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ホームレス二人旅  作者: マ・ロニ
第一章
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エピローグ

エピローグ


 中継地点の火の始末と、俺達の私物の片づけをしてから出発をする。天気は曇天だ。今にも、雨が降ってきそうだ。昨日の戦闘の疲れは残っていない。俺も歳だがまだまだ元気だ。降られる前に、都市へ戻りたいものだ。


 日向の森を抜ける頃から、シンシンとした雨が降り始める。霧のように細かい雨だ。視界が若干悪くなる。全員雨具は着けない。多少冷たいが、我慢できないほどではねえ。ガリーザは、少し辛そうだ。身体が冷えて、腕が痛むのだろう。

 ゴンが、ガリーザに自前の雨具であるカッパを掛ける。朝出発する前に、荷物から取り出して素材袋に入れていたのを知っている。


「……普通、自分で使うんじゃあないのかい」

「オオ、俺は、だだ、大丈夫。きき、気にしないで」

 

 「気になんてしないよ」と歩みを止めず、ガリーザは言う。ゴンもそれで良いと、頷いている。もう少し我慢すれば、交易都市にたどり着く。

 

 交易都市に着く頃には、霧雨が強まり、大分、視界が悪くなっている。門の前に掛かる橋のたもとでラティオ達は立ち止まり、こちらに声を掛ける。


「お疲れ様でした。ここで、荷物持ちの役割は終了です。こちらが、今回の賃金となります」

 

 首から下げた革袋を懐から取り出し、袋ごとこちらに渡す。中には、銅製の紋様が刻まれた、コインが十枚入っていた。こちらの給与の価値基準が分からないから、多いのか少ないのか判断はできん。袋ごとゴンに預ける。ラティオ達の荷物をそれぞれに返す。


「都市への入場税は一人、銅貨三枚です。守衛の検査を受けて、木札と交換で渡して下さい」

 

 ラティオからそう説明する。今、渡されたのは銅貨十枚と言うことか。入場税を払って、四枚残るから小遣いってところかな。じっと、こちらの顔を見ていたラティオが再び口を開ける。


「もし、お二人が良ければ、私達のチームに加わりませんか」


 突然の申出に、少し吃驚した。思わずゴンの顔を見る。ゴンもたまげた顔をこちらに向けていた。しかし、答えは決まっている。


「ありがてえ申し出だ。だが、悪い。断らせてもらうよ」

「なんでだい! いいじゃないか。あんだけ戦えるんだ、いっぱしの冒険者として十分にやって行けるよ!」


 ガリーザが怒鳴りつけてくる。最初はあんなに、こちらを馬鹿にしていたくせに、えらい気の変わりようだ。なんとなく、くすぐってえな。


「お前たちが嫌なわけじゃあねえんだよ。そいつは、分かってくれ。俺とゴンは、放浪の旅をしている。一所に長い間、留まるのは性に合わねえ。今の生活が良いんだ」


 ラティオもハダスもこちらを見ている。ガリーザはフクレ面だ。諦めたような笑みを浮かべ、一つため息を吐いたラティオは、改めてこちらに顔を向け


「仕方がありません。今回は諦めます。気が変わったら、いつでも声を掛けてください」

「おう、分かったよ。まあ、門を通って都市の中までは一緒に行こうや」


 これで、死に別れて、最後じゃあるめえし。俺はそう思っている。ラティオの後に並び、守衛の検査を受ける順番を待つ。霧が、濃くなっていく。前に並ぶラティオ達が影のように見える。


 いくらなんでも、こいつはおかしい。霧が濃すぎる。変だ。


「げげ、ゲンさん。ここ、こいつは、へへ、変だ。きき、霧が、ここ、濃すぎる?」

 

 最後の俺への問いかけが、おかしな感じの疑問形になっている。俺も気付く、こいつは経験がある。――この世界に来る前と同じだ。


 霧がスウと晴れていく。俺とゴンは、朝の高架橋下にボケっと立っている。時計を見ると時刻は、朝七時。交易都市前についたとき、森から出発した経過時間を確認するために見た時は午後三時を示していた。時計の時間が、こちらの時刻に戻っているのか?


 俺は、ゴンに荷物を預け近くのコンビニで新聞をチラ見して日付を確認する。俺達が、異世界に迷い込む日の、翌日になっている。せいぜい、半日程度しか経っていない。 ゴンの元に戻り、高架橋を背に座り込み思わずつぶやいた。


「夢でも見ていたのか? それとも、俺がいかれていたのか?」

「げげ、ゲンさん。ゆゆ、夢じゃあない」

 

 つぶやきに答えるように、ゴンはズボンのポケットから革袋を取り出し、中身を見せる。銅貨が十枚入っている。荷物の中身を見る、オークの干し肉が残っている。俺達が初めて仕留めた、ゴブリンの角やオークの牙もある。

 夢じゃあねえが、夢のような体験をした。誰に行っても信じてはもらえねえ。傍から聞けば与太話もいいとこだ。


「まったくこれじゃあ、別れの挨拶もできやしねえ」


 急に迷い込まされ、戻される。神様も人が悪い。別に、神様は信じちゃあいねえが。まあ仕方がねえ、無事帰ってこれただけ、一応、良しとする。


「とりあえず、今日は一日、休もうゴン。人目の無いところで飯にしよう」

「にに、肉は、まま、まだあるからね」


 明日から、又、ゴミ漁りして、適当な時分に山にでも行こう。そう考えると、向こうでの生活の方がマシに思えてくる。

 豊かな日本で、肩身狭くし、ゴミ漁り。人目を気にして、飯を食う。

 おかしなもんだ。今は少し、向こうに戻りてえと思っている。


「まま、又、行けるかな。げげ、ゲンさん」

「さあな、それこそ、神のみぞ知るだ。ゴン」


 ゴンも、戻りてえ思っているのかな。

 

 陽が差している。日本は、暑い夏。向こうも日中は暑く、同じ季節に感じたが、日本よりか過ごしやすかった。飯を食うため、人目の付かない場所を探しに、高架橋の元を離れる。又、不細工なゴンとチビで短足な俺、職なし、家なし、貯金なしのホームレス二人で、旅を続けるか。

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