下剋上を真上から
マヌケな顔に、資料がぶちまけられる。僕の持ち込んだプロジェクトだった。
「もういい、もう帰れ、きみ」
「明日から来なくていいから。」そう言って、社長は、虫けらを扱うようにしっしと手を払い、僕という人間を、あしらった。
僕は他人よりは気長なたちなのだが、この仕草ばっかりは気に食わなかったらしい。
でなければこんな行為に、出ることはなかっただろう。
「そんなに偉いのか」
「は?」
「たかだか社長が、そんなに偉いのか」
人間の沸点とやらは、いつ何時何をキッカケに到達するかわからない。僕としては前述に並べた通りなのだが。
あろうことか、僕は、社長の、ニス塗りの光沢ある木製デスク、それこそ法廷で言う裁判官の立つ裁判台さながらのそれに、片足を乗せ、舌を出し
中指を突き立てて叫んでいた。
「こんな労働基準に反している糞みたいな会社、こっちから願い下げだ
庶務課の女子にせいぜい媚売ってろ、このキリギリス顔が」
社長の顔色が青ざめ、にわかに上気するや否や、僕も意識を取り戻す。
やってしまった、と気付いてからは、愛想笑いを浮かべてみる。勿論取り返しが付くはずもなく、僕は何も言わずに社長室を出て、ご丁寧にお辞儀なんかもして、エレベーターガールのくびれを眺めながら80階建てビルの一階まで降りた。