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両親を除く家族全員で集まって飯を食って、なんだかんだで盛り上がって、風呂に入って、今は自分の部屋で寛いでいる。
主に盛り上がっていたのは主役の俺ではなくて、姉たちだったが。
時刻は二十二時を過ぎていた。
明日から高校生活が始まる。姉たちも仕事がある。だから今日は全員早めに床に就くことにした、というわけだ。
が、俺はまだこの身をベッドに投げ出すことができないでいた。
「どうすんだよ、これ……」
テーブルの上に広げて置いた四枚の音楽CD。
これをどうするか、それが今の俺の悩みの種だ。
四枚のCDにはそれぞれ、我が家の四女以上の姉たちが写っている。
それぞれが特徴的で、たとえば茉奈姉さんはアイドルのようなヒラヒラとした可愛らしい衣装に身を包んだ姿で写っている。
反対に杏果姉さんと玲亜姉さんは、如何にもアーティスト的な雰囲気を意識した落ち着きのあるドレスのような衣装だ。
明日夏姉さんはスラっとしたスタイルの良さを意識してか、脚を露出させたタイトな衣装で全身が収まるよに写っている。
そして肝心の中身だが、当然そこには音楽が記録された円盤が入っている。
「……念のため一回は聴いてやるか」
俺は本当にお利口さんだ。
アンチならそもそも買わないし、誰かから貰っても捨てるだろう。
一応身内ということもあるが、流石にそこまで酷いことはしない。
ただ、この手のアーティストの音楽はあまり好きじゃない。嫌いとまでは言わないが、好みではない。
音楽の好みを語ると、たとえば邦楽ならB'zが好きだ。幼少のころからギターのコピーもしている。姉さんたちと日本でトップのミュージシャンを比較するのもおかしな話だが、俺は王道のギターロックが好きなのだ。
姉の音楽だから好みではない、という話ではない。好まない理由は他にもいろいろあるが。
そして、我が家の姉は全員で五人いる。しかし夕方のパーティーの終盤で姉たちからプレゼントされたCDは四枚。
一枚足りないのは、美沙貴が原因だ。
美沙貴からもCDを貰いたかったわけではないが、姉妹の中で唯一本格的なアーティスト活動をしてないのがその美沙貴なのだ。
だからCDの代わりに、謎の決意表明が記された小さな手紙を渡された。
【私も他のみんなと同じように、早く声優アーティストとしてデビューできるようになるからね!!】
そう記されていた。
「……俺に言うなよ」
勝手に頑張れよ、と思いながら俺はその手紙を折り畳んだ。
そう____俺の姉たちは、何故か全員が声優として活動しているのだ。
女性声優の姉が五人もいる、世にも珍しい高校生。おそらく俺以外にいないだろう。
深くため息を溢し、俺はようやくベッドの上に身を倒した。