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用務員さんは勇者じゃありませんので  作者: 棚花尋平
第四章 立ち寄った地で
100/144

98-蹄金千枚

長いです。二本分弱あります<(_ _)>


ちょっぴり改変。ただし、本筋にはまったく影響ありません<(_ _)>

「――罪人の娘がのこのこ出てくるなんて。恥知らずにもほどがあるわ。すぐにお帰りなさい」

 慰労会に参加する芸女たちの待機場所で、二弓二胡の最終調整をしていた宵児を囲んで、胡州茶館を始めとした有名どころの芸女たちが恫喝する。

 だが宵児(シァォニ)はずらりとならんだ先輩芸女たちを前にしても、いつもどおりの冷淡な顔つきで返す。


 ただいつもと違うのは、唇に引かれた鮮烈な赤であった。

 白い肌にまっすぐに切り揃えられた黒髪と黒い狐耳と尻尾。タイトなモンゴル風の衣装は鮮やかな青華が刺繍された紺地で、そこに臙脂色の帯が巻かれている。ぱっと見た印象は暗い。

 だが唇に引かれた口紅によって、全体的に妖しげな印象になっていた。

 今日の慰労会でひとりだちできることを美児に証明する。安心してもらう。

 その決意が、印象の変化に一役買っていたともいえた。


 さらに宵児は無表情のまま、いかにも可愛らしく小首を傾げた。

「わたし、いえ、わっちはここに呼ばれたから来ただけ。もしご不快なら、居留地側に直接掛け合ったらどうですか? わっちらよりも腕が良いので困ります、とでも正直に言ったら同情してくれるかもしれませんよ?」

 小馬鹿にするような仕草と険のある言葉に、先輩芸女たちはその美しい顔に青筋を浮かべた。

「……しょうべん臭い小娘の分際で口の減らないことを。目上を敬うことも知らないとはさすが罪人の娘ね。ふんっ、どうせ美児も消える。そうしたら――」

「――仇を敬うような恩知らずにはなりたくありませんので。ああ、あなたたちはお金のために、義理も意地も恩も売ってしまったんでしたね。これは失礼しました」

 もし美児に借金がなく、穏便に生きていこうとするなら宵児もここまで言う気はなかった。芸女も侠帯芸女も生き方の違いに過ぎない。

 だが、そもそも美児の件で完全に敵対している。今まではさんざん鬱憤を溜めてきたのだ、ここに至って遠慮する気などさらさらなかった。


「くそがきっ――」

「――時間です。こちらへ」

 控室のドアが開き、慰労会を主催する商館員が声をかけた。

 先輩芸女たちは憎々しげな目で一瞥したり、舌打ちしたりしながらぞろぞろと楽器を手に取り、会場に向かっていった。


 宵児は小さく息を吐く。

 宵児の出番は、彼女らのあとであった。

 その横で、蔵人は女の戦いを傍観していた。雑記帳を手に取り、絵など描いている。

「――黒陽の抑えとして雇われた。よろしく」

 顔合わせでそう言った蔵人を、宵児はちらりと一瞥しただけでずっと無視していた。完全にいないものとして扱っていた。

 二人はまるでお互いに顔など見たこともない赤の他人、という雰囲気であった。

 今の宵児に、蔵人を相手にしている余裕などなかった。

 今日は美児がいない。

 侠帯芸女として、師である美児の名に泥を塗らないように、振る舞わなければならない。

 他の芸女たちは全て敵であり、居留地にある各国の商館員、つまり慣れない外国人を相手に客あしらいをしなければならない。四面楚歌とまでは言えないが、宵児にとっては非常に難しい場であった。

 宵児は決して手元から離さなかった二弓二胡を見つめ、そして黒陽を見つめる。

 黒陽が鼻先で宵児の頬を擦ると、宵児は微かに頬を緩め、その節だった細い指で黒陽を撫でた。


「――時間です。どうぞ」

 呼び出しの商館員の言葉に、宵児は立ち上がる。

 宵児の表情はすでに芸女の顔になっていた。

 宵児が会場へ向かうと、その背を守るように黒陽がついていった。



 慰労会の会場は立食形式のパーティとなっていた。

 料理が置かれたテーブルは、会場の一番後ろに一列に置かれている。

 商館員たちは半円形に設置されたテーブルに陣取っており、その中心で芸女たちが芸を披露するという形になっていた。

 そこに、宵児と黒陽が立った。

 ざわめきが大きくなる。

 大型の虎をも超える黒天千尾狐の黒陽にまず視線が集まった。

 ミド大陸にはいない魔獣であり、普段人目に触れることなどまずない高位魔獣である。

 そしてそれを従える宵児。

 噂どおりではあったが、それでも華奢な少女ともいえそうな女が黒天千尾狐を従えている姿は、どこか現実離れした光景ですらあった。


 宵児が演奏のために椅子に座ると、ざわめきも小さくなっていった。

 だが、宵児よりも先に演奏を終えて商館員の傍に侍っていた芸女たちが、口々に囁いた。

「……ああ、あれは罪人の娘ですわ」

「……借金まみれのだらしない師に教わったとか」

「……妖獣と暮らしているせいか、あまり品性がいいとはいえませんね」

「……愛想の悪い娘ですよ。男嫌いとか、何を考えているんでしょうね」

 白系人種の多い商館員の中には獣人種に差別感情を持つ者もおり、それを聞いて眉をひそめていた。


 種族柄耳の良い宵児にも、それらは聞こえていた。いや、聞こえるように囁いているようであった。

 だが、そんな言葉など日常茶飯事である。

 宵児は、強く弦を引き鳴らす。

 そのまるで草原を薙ぎ払う突風のような音は、商館員の耳を引き寄せ、芸女たちを黙らせた。


 風が、吹いていた。

 果てしない蒼穹が広がり、青々とした草原を揺らしている。

 その空と大地の狭間を、たった一頭、馬が駆けていく。

 駆けて、駆けて、駆けて。

 いつまでも、駆けていく。


 いつか美児(メイニ)が夜店で弾いた曲だが、印象はがらりと違う。

 美児がどこか故郷を思わせる優しい音だとしたら、宵児のは孤高の強さと哀しさを感じさせる音であった。

 甲乙はつけ難い。

 宵児の二弓二胡に、全ての商館員が黙り込んで聞き入り、それを見て芸女たちも悔しげに口を噤んだ。



 何曲か演奏を終えると、大きな拍手が巻き起こる。

 宵児は一礼し、各テーブルに挨拶をしていく。

 いくつかテーブルを回り、ミド大陸のさらに西にあるインステカを代表して駐在している商館長のテーブルに挨拶したときのことだ。

 まるで大魔(オーガ)にも似たスキンヘッドで筋骨隆々の中年男性が宵児を褒め称えた。

「素晴らしい音色だった。カルロス・カルティージョだ」

 流暢な龍華語による、純粋な賛辞であった。

 カルロスは宵児の素性など知っていて、この場に出席している。むしろ知らない商館員のほうが情報収集力のなさ、自らの無能を晒しているようなものであった。

「ありがとうございます。宵児(シァォニ)と申します」

 宵児も名乗り返して、カルロスの持つ金属製のワイングラスに葡萄酒を注ぐ。

 カルロスの左腕におさまっている芸女が悔しそうに見ているが、カルロスも宵児も気にもしていない。

 

 カルロスが、その大きな手で酌を終えた直後の宵児の尻を撫でようとした。

 だが宵児は商館長など知ったことかとでも言うように、その尻尾でピシリと商館長の手を払う。

 冷たい目を向けてくる宵児に、商館長は不愉快そうな顔をするが、次の瞬間、ゾクリとする。

 宵児は睨んでいた目元をほんの微かに、緩めただけ。

 だがそれだけで宵児の表情は冷たい微笑みへと変わり、妖しさと恐ろしさ、そして美しさが際立った。齢十八という年齢の若さも、そこに微かな幼さを漂わせ、庇護欲を誘った。


 商館長はその微笑みに惹かれてしまった。

「わっちは芸を売りに来たのです。勘弁してくださいな」

「……このあと、呼べるかね」 

 船が来ていないときは退屈の極みにある居留地には、許可さえとれば娼女や芸女を呼ぶことが可能であった。もちろんすることは男女の営みである。

「わっちは侠帯芸女です。身は売りません。それでもよろしければ」

「侠帯芸女とな。何かルールはあるのかね」

「ええ……あちらにいるハンターが色々と知ってますよ。では、失礼いたします」

 黒陽を連れ、宵児は次のテーブルに向かった。

 実のところ、色々と限界であった。あの微笑みは宵児にとって意図したものではない。ぎりぎりのところで、蔵人という嫌な客を思い出し、目の前の人種など大したことはないと表情を緩めた結果に過ぎなかった。

 だが、蔵人のお陰などと素直に思えない宵児は、ちょうどいいところにいたと侠帯芸女をよく知るハンター、つまり蔵人をカルロスに紹介したのだった。



 大魔(オーガ)似の威圧感たっぷりの顔で、蔵人をちょいちょいと手招きするカルロス。街中であったら、決して視線を合わせず、道を変えるような類の顔である。

 だがこれも仕事と、蔵人は溜め息をつきながらも近づいた。

「――侠帯芸女との遊び方を知っているとか」

「……ええ、まあ、少しだけ」

 さんざん嫌な客として振る舞ったのだから、やってはまずいことくらいは知っている。

「……基本的には触れないこと。侮辱はもとより下品なこともあまり言わないほうがいい。ただ例外的に、手を擦ったり、宿泊時にこっそり湯浴みを覗いたりはギリギリ許されていますが、最初はあまりしないほうが無難かと。それ以上すると引っぱたかれたり、宵児の場合は怖い黒狐が出てきます」

 蔵人がちらりと黒陽を見ると、カルロスは納得した。

「ふむ、プラトニックな関係を楽しむのか」

 腕に他の芸女を抱え、いまさっき宵児の尻を触ろうとした筋骨隆々な中年男からプラトニックなどという言葉が飛びだし、蔵人は噴き出しそうになる。

「私は自他共に認める遊び人だが、ルールは守る。遊戯はルールを守るから楽しいのだよ」

 至極もっともなカルロスの信条に、蔵人は感心した。本当の遊び人とはこういうものか、と。


 蔵人がカルロスに説明していると、会場がざわついた。

 蔵人が説明を切り上げ、騒々しいほうに視線を向けると、宵児の服に葡萄酒がひっかけられていた。

「あら、ごめんなさいね」

 芸女の仕業らしい。


 宵児はもう一度、演奏することになっている。

 さすがに葡萄酒に染まった姿で演奏するのは興ざめである。

 なんとも気まずい雰囲気が流れたところで、宵児が言った。

「――しばらく、中座させていただきます」

 そう言って、待機部屋に戻る。黒陽もそれに続いた。

 まるで逃げるような宵児に芸女たちはくすくすと小声で笑った。



 しばらくして、宵児が現れた。

 場内が一瞬シンと静まり返るも、すぐにざわめきが起こる。

 宵児は白地に大輪の黒華が刺繍された細身の衣装を着て、ミド大陸風の外套を羽織り、現れたのだ。

 これはこの日の為に、いや、宵児が独り立ちするときのために美児が贈ってくれたものだった。そもそも、着替える予定であったのだ。

 宵児はそのまま椅子に座り、二弓二胡を弾くように鳴らした。

 強く、短く。


 草木の生えた朽ちた城に、

 古の剣戟、蛮声、悲鳴が響く。

 玉座の主はすでになく、

 英雄の勇ましき口上のみが轟いた。

 

 刹那的で、勇ましい調べ。

 白と黒で統一された姿が、より曲の鮮烈さを印象づけた。

 二弓二胡の腕。そして客あしらい。

 宵児が逃げ帰ったと思った芸女たちは悔しげに唸るしかなかった。


 それを満足げに見つめる黒陽(ヘイヤン)

 黒陽もまた、己を抑えきった。

 芸女も商館員にも腹は立ったが、にやにやとした蔵人の視線や雪白が馬鹿にするように鼻を鳴らしたほうが、よっぽど気に食わなかった。

 そんなに相棒が信用できないのか?

 不本意ながら、争うごとに雪白にそう言われたことを思い出し、耐えきった。


 

 こうして、慰労会は終わった。

 閉門間際、芸女たちがぞろぞろと岩奇街に戻っていく。

 その後方に宵児、そして蔵人がいた。

 だがお互いの傍には、いつもいるはずの黒陽と雪白はいない。アズロナだけが蔵人の首に巻き付き、眠っていた。

 宵児が立ち止まり、蔵人を見る。そして――。

「――わざわざ黒陽の抑えのために慰労会に出席くださったようで、ありがとうございます。それと、仕事とはいえ憎まれ役を買っていただき、感謝致します」

 今までの態度が嘘のような丁寧な物言いであった。

「……知ってたのか」

「先日、姐様に教えていただきました」

 蔵人が美児の借金を知って立ち去った後の会話であった。

「仕事だ。あんたが気にすることじゃない」

 宵児はまた歩き出すが、蔵人の一言に足を止めた。

「――ああ、黒陽は雪白が止めてるぞ」

 宵児が、勢いよく振り返った。




 白霧山遺跡の頂上付近。

 ここを越えれば、密入国も可能であった。

 だが、目の前には見慣れてしまった白い獣が立ち塞がっている。

 蒼い月明かりに、二匹の影が伸びていた。


 黒陽は宵児に頼まれた。

「あなたにしか頼めません。事が終われば、わたしと共に逃げましょう」

 黒陽に否やはない。

 宵児との友誼は共に生き、共に死ぬまでである。

 あの寒い日に抱かれた宵児のぬくもりは忘れない。

 行くあてもなく彷徨っていた己と宵児を拾ってくれた美児の恩に報いるのは当然であった。宵児は身を売る寸前であったのだから。


――ぐるるっ

――くぉんっ


 雪白が何か言っているが、黒陽は聞く耳をもたない。

 これじゃあ蔵人より短絡的じゃないか、と雪白は呆れる。

 だがそんな雪白の言葉に黒陽は反応すら示さなかった。


 これしかないのだ、と黒陽は岩肌を蹴った。

 黒炎を纏い、幻を放つ。

 少し落ちつけと、雪白もまた岩肌を蹴る。

 氷土の鎧を纏い、冷球で迎え撃つ。

 音もなく、白霧山遺跡で強大な魔獣の戦いが始まった。




「――邪魔を、しないでっ」

 宵児は蔵人に詰め寄った。

「……殺すのはいつでもできる。その覚悟があれば当日でもいい。そのときは止めない。少しくらいなら手を貸してやってもいい。だが、今は大星を待てよ」

「間に合わなかったら、姐様の借金は消えません。たとえ王伯を殺したとしても。そうなる前に……」

「それでもぎりぎりまで待てるはずだ」

「王伯はおそらく岩奇街で待つでしょう。そうしたら閉門時間が期限となってしまいます。あの人はそれを知りません。だから、時間がないんですっ」

「それでも、だ」

 宵児は詰めよったまま、蔵人の鎧を叩く。

「どうしてっ、どうして……」

 最後は崩れ落ちるように、膝をついた。


 しばらくして、宵児はとぼとぼと岩奇街に戻っていった。

 蔵人はその姿が見えなくなるまで見送ってから、協会に引き返した。


 雪白と黒陽はどうなったか。

 白霧山遺跡の岩肌から、海上、そして小さな無人島へと場を変えて、あくる朝まで戦い続けていた。




 そして、蒼月の八十日。

 王伯は林清と護衛を連れて昼過ぎに岩奇街に現れると、岩奇街上層の高級な区画にどっしりと陣取っていた。

 貸主がいなければ時間どおりに返金はできないことを狙ってのことである。

 もしこれがどこかに雲隠れしたともなれば役人に訴え出ることもできるが、王伯がいるのは白霧山遺跡という目と鼻の先である。役人に賄賂を贈っている王伯が罪に問われることはなかった。


 しばらくすると、美児と宵児、黒陽、閻老師、そして蔵人と雪白も姿を見せた。

 王伯から連絡を受けてのことだった。

「久しぶりじゃな」

「これはこれは、高名な閻老師に覚えていただいているとは、光栄ですな」

 閻老師の挨拶に、慇懃無礼に答える王伯。

「豪商と名高き王伯殿のことを知らぬ者などおいらんじゃろう。一つ相談があっての。美児の借金の期日、少し待ってはもらえんか」

「いかに閻老師とはそれは出来ぬ相談ですな。こちらも商売ですから」

「大星は必ず金を作る。五日、いや三日待ってくれんか」

「侠帯芸女として名高い美児。長い目で見れば蹄金千枚以上を生み出します。待てませんな」

 睨み合う二人。

 だが最初に目を逸らしたのは閻老師であった。これ以上言っても王伯は譲らぬと悟ったゆえである。

 閻老師の後ろに控えていた美児も宵児も一言も口を聞かない。


 蔵人が口を開いた。

「一応聞くが、蹄金千枚に値するもの、もしくは権利ではだめなんだな」

「誰だ貴様は。ふんっ、現金以外は信用ならん。蹄金千枚、きっちり返してもらおう」

 王伯は誰だこいつという顔をしながらも答え、蔵人の傍にいる雪白を見て、黒天千尾狐に匹敵する妖獣を連れた外国人とはこいつか、と気づいた。だが気づいたところで、王伯にとってはどうでもいい相手でしかない。


 蔵人はそれだけ聞いて引っ込んだ。

 予想していたことではある。岩奇街で待つような性根の腐った輩が、美児たちに都合の良いことをするわけがない。


 刻々と時間は過ぎるが、大星は姿を見せなかった。

 岩奇街の外で閻老師の小者を始めとした知り合いが大星を待っており、大星が迷うことはない。

 蔵人の手元には大星からもらった懐中時計が握られていた。


 十五時。


 十八時。


 二十一時。


 いつまで経っても、大星は現れず。そして、二十二時になる。

 閉門だ。


 大星は現れなかった。

 王伯と林清はにやりと笑みを浮かべてから、美児の手を引こうと近づいた。

 だが、閻老師がそれを遮る。

「なんのつもりですかな」

「まだ時間はある」

「閉門後に出入口の門が開くことは絶対にない。閻老師とて知っておられるはずだが……」

「別れの挨拶もあろう。証文どおりにせよ」

 閻老師に睨まれ、王伯は面倒な爺め、といった様子で従った。



 だが結局、大星が証文の期限までに帰還することはなかった。




******



 少女に刺された玉英はどうにか無事で、刺客もなんとか退けた。

 少女が幼く力も弱かったため、短剣は致命傷に至らなかったのだ。

 騙されたことを知ると少女は呆然としてぼろぼろと涙を零し、玉英に謝った。

「ごべんなさい……ごべんなざい」

「……まあ、しょうがないよね。でも――」

 玉英は少女を小脇に抱えて臀部をぺろりとめくると、ぱちーんと叩く。

 少女は罪悪感なのか、痛みなのか分からなくなりながら激しく泣き喚いた。


 それ以後、少女は玉英に懐き、目的地まで無事に届けられる。

 そして、大星たちに蹄金千枚が渡された。

 金色に輝くそれを急いで四つに分担して持つ。四つに分けてもなお重いがゆっくりしている時間はなかった。

 駆けた。

 少女を送り届けた先の人物に借り受けた妖獣に跨って。

 道の先には茶館の刺客どころか、野生の妖獣もいない。

 見事に、露払いされていた。

 少女が願ってくれたのか、少女を引き渡した人物が気を利かせてくれたのか。

 どちらにせよ、これなら間に合いそうだと大星たちは希望を抱いた。


 岩奇街の目と鼻の先にある街に到着すると、すぐに閻老師の小者が駆け寄ってきた。

「――王伯は岩奇街の上層に」

「くそったれがっ!」

 高震が悪態をつく。

 だが大星たちはすぐに走りだす。

 ぎりぎり、閉門にも間に合う。


 だが、門には辿りつけなかった。


 正確に言えば、門には辿りついた。

 だが、長蛇の列を成して門に並ぶ人、いや流民たちが邪魔で閉門に間に合いそうになかった。

「通してくれないかっ」

「並べよっ。ああん? あんたがなんで並ぶ必要がある?」

 大星の身なりを見て、薄汚れた姿の流民が威嚇する。

 それをどうにか宥めながら、大星は訊ねる。

「なぜこんなに並んでるんだ?」

 門の出入りは軽い身体検査だけで、一人当たり大した時間もかからない。こんなに並ぶ方が異常であった。

「中で炊き出しをやってんだよ。ちっ、閉門までに辿りつけっかな」

「なんとか、先に行かせ――」

「――ざけんなっ、こちとら三日ぶりのまともな飯だっ。……それに、横入りを許せばもらえなくなる。ちゃんと並んでいれば多めにもらえる。ほら、あそこに見張ってる奴がいるだろ」

 明らかに列を見張るような人員が何人か見て取れた。


 一応、列の最後尾に並びながら大星は駆け寄ってきた玉英たちに説明する。

「なんで、今日に限って」

「……王伯だな」

「あの野郎っ、コスい手を」

 だが、炊き出しをする王伯を非難などすれば、大星たちのほうが危うくなる。

「……並ぶしかない」

 だが、大星たちの随分前で門は閉じてしまった。

 悪態をつきながら散り散りに去っていく流民たち。

「まだだ。今日の門番なら、どうにか」


 しかし門にいたのは、大星の知るいつもの門番ではなかった。

「……あいつは些細な罪をでっち上げられて、クビになったよ。だから、すまん。通せない」

 大星が知り合いの門番に無理を言ったことなどまだ一度もない。

 確かに今日、無理を言う予定であったが、それは未遂である。つまり、王伯が手を回したのだった。


 大星は強行突破を考えるも、門番は強い。

 さらにここで倒せたとしても、すぐに出てくる増援は遺跡から這い出てきた妖獣の主を倒せる、最低でも押し留めることができる手練れである。

 この四人と言えど、突破は難しかった。

 仮に突破できたとしても大罪人である。忍びこむだけならまだしも、門番や役人を倒してしまえば捕えられ、処刑されるだろう。それでは、本末転倒である。

 

 大星は退いた。

 そして、白霧山遺跡にどうにか忍びこめないものかと算段を始めた。噂では、いくつか、あると言われていた。

 それでも、もし忍びこむ道が見つからなかったら。

 万が一のときのために、耶律に借金の肩代わりを依頼してある。

 だが、耶律は味方とは言い難かった。享楽的で、気まぐれ、大星に無理難題をふっかけては喜ぶ男である。悲劇も喜劇も英雄譚も好むという厄介な男である。

 もし耶律が借金を肩代わりしてくれたとしても、それで美児が無事だとは限らない。最悪、慰みものになっている可能性も十分にあった。ただただ大星の苦しむ顔が見たいと言う耶律によって。

 さらに肩代わりしてくれない可能性もある。耶律は商人である。気まぐれだが、金にはシビアだった。

 

「――クソッ」

 もう、間に合わない。

 門に突っ込もうとする二人を止めた。

 突っ込もうとしたのは大星と玉英、止めたのが高震と劉進であった。

「これで終わりじゃないだろっ。金さえ払えば買い戻すことだって出来る。美児が王伯に汚されたからといって、それで終わりじゃないだろ。お前は、そんなことで美児を捨てるような男だったかっ!」 

 分かっている。

 それでも大星は叫んだ。

「――美児の誇りを、守ってやりたいんだっ!」

 高震も劉進も歯を食いしばって二人を止めた。




 そして夜が明け、門が開く。

 大星たちはもう無駄だと分かっていたが、小者から伝えられた金の受け渡し場所に駆けこんだ。

 

 案の定、そこには誰もいなかった。


 いや、耶律がいた。

 耶律が肩代わりしてくれたのかもしれない。でなければ耶律がここにいる意味がない。


 だが耶律は、残念そうな顔で首を横に振った。

 こちらをからかうような、わざとらしい仕草であった。


 嘘だ。大星の膝が崩れ落ちた。

「――すまないね。君の要望を叶えることはできなかった」

「……耶律っ!」

「わたしは商売人でね。無駄な金を芸女如きには使えないよ。それに……」

「……」


「――君の絶望する顔がどうしても見たかったんだ。ごめんよ?」


「耶律ぅううううううううっ!」

「どうせ君は再起する。そしてあの芸女を取り返す。僕は、それが見たい」

 耶律の至極真面目ながら、愉悦や快楽の絶頂にあるようにも見えた。

 玉英、高震、劉進は無意識の内にそれぞれの武器に手を置いていた。


「――そんな顔は大星に似合いません。いつものように笑ってください」


 どこからか聞こえた美児の言葉に大星、そして玉英たちは耳を疑った。

 凛として、優しい声。

 大星は慌てて周囲を見渡し、気配を探った。

「間に合いましたよ」

 奥から、美児が姿を現した。

「――えっ?」

 大星は訳が分からない。玉英たちも同じだ。

 ついに耶律が吹きだし、愉快そうに笑いだした。

「だっておれは、間に合わなかった。なんで。耶律だって」

「まずは、急ぎましょう。事情は居留地に向かいながら話します」

「居留地? いや、何がどうなってる?」

 訳の分からない大星に、美児が移動しながら一部始終を説明した。



********



 期限の三十分前。

「やれやれ、いつまで待ったところで無駄だ」

「――いや、間に合ったようじゃ」

 門は当然開いていない。

 王伯は嘲笑う。

「ついに耄碌したか。来たのは変人だけ――まさかっ」

 護衛を伴って姿を見せた耶律は護衛に持たせていた箱から蹄金を何枚か取り出し、ぽいと王伯の足元に撒いた。

 硬質な音が響く。

「――蹄金千枚だ、拾うといい。そして、証文を渡したまえ」

 王伯は足元の蹄金に見向きもせず、耶律を睨んだ。

「……どういうことだ。貴様、わしとやり合う覚悟があってのことだろうな」

「いい儲け話があってね。あんたとの関係性よりも儲けられそうなんだ。それに、風が吹いてしまった。予想できないところから、とてもとても愉快な風が」

 耶律は楽しげに、蔵人を見る。

 だが蔵人はこっち見んなと鬱陶しげな顔をした。

 その反応すらも楽しいのか、耶律は愉快そうに笑っている。

「――大星という愉快な玩具に、新しい玩具。そして、儲け話。ここまで揃ったらあなた如きはもうどうでもいい。いや、一代で財を成した王伯殿と戦うのも一興だ。大星との共闘、裏切り、ああ、なんと甘美な……」


 まぜっかえすような耶律を嫌い、王伯が蔵人を睨む。

「そんなに睨むなよ。まあ、そういうことだから、諦めて証文を渡せ」

「お前が」

 そう。蔵人こそが、耶律と取引した張本人であった。




 カミッラに百万ルッツの換金を断られた蔵人はかすかな希望に縋り、大星に頼まれて岩奇街で待機している閻老師のもとへ向かった。

「――百万ルッツを蹄金千枚に両替してくれる商人もしくは金持ちを知らないか?」

 深夜、宿に待機していた閻老師に会うなり、蔵人はそう言った。

「……そうか、美児の借金を知ったのか。……だが、仮に金を用意したとして、どうするつもりだ」

 どうする、という閻老師の問いの意味が分からず、蔵人はしばし悩むも、気づく。

「どうもしない。期限の次の日にはもう出航だ」

「何も要求しないと?」

 暗に美児の身柄を要求しないのかと聞く閻老師。

「はっ、好きな男のいる女なんぞいるかよ」

 鼻で笑う蔵人をじっと見て、閻老師はふっと相好を崩した。

「……真意はともかくとして、蹄金千枚の。……、すぐにでも会えそうなのは一人しかいないな」


 商人の名は、耶律巫賢。

 蔵人は閻老師の案内で耶律の元に向かった。


 耶律は大星が王伯に立ち向かっている一連の出来事を楽しんでいた。大星からの願いもあったし、王伯からは手出し無用と忠告もされていた。どちらにつくか、どう動けば楽しめるか。それを考えていた。

 明日は運命の日である。まるで年に数度しかない休日を明日に控えた丁稚の子供のような気分で、耶律は岩奇街に先乗りしていた。


 岩奇街上層の高級な一画に、耶律はいた。

 深夜の訪問にも関わらず、耶律は閻老師とそして蔵人を見て、何やら楽しそうな顔をしていた。

 

「――蔵人だ。百万ルッツある。蹄金千枚と両替してくれ」

 

 単刀直入としか言えない蔵人の物言いに、耶律も閻老師も苦笑した。

「……ルッツ、……外貨か。現物は?」

「あんたに頼みたいのはそこだ。居留地にあるハンター協会に百万ルッツが確かに預けられている。だが、それを現金化するのに時間がかかる。だから、協会と交渉して百万ルッツをあんたが使い、そのかわりに蹄金千枚を俺にくれ」

 蹄金千枚を必要とする外国人。

 耶律はそこで蔵人が大星や美児と最近になって親しくし始めた外国人だと気づいた。そばには噂どおり、白虎にも似た大きな妖獣が控えているのが何よりの証拠である。

「初対面の君の言葉を信用して、金を渡せと?」

「協会まで一緒に行く。誓約書を書いてもいい。疑うなら監視をつけても構わない」


「……なぜキミが? 美児という芸女は大星の妾、いや二番目の妻になる。どんな利益があるんだい」

「……さあな」

 理由など説明したくもなかった。

 蔵人の半ばやけっぱちになった様子を耶律は興味深げに見つめる。

「……とにかく、俺は蹄金千枚を美児の借金の期日までに用意してくれればそれでいい」

 交渉も何もあったものではなかった。

「……もしわたしが断ると言ったらどうする?」

 耶律が試すように言うが、蔵人はあっさりと矛を引いた。

「諦めて別の手段を考えるさ。何、まだ居留地の商館という手もある」

 蔵人は表情だけは崩さなかった。

 戦う時と同じである。弱気を見せれば相手はつけ込んでくる。自信などなくても、自信をもって言い張るしかない。でなければ、相手は言葉を信じない。

 蔵人は金融に詳しくはないが、時間さえかければ百万ルッツは蹄金千枚以上に化けるはずだと考えている。もちろん方法は分からないが、日本ではそうして儲けている連中がいたという風に記憶していた。その記憶が正しいかどうかは分からないが、ここに賭けるしかなかった。

 

「――待ちたまえ、まったくせっかちだ。しかしなるほど、このわたしを試そうというのか。ふふふ、久しくなかったよ、こんなことは。いいさ、今回は乗ってあげよう」

 耶律は居留地の商館相手に商売をしている。百万ルッツを蹄金千枚以上にする自信が耶律にはあった。

「――だが、閻老師が一枚噛んでいるとはいえ、こっちも初対面の君を信用できるほど能天気じゃない。協会との交渉が終わるまで、蹄金は渡せない」

「美児の借金の期日までに、岩奇街で、現物を用意してくれ。でなければこの話はなしだし、偽ればあんたを許さない」

「やれやれ、どっちが主導権を握っているか分かっているのか」

「知るか。あんたは証文の期日までに交渉を終えれば、蹄金千枚と引き換えに百万ルッツを手に出来る。できなければ手に出来ない。それだけのことだ」

「……無礼なのもここまで行くと痛快だね」

 耶律は笑った。

 蔵人の背にはあらゆる汗が流れていた。

 耶律と会う前に閻老師から耶律の人となりを聞き、どうすれば話を持っていけるかと聞いた甲斐があったというものである。

 でなければこんな態度はとらない。自分がもしこんな態度で頼まれたら、間違いなく断っているはずだ。


 耶律が手を差し出した。

 蔵人はなんだと一瞬考えるも、すぐに耶律の手を握った。

 耶律は手を握ったまま、蔵人に近づいて囁いた。

「――一つだけ忠告しておこう。あまり商人を舐めないほうがいい。そんないい加減な交渉ではすぐに破滅する。これからの時代は商人が大きく力をつける。敵に回せば、生きてはいけないよ?」

 耶律の妖しく、底冷えのするような声に蔵人は平然と答える。

「……ああ、知ってる。だから近づく気はない。交渉なんて二度とするか。今回は、……特別だ」

 資本主義社会の日本における敗北者、いや戦わずに降伏したような蔵人。たとえこの世界の文明が日本より遅れていたとしても、交渉や金儲けで商売人に勝てるなどとは微塵も思っていなかった。

「そうも言ってられない時代が来る」

「……そいつらは雪山のてっぺんまで来るのか?」

「……や、やま?」

 あまりに素っ頓狂な言葉に耶律は蔵人の意図を計りかねた。

「俺は今もほとんどを街の外で暮らす。街にも下りるが、下りなくても生きていける」

 そのために、街に行かずとも生きていけるだけの力を養った、とも言えた。


「ふふふっ、もし、わたしが断ったらどうしていた?」

「諦めたかもしれん。まだ居留地の商館に行ってないから、行ってからだが」

「ふ、ふふふ。それは、嘘だ。君なら、そうだな、元凶を殺すか、いや証文を奪って、国外逃亡でもしようと思っていたんじゃないか? 君は外国人だしね、逃げるのは難しくない。いやいや、大星も面白いがキミもいいね。ああ、なんて素晴らしい日だ」

 耶律は恍惚とした表情をしていた。


 そのあと閻老師と耶律を伴った蔵人がハンター協会に押しかけ、支部長を引っ張り出して交渉が重ねられた。

 どんな形になっても耶律に損はなく、ここまで時間がかかったのは協会との交渉が長引いたのだ。そもそも蔵人が同意しているのだからすんなりいきそうなものだが、そのあたりが、商人同士の交渉や政治というものらしい。蔵人にはさっぱりと分からなかったが。




 耶律はぎりぎりまで協会側と交渉していた。

 足元を見られぬように事情を隠し、今日この日も場所を岩奇街に変えて交渉し、こうして期限寸前で現れたというわけである。

「もっと早く来れなかったのか」

 蔵人の恨めしい声に耶律は笑う。

「――こっちのほうが盛り上がるだろ?」

 この言葉が事実かどうかすら分からない。二度とこんな奴には関わらないと蔵人は内心で決めていた。


 耶律から金を渡されて数えていた林清が、懐から証文を取り出した。

 蔵人はそれをひったくり、破り捨てようとするが――。

「――まあ、待ちたまえ」

 耶律が蔵人を止めて、証文を奪った。

「コレをしっかり調べようじゃないか。本物なのか、書き足しなどはされていないか。もし不正があれば、しっかりと返してもらおう」

 蔵人が閻老師を見ると、瞬きの間に耶律から証文を奪いながらも、頷いた。耶律は証文を奪われた手を見て、肩を竦めている。

 金も用意できていない内から証文を調べることなどできない。そもそも本物であった場合、取り返しのつかないことなる。そのため一度は借金を返す必要があった。

 そしてさらに調査に時間がかかる。

 ここからが、長い戦いの始まりともいえた。もちろんそれを担うのは大星であるのだが。


「その金は後生大事に抱えておくといい。返すときに金がないじゃ困るからね」

 耶律の言葉を無視し、王伯は蔵人を睨んだ。

「貴様がどういうつもりかは知らんが、この国に残るなら覚悟しておけ」

「安心しろ、明日の朝には出ていく。あんたとはこれっきりだ」

 実際に帰り支度すら始めた蔵人に、王伯はさらに目を鋭くした。

「……貴様はなんのつもりでこんなことをした。その様子では美児を連れて行くわけでもあるまい? 龍華人でもないのに狭者を気取るなど片腹痛いわ」

 蔵人には何の益もない。王伯には蔵人が、外国人のくせに侠者を気取っているようにしか見えなかった。

「……大星、いや朋友に借りを返した。結果、女が救われた。それだけだ」

 後悔しないために、己の誇りを捨てないために、蔵人は美児を助けた。それだけである。

 だが王伯は口だけでにたりと笑う。

「フハハハッ、救われただと? そうか、ただの偽善者だったか。おまえが美児のために払った金で、どれだけ苦界の女が救えると思う? 十人、いや二十人は救えるだろう。朋友のためなどと言っておるが、ようするに美児が美しかったから救ったというだけのことだ」

 蔵人は何も言わなかった。


「――存外、善というものに期待しているんですね」

 

 ずっと黙っていた宵児が、呟いた

 すると、王伯は笑みを消す。

「誰を貶めることなく救い、救われた者が感謝する。それで、善は終わり。わっちは黒陽が必死になって狩ってくれた小さな兎の肉の味を忘れないし、姐様が黒陽ともども拾ってくれたことも忘れない。それにどこかの冴えない男が姐様を救ってくれたことも、大星さんが姐様のために駆けずり回ってくれたことも」

 父親が不正を犯して処刑された。後を追うように母親も病で死んだ。

 親族は手の平を返して宵児を追い出し、誰かが助けてくれることもなく流れてきた。誰も信じられなかった。油断すれば売られそうになり、身体を狙われた。

 拾ってくれた美児と支え合って生きてきた黒陽以外を信じていなかった。

 だがそれでも、いや、それゆえに受けた温かさを忘れることもなかった。

 小さな村で貰った、たった一つの饅頭に救われた。ひとすくいの水で救われた。

 それを偽善と冷笑する輩のなんと傲慢なことか。

 そんな想いで、宵児は言わずにはいられなかった。

 王伯は嘲笑う。

「――芸女如きが賢しらなことを」

「――商人風情が分かったようなこと。金でも数えてなさい」

 睨み合う豪商と侠帯芸女。

 まるで劇の一幕のようですらあった。

「ふっ」

 宵児と蔵人を一瞥し、王伯は去ろうとした。腰巾着の林清もそれに続くが、林清の腕を閻老師が取った。


「――お主には色々と聞きたいことがある。酔仙薬のことや我々を襲った者たちについてな」


 顔を青くする林清。王伯に縋るような視線を送るが、王伯は見捨てた。

「わ、わたしを守れっ。ぜ、ぜんいん、殺してしまえっ」

 錯乱した林清の命令に、林清の護衛たちが動く。部屋の奥からも、蔵人たちを押し包むように武芸者が現れた。だが、王伯は護衛に金を持たせ、戦闘には参加させなかった。


 だが、相手が悪い。

 人相手に参戦すれば色々と厄介なことになる黒陽と雪白は美児と宵児を守るとしても、閻老師、耶律、蔵人が相手である。

「――あっ、わたしは戦力外さ。まあ、彼らがいるけども」

 耶律が連れていた護衛がぬっと前に出る。どちらも高震並みの体躯で、閻老師が感心するような武芸者であった。


 戦いはものの数分で終わる。

 閻老師と二人の護衛が敵中に飛び込み、漏れた敵は蔵人の精霊魔法によって近づくことすらできない。

 狭い室内では精霊魔法の火力は生かせないが、氷壁と土壁を構築してしまえば鉄壁の防御力を誇った。


 気絶させられた林清が護衛の二人に捕まるが、すでに王伯は去っていた。

 蔵人はほっと力を抜いた。

 これで後顧の憂いなく、予定どおり明日出航できる。残念ながら大星には会えそうにないが、仕方ない。

 だが実のところ、会えないことにほっとしてもいた。


 美児がやってきて、蔵人に礼を言った。

「本当に、ありがとうございます。あなたに差し出せるものはありませんが、この恩は必ず」

 蔵人はどんな顔をして大星の妻となる美児を見ていいか分からずに苛立ち、八つ当たり気味に言い放った。

「――返すこともできない恩を返すなんて言うな。大星の女なんだろ? あまり期待を持たせるな。馬鹿にしてるのか。……一言礼を言って、それで終わりでいいだろうが」

 それだけ言って、蔵人は背を見せた。その後を雪白がついて行く。

 美児は呆然としていた。

 蔵人は国を出てしまう。そう、確かに返せないかもしれない。なのに、恩を返すと言ってしまった。

 侠帯芸女としての言葉が、つい出てしまった。

  


 去ろうとした蔵人の背に閻老師が声をかけた。

「女人相手に、手厳しいの」

「知るか。いつまで芸女のつもりでいるつもりだ」

 蔵人は半ばやけっぱちである。

「まあ、の。骨の髄まで侠帯芸女だったということじゃ、勘弁してやってくれ。それより、美児のこと、わしからも礼を言わせてもらう。ありがとう」

 そう言って、老師は背負っていた小包を蔵人に渡した。

 中を見ると肩に合わせの釦がついた龍華風の外套と竹筒が入っていた。

「儂が若い頃に使っていたもので悪いが、寒さや暑さを少しばかり軽減する外套じゃ。砂漠に行くと聞いておったからの。小さな火や雷撃程度ならうまく使えば払えるが、まあ無理はしないことじゃ。

 竹筒のほうは飢渇丸といって、一粒で三日は呑まず食わずでいられ、丸一日は戦い続けられるともいう。まあ、その反動で三日ほど動けなくなるんじゃがな。どうにもならなくなったら砂漠で飢えをしのぐに使うのがよかろう。案内もなしに砂漠に足を踏み入れないのが一番じゃがな」

「……これを売ったほうが金になるんじゃないか?」

「せいぜい蹄金十枚程度のものじゃ。大星の嫁は家族じゃ、もう儂の一族も同じよ。こんなものでは恩返しにもならんのは分かっておる。だから、なにか困ったら来るがいい。骨を埋める気があるなら、この国に居場所を作ってやれるだろう。もちろん、働いてもらうがの」


 去ろうとする蔵人に、閻老師が尋ねる。

「……一つだけ、よいかの?」

「なんだ?」

「師は、おるのか?」

 問いの意味は分からなかったが、蔵人は答えた。

「大星にとってのあんたみたいな存在という意味ではいないな。ハンターや槍の基本、戦い方を教えてくれた奴や精霊魔法を鍛えてくれた奴なんかはいるが、基本的には我流だ。ああ、雪白が師といえば師かもしれない」

 現代日本で読んだ武術の本のごく一部を参考にしているなどとはいえない。


「……ふむ。お主が戦っている時の、あまりにも激しい憎悪や怒りが少し気になったものでな。……呑まれてはおらんか?」

 遺跡で蔵人と共闘したとき、そして先刻。閻老師は蔵人が敵意や憎悪のままに、力を振るっているように感じた。

「……今のところは問題ない」

 憎悪も怒りも、平和な日本で暮らしてきた蔵人には、この世界で戦うための力であった。良心を殺し、躊躇いをなくしてくれる。最悪、人殺しまでしなければならない戦闘を行うには、使えるものはなんでも使わなければ身も心も持たなかった。


「ならば、よいが」

 蔵人は今まで殺してきたことに、後悔はない。

 でなければ、己が死んだ。罪悪感から躊躇い、殺されていた。

 罪悪感を殺すための論理を積み上げ、倫理を構成し直した。日本人として育まれた己を捨てずに、この世界で生きるため、己の中にルールを構築した。

 一人雪山に召喚された蔵人には、社会どころか誰一人として蔵人と共通した価値観を持って、精神的に支えになるような者はいなかった。己のみで、己を肯定しなければならなかったのだ。

 意固地にも、偏屈にも、頑固にも見え、そのくせどこか甘さを残すのはそのせいである。しかし同時に、戦って、殺せる精神を手に入れていた。

「分かっておるな?」

「……ああ」

 蔵人が自ら構築したルールから外れて人を殺せば、鬼畜外道となるか、罪悪感に己が潰れてしまうだろうことは想像に難くなかった。


「血に酔うことだけは気をつけよ。戻ってこれなくなるでな」

 閻老師は蔵人から見たこともない武術の気配を感じとっていた。

 蔵人が武術書を参考にしたなどと知らないため、蔵人が言った師の不在を、破門されたか師を失ったかと考えた。

 そして、師がおらねば血に酔ってしまうかもしれない。

 そう考え、蔵人が過剰にも見える憎悪や怒りに呑まれ、血に酔わないように忠告をした。

 この厳しい時代に武芸者として、いや人として生きる閻老師にも当然、人を殺せる精神や平穏を保つ精神はあった。

 だが、血に酔ってしまって戦場を求めるようになった者を実際に知っていた。手を下したこともあった。

 大星の友が、恩人が、血に酔ってただの殺戮者になるなど見たくはなかった。

「……忠告、感謝する」

 蔵人の返答に、閻老師は頷いた。


「――ああ、そうだ」

 蔵人は思い出したように一つだけ、小声でつけ足した。

「……美児に精霊魔法と命精魔法を仕込んだ。基本的な修練と応用も伝えるだけ伝えてある」

 閻老師が目を見開いた。

「お主……いや、しかたあるまい。どうすれば大星についていけるかと悩んでおったしの」

「だから何かあったら、面倒見てやってくれ。精霊魔法の使い手は肩身が狭いようだしな」

「当たり前じゃ」

 そして今度こそ、蔵人は去っていった。



*******




 美児から全てを聞かされ、居留地に向かう理由を理解した大星。

 蔵人が出航してしまう。

 礼も言えず、金も返せないまま、サウランに行ってしまうのだ。

 耶律と取引した百万ルッツは耶律のものである。

 せめて手元にある蹄金千枚を返さなくては筋が通らなかった。

「むぅ、アズちゃんと雪ちゃんにさよならしてないのにっ」

 大星の横では、玉英が頬を膨らませてお怒りであった。

 手続きに時間はかかったが居留地側にはどうにか抜ける。だが、蔵人はもう沖に停泊している船に乗ってしまったらしい。

 呆然と沖に停泊する大型船を見つめる大星。そこへ――。

「――悪乗りしたお詫びに、船に乗せてあげよう」

 つらっとした顔でついてきた耶律がにこやかにそう言った。




******



 話には続きがあった。

 閻老師から外套を受け取ったあと、蔵人はいつもの夜店を訪れていた。

 だが到着してすぐに、後悔する。

 いつも大星と呑んでいた場所で呑むのは、どうにも気が滅入った。

「……一番キツイやつを」

 他に行くのも面倒だと、どさりと座る。

 雰囲気を察して何も言わずに老店主が置いていった黒酒の壺から、酒杯に酒を注ぎ、一口に呷った。

 喉がカっと熱くなる。

 直後、酷い苦みに顔を顰めた。

 蔵人が呑んだのは墨酒。黒酒よりも酒精が高く、十倍は苦いといわれて、ほとんど漢方薬と酒を混ぜ込んだような酒といっても過言ではなかった。

 

 大星が必ず金を持って戻ると仮定すると。

 蔵人がしたことは、あぶく銭で時間稼ぎをしただけ。それにしたところで、閻老師と耶律がいなければどうにもならなかった。

 貧乏商人の大星が命を賭けて美児を助けた。

 その心意気に惚れない女などおらず、蔵人は刺身のツマでしかない。

 蔵人自身そう思いながらも、同時に少し自惚れてもいた。

 大星が来るまでの時間稼ぎ。自分だから出来たのだと。

 そのくらい思わなければ、百万ルッツを払った甲斐がなかった。


 蔵人は墨酒を呷る。まるでそうだと思い込むように。

 酒精の強さと酒の苦みに顔を歪めてしまった。

 苦い。

 そう、苦いから顔を顰めているだけだ。

 蔵人は自分にそう言い聞かせるように、また酒を呷った。

 横にいた雪白は今日のところは仕方ないか、とでも言うように蔵人を優しく見つめ、酒に付き合ってやった。



 すっかり見慣れてしまったその背中は、どことなく煤けている。

 宵児は近づいた。

 横からみた蔵人は酷くしかめっ面で、酒を呑んでいる。

 珍しい。そう思いながら、宵児は声をかけた。

「そこ、いい?」

 蔵人は無言である。

 宵児は返答を待たず、横に座った。黒陽も雪白をちらりと見てから、それに従う。雪白、蔵人、宵児、黒陽が並ぶような形になった。

「……ありがとう」

「皮肉か?」

「本気よ。姐様が救われた。黒陽に暗殺させずに済んだ。わっちも逃亡せずに済んだ。誰も、悲しまずに済んだ。その、お礼」


 老店主が宵児の分の酒杯を無言で置いていき、宵児も蔵人の酒を勝手に注ぐ。

 二人とも、雄弁なほうではない。

 ぽつり、ぽつりと話した。

「……わっちが言えることじゃないけど、あれでいいの?」

 蔵人が不満そうに鼻を鳴らす。

「……ふんっ、金で心まで買えるならそうしたさ。だが、残念なことに売り切れだ」

 客観的に見れば、勝手に好きになり、勝手に振られただけである。この上、金で美児を買うようなことをしたら、それこそ自分がみじめになる。

 大星が二人も妻を持つことについて、隔意があるわけではない。

 全ては当事者同士の問題で、当事者たちが納得していれば何人妻を持とうが、妾を持とうが気にならなかった。


「……帯を見て、分からなかったの?」

「…………帯?」

「そういえば、外国人だったっけ。多分、大星さんも姐様も馴染み過ぎて忘れていたんだと思うけど、大星さんの帯と姐様の帯は同じ色の男物の帯を使っていたでしょう。あれが、婚約の証なのよ」

「……知るかよ」

 蔵人としてはそれ以外に言葉はなかった。


「ここに残るつもりはないの? きっとみんなそう言うと思うけど」

「……」

 正直なことを言えば、居心地は良かった。だが――。

「……今は、ちょっとな」

「……でしょうね」

 どんな顔で大星と美児の前に立てばいいのか分からない。

 大星に恨みはない。美児にもない。

 だが、今は会いたくなかった。


「ああ、そうだ。大星たちに渡しておいてくれ。金がないからこんなもんで悪いが結婚祝いだ」

 蔵人は金策のときに描いていた絵を渡す。

 一枚は大星と美児、玉英が並んだ結婚写真ならぬ結婚絵画。他の二枚は、大星と玉英、大星と美児が並んだものであった。

 蔵人としては、複雑な想いを抱きながら、それでもどうにか描き上げた。

「結婚写……結婚絵画のようなもんだ」

「何か言うことはないの?」

 痛いところをぐりっと突いてくる宵児。

 おめでとう、なんて口が裂けても言えそうにない。

「……新婚旅行にでも行って、しっぽりして来い。とでも行っておいてくれ」

「……新婚旅行?」

 ないらしい。蔵人はさらにみじめな思いで新婚旅行を説明してやった。


 そうして、墨酒を重ねること十杯。

 蔵人は正気こそ保っていたが、かなり酔っていた。弱っていた。血迷っていた。理由はいくつかあったが、蔵人はじっと宵児の耳と尻尾を見つめていた。

 あれはどうなってるのか。

 どんな構造で、どんな触り具合なのか。

 男として本能か、絵描きとしての業ゆえか。最初に宵児に拒絶されたため言葉にこそださなかったが、目は如実に触りたいと語っていた。


 当然、その視線に気づく宵児。

「――駄目です」

 最初は、『嫌です』であった。

 今は、『駄目です』である。

 微妙にニュアンスが違って、その辺りに宵児の成長と心境の変化もあったのだ、酔いが回り、やけっぱちになっていた蔵人が気づくはずもない。


「……仕方ない人ですね」

 そんな優しげな言葉と黒い尻尾がふぁさりと蔵人の前に置かれた。

 蔵人は驚きながらもそっとそれを撫でると、絹にも似た手触りがかえってくる。

 蔵人は持ち主の宵児をちらりと見た。触られるとどうなるのか、という興味であったのだが、不思議なことに宵児の尻尾は定位置にあった。

 ならばこの手元にあるのはと見回すと、黒陽と目があった。

 ぷるぷると怒りを我慢しているようにも見え、蔵人は気づく。

 そう、これは黒陽の尻尾である。

 宵児が黒陽を生贄にし、黒陽は宵児のかわりにと自己犠牲の精神で我慢していた。


 そこへ、白い尻尾がずいとつきだされる。

 雪白だ。

 極めて、不機嫌そうに尻尾を差し出している。

 だが酔った蔵人はそれに気づくことなく、両方を撫でる。

 それでも甲乙つけがたし、などとは口が裂けてもいえないあたりが正気を保っている証拠であった。

 だが、ふと思いつく。

 思いつくままに、白と黒の尻尾を結ぶ蔵人。

 雪白の長い尻尾で黒陽の尻尾を結ぶような形なのであったが、ひとつ結び目が出来たところで、結んだ尻尾が跳ねあがった。

 尻尾の結び目が顔にめり込み、のけぞる蔵人。

 二本の尻尾はあっという間にほどけ、持ち主のもとへ帰っていった。

 ぷいっとそっぽを向く雪白と黒陽。


「――ふふふっ」


 宵児が笑った。

 どこか幼さを残した、年相応の微笑みだった。

 そして顔を抑えて呻いていた蔵人の前に、蒼い尻尾がそっと置かれた。

 アズロナである。ふりふりと蔵人の元へ尻尾を差し出している。

 蔵人はなんともいえない気持ちをこらえながら、アズロナの尻尾を撫でてやった。

 それを見て、宵児がまた小さく笑った。



*********




 蒼月の八十一日、早朝。

 春と冬の入り混じったが風が朝靄を押し流していった。

 蔵人は、船の欄干に顔を出して、それをぼぅと眺めている。

 いつ酔いつぶれたのか、すでに宵児の姿はなく、早朝に夜店の老店主に起こされた蔵人。すぐに朝市で食料を買い込み、居留地の船に乗った。

 心底、後悔している。

 二日酔い。

 そして襲い来るであろう船酔い。

 決してするまいと誓った二重酔いは、すでに蔵人を侵食し始めていた。

 ぼぅと海面を見つめる蔵人。


 そこに、近づく船があった。

 顔を上げると、幾分小さな船に大星の姿があった。

 無事であったらしい。

 大星が大声で叫ぶ。

 海風や船乗りたちの喧騒でほとんど聞こえないが何を言っているかは察せられる。


 ありがとう。

 金はきっと返す。

 この恩は必ず返す。


 大星ならば海を渡ってでも返しそうである。

 その隣で美児が、深々と頭を下げていた。

 蔵人はふと、金への後悔が浮かんできた。

 大星が無事に帰ったのだから金はあるはず。今すぐ返してもらおうか。

 そう思うが、大星の隣にいる美児を見て、それも引っ込んだ。

 意地、羞恥心か。

 どちらにせよ、返してくれなど言えるはずもない。

 蔵人は海風に流すように、適当に呟く。聞こえてなくたっていい。むしろ聞こえないほうがいい。


 気にすんな。

 なんなら、増やしておいてくれ。


 気恥ずかしくなり、視線を逸らして空を見上げた。

 鮮やかな青空だった。

 旅立ちには良い日であったのだろうが、なぜか腹が立つ。

 悪態をつこうとするが、船が横波に揺れた。

 蔵人は慌てて船の欄干から顔を出した。


 情けない音が海風に浚われていく。


 二重酔いが、完全に蔵人を侵食したようだった。

 雪白は情けないと言いたげにしながらも、尻尾で優しく背を撫でる。

 アズロナは欄干の隙間から顔を出し、波間に消えていく蔵人の吐瀉物を興味津々に見つめていた。


 


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クランドの男臭い不器用さが良い 友と呼んでくれた男と惚れた女のために見返りの求めない行動をする 素直に礼を受け取る器用さも黙って見捨てる薄情さもどちらも 持ち合わせていない意地っ張りな一人の男の話 め…
龍華人でもないのに狭者を→侠者を
[気になる点] 振り込み出来るんじゃ?
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