運命の歯車第1章始まりの終わり7
城 桐火(きずききりか)について特筆すべき点は多くはない。幼い頃から母子家庭であり家事全般はよくできる方である。勉強においてもクラスでは3位学年全体ではいつも10位辺りにいるのだから自然と周りからは優等生と思われたとしても不思議ではない。
だが本人にとっては母は自身の学費や毎日の生活費を朝から夜遅くまで働いて稼いでくるのだから自身が手伝えることは手伝っていたに過ぎない。勉強も特待生に選ばれれば奨学金制度を受けられそれにより母の負担を少しでも減らせればと思い勉強していたに過ぎない。だがそれは周りから見れば母子家庭を苦にせず健気に母を支えるよくできた娘に見えたであろう。
そんな桐火には昔からよく見る夢があった。ここではないどこかの世界では自身の知らない父が居て母も仕事には行っておらず家で自分と父の帰りを待っていてくれた。桐火はそれを自身の願望だと初めは思っていた父のいない自分がもしも父がいてくれたならとそんなありもしない事を夢として見ているのだと。
だが、それがただの夢ではないと知ったのはその夢を見る様になってから2年後だった。中等部2年冬だった雪白渚(ゆきしろなぎさ)この女性との出会いで桐火は自身が見てきた夢の意味を知る。最初は何を言われているのかわからなかったすべてが決められた世界、これまで自身が見てきた夢はかつて人々が自由に生きていた世界での事その記憶を夢という形で見ているのだとすべては世界が決めたことそれに抗うすべを持つ人だけが見るかつての世界での夢。世界を変えることが出来るかもしれない一人だと。当然最初は警戒した新手の詐欺かと思ったほどだ。だが何度か話を聞くうちにその人となりが決して悪い人ではないとそう感じていた。だからと言ってその言葉のすべてを信じていたわけではなかった。だがおそらくそのことは彼女も気付いていただろう。だからと彼女はこれから起こることを私に話してくれた。
「これから貴女に起こることを教えてあげる。私が話すのはもうこの世界が決めていることだから貴女が何をしようともそれは変わらないわ。だから教えてあげる」
「それがもう決まっていることなら貴女は一体どうやってそれを知ったのですか?」
「簡単よ。この世界ではないもう一つの世界にあるのよ。この世界がどうなるのか誰がどんな役割を持って生まれたかをすべてが記された書物がね」
「もしそんなものがあるのなら私が貴女の言葉を信用するかどうかも記されているのでは?」
「残念だけど私はもうこの世界の理から外れた存在なの、だから本来なら貴女と私は会うことすらなかった。だから私とのことは書物には記されてないわ。貴女の運命を変えられるのは私だけ私がいることで貴方はこの世界の理から外れることが出来る。私とのことが記されていない以上貴女がどうするかはわからないわ」
おそらく雪白渚という女性が言ったことに嘘はないだろう。決して人の嘘が見抜けるわけではないだが彼女がこんな嘘をつく理由が見当たらない。だからと言うわけではないが信じてみても悪くはないとそう思った。
それからは驚きの連続だった。学年末のすべてのテストの点数、間違えた箇所、そのすべてが合っていた。
そして中等部3年のクラスメイト、担任の先生、班分け、委員会のメンバーから部活動の人数あらゆるものが雪白さんの言ったとおりだった。それからと言うもの雪白さんが教えてくれたことはすべて的中していた。そうして一年ほどを過ごした高等部1年の夏休み私は雪白さんともう一つの世界に出会った。
「桐火教えてほしい。僕に何が出来るのか、僕は何をすべきなのか」
「まず、私たちがいた世界がすべてを決められた世界であることは渚さんから聞いてると思うけどまずはそうなった理由からね。私たちが今いるこの世界は今から200年ほど前に人通しの争いが絶えなかったのそのせいでこの星の環境は劣悪はものに変わったわ。でも人々はそれでも争いをやめることがなかった、どの国も受けた被害の大きさのせいで途中でやめることが出来なくなってしまったのね。だから世界は自身を守るため人を管理することに決めたの。そのために創られた世界がこれまで私たちの過ごしてきた世界なのよ」
「創られたって誰が創ったんですか?あの世界を丸ごとましてやこの世界にいた人々はどうやってその世界に?」
「あの世界を創ったのは誰なのかはっきりとわかっていないわ、でもある程度の目星はついているの今はその確認とこの世界の記憶を残している人々を探して協力をお願いしているのよ」
桐火からの説明を受けても謎が謎を呼ぶばかりで一向に全貌が見えてこない。それでも少しだけわかってきたことがある。僕もまたかつてのこの世界の記憶を持つ人間で雪白さんとここに来たことによりもう世界の理から外れた存在になったこと。そして桐火達は運命に抗ってまで自由を求めていること。
「でも僕なんかに何が出来る?僕はただの学生だ。たまたまこの世界に関する記憶が残っただけの特別な存在なんかじゃないのに」
「それなら私も同じよ、ここに来るまではただの学生だった。貴方よりもいくつかの部分が秀でているだけのね」
「ずいぶんと酷いな...まあ確かに間違いではないけど」
「大丈夫よ貴方は必要なの他の誰でもない。私には貴方が必要なんだから。だからここにいて私のそばに」
そう言って桐火はこれまで何度も見てきた笑顔をこちらに向けてくれる。ただそれだけで僕は安心した。まだ桐火はいつものように笑えるのだから。
だが僕は知らなかった。彼女の笑顔の裏にどれだけの苦労があったのか何も知らない。それでも思ってしまう。桐火にはずっと笑顔でいてほしいと。
予定よりも更新が遅れてしまい申し訳ありません。当初予定していた部分を大幅に変更して書き直したので予定よりも遅れました。
今回は少しだけ桐火と渚の出会いに触れました。今後も少しずつ登場人物達の過去を書きながら進めていきたいと思います。