってこられない場所やで)


 銀の鍵があった場所に死体はなかった。骨もなかったが、生存は絶望的と思われた。

(よし、とりあえず、カインの遺品は手に入れた。あとは、キャロウェルがうまくやってくれることを祈るだけや)


『瞬間移動』の魔法で街に戻った。銀の鍵を持って、一人で公営墓地に移動する。


 霧の深い場所を目指して足を進める。近くにキャロウェルの気配を感じたので声を上げた。

「キャロウェルはん、来たで、おっちゃんや」


 馬の足音がして、ファントム・ナイトのキャロウェルが現れた。

「カインは見つかったか?」


「それを言うなら、グールを止める方法は見つかったんか?」

 墓場が一瞬シーンとなる。


「わかった、なら、おっちゃんのほうから先に報告する。言うとくけど、報告を聞いてから、グールの止め方がわからんかった、と答える態度は絶対なしやからな」


「騎士の誇りに懸けて」


 銀の鍵を取り出して見せた。

「カインがお守りに持っていた銀の鍵や。カインは死んだ。死んだ場所は、ジャングルの中や。死体は見つからんかった。おそらく、もう、獣か蟲の腹の中やろう」


 キャロウェルが黄色く光る目を細めた。キャロウェルの顔には疑いの色が、ありありと出ていた。

「確かに、おっちゃんが持っている鍵は、カインのお守りだ。だが、カインは本当に死んだのか? 鍵だけおっちゃんに渡して、どこかに逃げたのではないのか」


「疑り深いやっちゃな。死体がない以上は信用してくれと頼むしかない。あと、キャロウェルはんな、裏切られて死んだ話には、なっとらんぞ」


 キャロウェルが怒りの声を上げる。

「どういう意味だ」


「毒矢から助けようとして、カインがキャロウェルを突き飛ばした。そしたら、不運にも突き飛ばした先に落とし穴があって、キャロウェルは行方不明になった、いう話や。こっちは心当たりがあるん?」


 キャロウェルがハッとした声で応じる。

「ある。心当たりが、あるぞ」


「まあ、おっちゃんも聞いた話やから、真実かどうか知らん。こっちの調査は以上よ。そんで、グールのほうは、どうなったん。まさか、どうにもなりませんでした、てへ、とか口にせんやろうな」


「従いて参れ」


 キャロウェルに従いていく。


 荒らされた墓があった。墓穴の近くには二十体近いグールがいた。


「しばし待たれ」


 馬に乗ったキャロウェルが突進する。キャロウェルは凄まじい槍捌きでグールを次々と仕留めていく。


(手助け不要やね。しかし、恐ろしいまでの攻撃やね。ほんま戦わなくて正解やわ)


 ほどなくしてキャロウェルの槍がグールを平らげた。

 キャロウェルが墓穴に槍を突っ込んで、金の首飾りを取り出した。


「これが、ダンジョンのグール発生箇所と墓穴を繋げている原因だ」


 金の首飾りを、観察する。金の首飾りから、気品に満ちた美しさが滲み出ていた。同時に、禍々しい光も感じた。


「これ、呪われているね」


 ダンジョン生活時代に呪われた品を多数見てきたおっちゃんだから一目見て理解できた。

「よし、呪いを、解いてみようか」


 ダンジョンでモンスターをやっていると、呪われた品を扱う仕事は、たびたびあった。同僚や部下が過って呪いに掛かる事態もあった。


 呪いが発動したとき、呪いを解く仕事は魔法が使えるおっちゃんの役目だった。

「ほな、行くで」


 おっちゃんは『解呪』の魔法を試みた。


 黄金の首飾りから禍々しさが消えた。だが、おっちゃんはすぐに見抜いた。


「これ、あかんやつや」


 単純な呪いの品なら一発で『解呪』の魔法で呪いが解ける。だが、強力な呪いが掛かっている場合は別。一時的に呪いの効果を消すだけで、時間が経てば元に戻る。呪いを解くのには『解呪』の上位魔法がいるが、おっちゃんには使えない。


 呪いの除去が一時的と知らない冒険者は、『解呪』を使った段階で得意になる。そうして、後で窮地に陥ったりするが、こればかりは経験を積まないとわからない。


「あまり、いい気がせんけど」


 おそる、おそる、キャロウェルから黄金の首飾りを受け取った。


 いつ呪いが戻るかわからないので嫌な気分になる。呪いが戻ったら、おっちゃんはグールに変わっていましたの、展開もある。だが、教会までの運搬は、おっちゃんがしなければならない。


(サバルカンドの教会はどこも、それほど大きくないからな、黄金の首飾りを処理できるかな)


 おっちゃんが顔を上げたときには、キャロウェルの姿はすでになかった。

 霧も心なしか薄くなって気がする。


「早く冒険者の店に戻って、モレーヌに引き取ってもらう」


 教会に持ち込むなら伝のある人物がいい。おっちゃんが教会に持ち込めば、おっちゃんの手柄になる。手柄を立てれば、いくばくかの褒美が出る。けど、ささやかな褒美なら、貰わないほうがいい。


「目立たず、生きるいうのも、大変やな」


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