こころのかたわら
「そしたら毎日同じ恰好なんかしてたらおかしいでしょ。今日が昨日の延長線上になる」
「普通はそうなんだけどな」
「だから俺の見た目はコロコロ変わる。と言うか生まれ変わってるから二度同じ今日はない。
快活で、円満」
ふくよかな妊婦がパンをむさぼるようにホクホクと頬を膨らませて、ISSAは背もたれに凭れる。
僕は隣を見る。
「だから毎日見た目が変わると」
「そゆこと」
「髪の毛も服装も人格も?」
「人格まではね。俺自身は生まれた時から自分の性格好きだからね」
急に理屈に欠陥が生じるところ、やっぱりこいつは偏屈だ。
「若い頃に髪を遊びすぎると将来禿げる」
「その時はその時、スキンヘッドを満喫するよ」
話が可笑しくて、笑いながら指を指す。
「つむじ曲がりめ」
「それ、俺の異名だよ。つむじ曲がりのISSA。
鳥目の朔とつむじ曲がりのISSA、なんかいいな」
ヤだよそんなコンビ名、とぼやくが、僕自身、既にISSAといて楽しさを見出だしてしまっている以上、何とも言えなかった。
一頻り笑い終えて、僕は運転しながら考える。
――本当にこいつを降ろすのか?
自分の中の自分が問い掛けてくる。でも仮にISSAが罪人だとしたら、その道のプロだから、人との上辺交流は得意、と言うのも十分あり得る。
隣で笑うISSAを横目で見ても、かといって人を騙している目には見えない。
――じゃあどうしろって言うんだ。
運転中にも関わらず、ギュッと固く目を瞑る。車は既に地形も詳しくない見知らぬ隣町に到達していて、県道を逸れた道路は、仕掛けるのに十分のシチュエーションだった。