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始めに

 怪異とは現象である。

 そもそも怪異とは、この世ならざる物。この世界において存在することのないものである。彼も、彼女らも、そして何より僕も、本来は存在しなかった現象である。

 ならばなぜ、僕たちは存在しているのか。否、もっと言うなれば、なぜ怪異というものが存在しているのか。根底まで探りを入れた結論から言えば、「存在してると思っているから」だ。

 「センス・アルゴ・スム」といえば懐かしき学生時代を思い出す人もいるだろう。「我思う、ゆえに我あり」。この言葉の意味するところはつまり、「私が見ているあなたは幽霊かもしれないし幻かもしれない。しかしそう思っている私はどうしようもなくそこに存在している。」ということだ。私は思う。考える。悩む。それこそが私という存在を証明する唯一無二の証なのだ。

 この言葉を念頭に置いたところから、怪異という存在を語ろう。怪異たちも我々と同じである。考える心を持つ者が我々。つまりはこの世のものとするならば、彼らも必然的にこちら側の存在となる。もっと定義の輪を広げれば、心を持つ物全てが存在しうるということになる。ならば怪異とは?なぜこの世という枠の外へ押しやられるのだろうか。それは若干矛盾するかもしれないが、彼らが本来なら存在しない、つまり心など持たない物質か何かであるからに他ならない。もともと存在しないものが心を持って存在する。それが怪異なのだ。

 なら、と考える。僕という男は、本来ならすでに死んでもうこの世から永久に退場しているはずの存在なのだ。それがここにいる。この時点で怪異である。消えたはずの僕が、本来影も形もなく存在しないものと共に舞い戻ってきた。この時すでに僕は人間という定義を逸脱している。そこに取って代わって定義されるのは僕という現象なのだ。人間ではない怪異。すなわち三段論法的にまとめると現象。今僕は、現象としてそこに在る。在ると思っているからここに在る。しかし人間ではない。

 僕は怪異。もっと言えば僕は―――悪魔―――。

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