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おっちゃん冒険者の千夜一夜 作者:金暮 銀

サバルカンド編

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第一夜 おっちゃんと冒険者

【2017/06/08 おっちゃんの話している言葉はこの世界の方言です。日本で使われている関西弁とは異なりますのでご了承ください】
 光に照らされた薄暗い大きな洞窟の中にモンスターが一匹。モンスターの身長は三m、腰に布を巻き、人の形をしているが、肌は岩のように硬く灰色、目はぎょろりと大きく、二本の牙を持つ。

 トロルと呼ばれるモンスターだ。

 トロルと対峙するものあり。人数は五人、全身を甲冑で包んだ人間が二人。簡単な胸当ての上から魔力の篭った赤い僧衣を着た人間が一人。魔法の灯りを点した杖を持ち、灰色のローブを着た人間が一人。軽装鎧に弓を持った人間が一人。

 トロルと人間の冒険者たちは戦闘中だった。甲冑を着た人間が次々とトロルに切りかかる。弓からは矢が放たれる。

 トロルの岩の肌は硬く、剣が通らない。矢も弾いた。トロルは痛みをほとんど感じてなかった。
 わずかに傷ついた岩の肌もトロルの持つ再生能力の前に傷つく傍から塞がっていく。

 トロルは決断する。
(まず、教科書通りに、僧侶を潰そうか)

 両腕でガードの姿勢をとりながら、『朦朧』の魔法を僧侶に掛ける。
 僧衣を着た人間がよろめいた。

(よし、利いた、これで、おっちゃん、楽できる)

 トロルは自分を「おっちゃん」と呼んでいた。仲間内のモンスター間でも「おっちゃん」で通っていた。

 後方にいたローブの男が「この、トロル、魔法を使うぞ」と叫ぶ。

(もう、遅いわ)

 ローブの男が僧衣の男に掛けられた魔法を解除しようとする。ローブの男が急に吹き飛んで動かなくなった。

 男を吹き飛ばした正体は闇の中から現れた、もう一体のトロルの「かどちゃん」だった。

(ナイスだ、かどちゃん、タイミングはピッタリや。潜伏と奇襲は、かどちゃんの十八番だからな)

 おっちゃんが腕を大きく振りかぶった。一歩を踏み込んで、拳を打ち下ろす。
 大振りの一撃、鍛錬を積んだ人間なら回避はさほど難しくない。だが、目標は朦朧状態の僧衣の男。

 僧衣の男はトロルの一撃を受けて、その場に倒れこみ、息を引き取った。
(仕事やけどこの人を殴り殺す感覚は、いつになっても嫌なもんやな)

 五人いた冒険者は瞬く間に三人に減り、一分後には冒険者側は全滅した。

 おっちゃんが、人間の装備品を剥がしながら持ち物を漁る。

 かどちゃんが控えめな態度で、おっちゃんに話し掛ける。
「おっちゃん、今日で仕事を辞めるって本当ですか?」

 おっちゃんは淡々と答える。
「そうか、おっちゃんが辞める話を聞いたんか、うん、辞める。この冒険者の死体を始末したら、ここから出て行く。時間的に今のがタタラ洞窟でのラスト・バトルや。もう、ダンジョン・マスターには挨拶を済ませてきた」

 かどちゃんが寂しげに尋ねる。
「ここを辞めてどこに行くつもりですか。他のダンジョンですか?」

「いや、人間の町に行こうと思ってるねん。冒険者に紛れて、隠れて暮らそうと思う」

 かどちゃんは驚きを隠さない。
「冒険者になるって、なんの冗談ですか」

 おっちゃんは笑って答えた。
「冒険者になるって考えた時は、おっちゃんも自分の頭おかしくなったかなと疑った。でも、色々考えると冒険者いいかな、と思えてきてな。まあ、人間とパーティを組んでダンジョンへ行く仕事はしない。独りでほそぼそと、依頼を受け暮らそうと思う」

 かどちゃんが首を傾げる。
「でも、おっちゃんが人間に紛れて暮らすって想像できないな」

「生きていれば、色々あるゆうことや。それに、おっちゃん、人間の姿にもなれるんやで」

 かどちゃんが腕組みして納得する。
「おっちゃん、魔法を使うのが得意ですからね」

 おっちゃんは魔法を使って人間の姿になるわけではなかった。おっちゃんの正体はトロルではなく『シェイプ・シフター』と呼ばれる姿形を変化させられる能力を持ったモンスターだった。
 変身能力は優秀なもので、トロルに変身すれば、生まれつきトロルのかどちゃんにも見分けが付かなかった。

 冒険者の死体を死体捨て場に投げ込む。ダンジョン内にあるモンスターの控え室に移動する。
 ロッカーから予め必要になりそうな、物を詰めてあったバック・パックを背負ってダンジョンから出た。近くの茂みに移動する。

 シェイプ・シフターの能力を解く。三mあった身長が百七十㎝に縮んで人間の姿になる。バック・パックから服と軽装の皮鎧を出して着替えた。

 最後に冒険者が持っていた鏡で、自分の姿を確認する。四十歳の男性の姿がそこにあった。おっちゃんは丸顔で無精髭を生やしており、頭頂部が少し薄い。おっちゃんの本当の姿が、そこにあった。
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