インザカー
『ドライブだ』
言い出しっぺは僕だったのに、正直気が気じゃない、と言うのが本音だった。
そもそもこいつにドライブを切り出した本当の理由は車に乗り込み名前も知らない街まで行って、そこでISSAを降ろして自分はさっさと戻って来る、と言う我ながら何とも姑息な魂胆だったのだが、
なにぶんコイツは見た目が目立つ。
室内だと光の加減で気がつかなかったが、よく見れば髪の色は毛先だけアッシュ色にしていたり、服装も、何というか特別力が入っているわけでもないのだが、この見た目だからかオーラがある。まるで業界人を思わせる雰囲気は人の目を惹き付け、オマケに顔だけに留まらず、立ち上がった時スラリと伸びた四肢がモデルかと思わせる程のプロポーションで、とにかく難癖を付ける場所のない見かけに、ただただ圧倒させられた。
同時に、これが女だったらなと幾度も反芻した。
そして一番の問題は、“面倒ごと”の塊である張本人が、上機嫌だと言うことだ。
助手席にISSAを押し込んで車体を走行し出してからずっと、こいつは隣で鼻歌なんか歌っている。
自分の置かれてる状況わかってるのかこいつは。
「随分と上機嫌だな」
不機嫌な声色は押し殺して投げ掛ける。
「ドライブって好きなんだ。
色んな景色が一望出来るからね」
そう言って、窓の外を見るISSAは、隣から見てもどこまでも正直だった。一瞬、心中で後ろめたさが走る。