第六話 中学篇〜剣道部 初試合〜
9月に入り、英国暮らしだった葵にとっては短い夏休みが終わった。
予想通り学校が始まるや否や、告白され今は同じクラスの子と付き合っている。
とは言っても、相手も部活があり葵も秋大会があるとかで、8月の終わりから連日剣道部の練習に引っ張り出されていた。
本来毎日の練習に出ない葵が試合に出ることはない。
だが、今大会は副主将であった二年生が怪我のため、出場出来なくなりその代打として抜擢されてしまったのだ。
普段練習に顔を出さないため知らなかったのだが、この学校の剣道部の実力というのがそこそこ上位らしい。
抜擢された以上、練習をサボって負けることは絶対に許さないと、先輩や顧問に釘を刺されてしまう。
『なら、抜擢しなきゃいいのに』と思わず口を滑らせそうになったが、なんとか耐える。
今大会に勝てば、三年の先輩たちは引退前にもう一度試合が出来る。負ければ、ここで引退だ。
剣道部に思い入れはないけれど、自分のせいで負けたと言われるのは嫌だった。
それから一月半。
葵にしては珍しく、サボることなく練習に参加していた。ようやく買った自分の防具を見に纏い、相手に打ち込む。
形こそ違えど、その姿はまるで侍の如く。
竹刀を持った途端に放たれる、禍々しい殺気にも似た闘気。
***
一年の部員が、息を切らせながら彼を連れて来た時は何の冗談かと思った。
筋力はあるようだが、ひょろっこくってやる気のなさそうな子。
そんな印象だったのだ。
だがいざ試合となると、人が変わったように空気が張り詰め、基礎もなにもかも出来ていないのに、目が逸らせない。
その試合を見た後、毎日の基本練習には来なくてもいいから、剣道部に入ってくれるよう監督である自ら葵に頼んだのだ。
他部員の手前、葵を贔屓することは出来なかったが、夏休み前の試合に負け、この秋大会で負ければ今年の三年生を全国へ連れて行くことは出来ない。
そして、有力選手であった二年生の一人が試合中の怪我で、選抜メンバーから除外。
彼と同等、もしくはそれ以上の実力者となると葵をおいて他にいなかった。
出来る限り情報を伏せながら、事情を説明するとあんなに練習に来るのを嫌がっていたというのに葵は、あっけなく試合にでることを了承した。
中学生でありながら、やたら勘がいいと他の教師から聞いてはいたが、彼なりに何かを察したのかもしれない。