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運命の歯車  作者: kisuke
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運命の歯車第1章始まりの終わり4

 城桐火(きずききりか)との関係を一言で表すならおそらく友人で間違いないだろう。特別何かきっかけがあったわけではないがそれでもこれまでの人生の中で妹の亜紀(あき)についで長い時間を過ごした異性は桐火で間違いないだろう。桐火に対して恋愛感情を持っているのかと聞かれたらおそらくないと答えるだろう。だがもしも彼女の身に何かあったのなら僕はそれを見て見ぬふりは出来ない。いや正確に言うならばそんなことをしたくないとそう言えるだろう。だから雪白さんから一度家に帰ってしっかりと考えるように言い含められ帰宅した今もその気持ちは一向に変わらないおそらく明日になれば桐火に会って手紙の意味も聞くことが出来るだろうと。

 わずか2時間ほどで帰宅した兄を見た妹が真っ先に思ったことはヘタレ次いで浮かんだことは意気地なしと非常に辛辣な評価であったがそう思ってしまう程度には帰ってきた兄の表情はよくないものだった。何があったのかと問いただしたものの兄はほとんど上の空でこちらの話をまともに聞いていなかった。

(さすがにこんな展開になるとは思ってなかったわ、確かに最初のデートでいきなり遅刻するのはどうかと思うけど桐火さんならお兄が遅刻してくることはおそらく計算のうちに入っていたはずよね?)

 亜紀にとって兄のクラスメイトである桐火は自身にとっても姉のような存在である、何度か家にきて兄と勉強している風景を見たがまるで恋人同士のじゃれあいのように亜紀は感じていた。自身も何度か勉強を教わったが非常に丁寧にそしてこちらがわからないことをわかりやすく説明してくれる。何度かショッピングにも付き合ってもらったことから亜紀は桐火に懐いていた。そんな桐火が日曜日に兄と出かけるとなればそれはデートと言っても問題はないだろう。だというのに兄はわずか2時間ほどで帰ってきてからずっと自分の部屋にこもっている。

(一体何があったらああなるのかしらね?)

 多少だらしない面もある兄だが基本的には真面目である学校でも友人は多い方だろう面倒見もよく成績もそこそこだ。特別何かが得意ということはないが苦手もなくなんでもそつなくこなしている印象だ。そんな兄を知っている桐火が兄をあんな風に追い込むようなことをするとはどうしても考えられなかったのだ。

 だが現実問題として兄はこれまでに見せたことがないような表情で家に帰宅し今なお部屋にこもったままなのだからここは妹としてやはり兄にきちんと確認すべきだろうと決心した亜紀は兄を問いただすために意気揚々と兄の部屋へ攻勢をかけるのであった。

 家に帰ってからというもの頭の中にあるのは桐火のことばかりだ、今どこで何をしているのか桐火は一体何を知っているのかいろいろ聞きたいことは多いがまずは桐火が無事なのかどうか雪白さんははっきりと教えてはくれなかったが今のところは無事なのだろう、だがよく言えば義理堅い悪く言えば融通のきかない桐火が約束を違えてまでしなければならないこととは一体何なのか考えても仕方ないことなのかもしれないがそれでも何も考えずにいられるわけではない。そして桐火の手紙にあったこの世界のこと。

(人が生まれることから死に至るまですべて決められていたらか...でももしもそれが本当ならこれまでのことも全部決まってたってことだよな、それだったら僕がどちらを選ぶかももう決まってるのかな?)

 他愛もないことを考えていると部屋の扉がノックされた。

「お兄ちょっといいかな」

 亜紀だ、そういえば家に帰ってきたときにいろいろと聞かれたような気がしたがその時の自分は何と答えていただろうかよく思い出せないがおそらくまともな返答にはなっていなかっただろう。そう思いながらどう説明するべきなのかそもそも亜紀に話していいのかどうかもわかっていないのだからどうしようもないことなのだろうがそれが通用する相手ではないだろう。だからと言ってこれといった策は何もないのだがこのまま何も教えないのは違うだろうとそう思い妹を部屋に入れる。

「お兄今日は桐火さんとデートだったんでしょ?何があったの?」

「話すと長くなるんだ、とりあえず簡単に説明すると今日は桐火の都合が悪くなったみたいでな、だから明日会って話すことになったんだよ。それからデートじゃない」

「本当に?だったらお兄どうしてそんな顔してんの?明日会えるならそんな顔はしないと思うよ、それに桐火さんがお兄を2時間も待たせて今日行くことが出来ませんなんてそんな無責任な人じゃないと思うよお兄じゃあるまいし」

 この妹は随分と兄に厳しいがそれは今に始まったことではないのでここでは無視しておくが、やはり妹も桐火を知っているだけあって簡単にはごまかせない様だ。

「いろいろあったんだよ、桐火だって完璧じゃないんだ。別に僕を2時間待たせたとしても別に誰も困らないだろ」

「いろいろって何?別に私はお兄が2時間待っても10時間待っても知らないけど問題は桐火さんが約束にそれだけ遅れるのに事前の連絡も何もないってことはあり得ないってことだよ、例えお兄みたいな人であったとしてもね」

 自身の兄よりも桐火の方が評価が高いらしい。もっともそれは決して間違っていないのだから兄としては情けなくとも何も言い返せないのだが。

「いろいろはいろいろだよ。今日はせっかく服まで準備してもらったのにすまないな」

「お兄わざと話そらしてるでしょ、これでも一応お兄のことを心配してるんだけど?」

「大丈夫だよ、桐火に遅刻した言い訳をいろいろ考えたら疲れたんだ。明日になれば会って話せるんだ何も問題はないよだから心配するな」

 話はこれまでだとばかりに妹を部屋から追い出した。これ以上いろいろと聞かれてはさすがに誤魔化すことが出来そうにないからだ。

(明日桐火とちゃんと話してそれで終わりだ、なんだかよくわからないけど明日になれば桐火は戻ってきてこれまでと同じようにそうこれまで通りのいつもの毎日が続くんだ) 

 そうこの時は僕もそう信じていた明日桐火に会って直接話を聞けばまた元通りの生活が始まると何も疑いもせずただただ信じていた。何も知らないというのは本当に幸せなことだったのだとそう思うようになった時にはすでに取り返しのつかないところまで踏み込んでしまっていたのだから。

運命の歯車第5話目の投稿です。次話ようやく桐火さんの登場予定です!

果たして桐火は柊斗に何を語るのかそして柊斗はどのような判断を下していくのかそしてこの世界に対してどのように向き合っていくのかまだまだ展開が広がっていく予定です。

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