鳥目の僕
「視力がいいんだね」
だから、突拍子もなく隣からそう言われた時は、目をかっ開いて、ハンドルが狂いそうになった。
「え!?」
「さっきから、車のナビも付けてないのに、上手いこと道路渋滞を避けた道を進んでる。
最初は車の流れで推測してるのかと思ったけど、さっき赤信号で止まった時、朔はまだ信号が青にも関わらず減速した。それってここの信号を潜り抜けても先の信号が赤になるのを見えていたからだよね?」
腕組みをして、ISSAは背もたれに背中を預けたまま悠々と言った。その間にまた赤信号が目に入り、ゆっくり速度を落とす。
「…君は、洞察力に優れてるんだね」
「違うよ。見てるからわかるんだ。物事の本質ってのはどうしても見た目に囚われがちだけど、重要視すべきはいつも内面の奥底にある」
とんだ理屈屋だな、と思う。同時に今まで張っていた気も全て見透かされていたのではないかと予感がして、突然馬鹿馬鹿しくなって体の力を抜いた。
そうすると、思いの外楽になった。
そう、それこそが僕の変質。僕は生まれつき、鳥目らしかった。
そのため夜になると視野が狭まり、世界が暗転して行動がロクに取れなくなるから、と小学校の林間学校は仮病で参加しなかったし、視力検査の時、小学1年にして測定不能の数字を叩き出してからは、適当に検査に取り組むようになった。
お陰で検査結果はいつもバラバラで、担任にもよく心配されたものだ。