〜余話~
季節も秋半ばを迎え、日本全国で紅葉が見頃を迎えた頃、葵たちの学校では合唱コンクールと保護者主催のバザーメインの文化祭が行われた。
合唱コンクールの結果は学年金賞。
担任教師が音楽の教師だったということも、優勝出来た理由の一つかもしれない。
合唱コンクールが終わった後、茜とはお互い笑顔で別れた。
次の日目を腫らしていたから、やっぱり泣かせてしまったのだと思う。
罪悪感がないといえば嘘になるけれど、愛情がないのにずっと付き合い続けるのも、付き合い続けて他の子に告白されるのも鬱陶しい。
現に茜と別れたあとすぐ告白され、また違う子と付き合っている。
巽との関係も今だ続いていた。
今だに巽には本当のことを話せていない。巽と身体を重ねる度、巽が将来の夢を語る度、葵のなかの重いものがのしかかる。
少し前、巽に将来の夢を聞かれたことがあった。特に思い浮かばなかったから、何も答えずにいたら巽は自分の夢を話してくれたのだ。
『俺はこのまま今の職場で終わる気はないよ』
『どうして?
俺には難しいことよく分からないけど、20代で会社の重役なんてそうそうなれるものじゃないだろ?』
『確かにね。
でもだからこそかな。自分がどこまでいけるのか試してみたい。俺はね、いつか自分の会社を持ちたいと思ってるんだ。そのためには、とりあえず今の会社でトップになってやろうって考えていてね』
会社を立ち上げたその時には、葵に自分の側近として一緒に仕事をして欲しいという話だった。
『いつになるかわからないし、準備が出来ているわけでもないから、考えておいてくれるだけでいいんだけど』
巽は葵が高校生だと思っているから、こんな話を振ってきてくれたのだろう。
お互いを特別に思っているからこそ、心苦しい。
巽とは来月に迫ったクリスマスに約束をしていた。今付き合っている彼女とは24日のイヴに会う約束をしている。
その時に、巽には本当のことを打ち明けようと決める。
***
合唱コンクールが終わって数日後
家に葵宛で一通の手紙が届いた。
差出人は両親からだった。
『葵 元気にしているかな?
俺も母さんも元気だから安心してね。
そうそうこの前行った国の景色が
あまりにも綺麗だったから葵にもおすそ分け』
そんな文面とともに入っていたのは数枚の写真。
思わず雅やんと二人でその写真の美しさに目を見張る。
それはまさに絶景だった。
魅入られる。目が離せない。
「……俺も…撮ってみたい……」
「……!」
自然とそんな言葉が口をついて出た。
「……じゃあ、撮ってみるか?」
「は……?」
「学生の頃にアイツがオレん家に置いてったやつが一台あんだよ。
さっき思い出した。まだ返せてねーから、どっかにあるはずだ。探してきてやっからちょっと待ってろ」
そう言って雅やんは部屋の奥を何やらがさごそと探し始める。
数分して戻ってきた雅やんの手には一眼レフ。
「オレがこのまま持っててもしょうがねーし、はーちゃん帰ってきた時にお前がアイツに返しといてくれ。
本当に使うなら、返信ねーかもしんねえけどアイツに連絡しとけよ」
「……ありがとう!」
そのあとダメもとで父親に連絡をいれると、都合よく電波の入るところにいたのかすぐに了承のメールが届いた。
翌日葵は学校の帰りに真っ先に本屋へ寄って、カメラの指南書を買うと気がつけば、暇さえあればその本を読むようになっていた。
***
数日後
校外学習の行き先が一年生全員にHRで伝えられた。
沖縄か長崎でのスキー学習どちらにするかが職員会議で話し合われ、後者に決まったそうだ。
出来ることなら行きたくない。
スキーの経験がないわけではないが、スノーボードならまだしもスキーはそんなに好きじゃないのだ。
「雅やん、俺今度の校外学習行かねーから」
「は…なんで?
クラスのやつらと親睦深めるには持ってこいじゃねーか。大人と危ない火遊びするより、同年代と遊んだほうがよっぽど楽しいと思うぞ?」
「……好きに滑れるわけじゃないし、やるならスノボのがいい」
「ほんと……お前…ひん曲がってるよな、その性格」
「そりゃどうも」
「褒めてねえよ」
それから店も珍しく暇だったのでどうでもいい雑談をしていると、お客がやってきた。
雅やんに釣られるようにして顔を向けるとそこには巽がいた。
「巽さん!」
「やあ。お店で会うのは久しぶりだね」
巽とは外で会うことのほうが最近は多いから、店に来るというのは珍しかった。
「話の邪魔をしてしまったかな?」
葵と雅やんに遠慮したのか巽は少し離れたカウンター席に座る。
「そんなことないって。隣座ってもいい?」
返事も聞かずに彼の隣に座る。
「……随分と楽しそうに会話をしていたけれど、何の話をしてたのか聞いてもいいかな?」
「ああ……今度こいつの学校が校外学習で2拍3日のスキー体験に行くらしんですけど、行きたくないって駄々こねてて……」
「別に駄々はこねてねーよ。強制されるのが嫌なだけで」
葵は少しむくれてみせる。
「大体来年はクラス替えあるってーのに、親睦もなにもあったもんじゃないと思うんだよね」
「ははっ…。
君の意見はいつも大人顔負けに手厳しいな。
じゃあ、その校外学習にもう一つ意味を加えてみたらいいんじゃないかな」
「意味……?」
「そう。
君は今写真を撮ることに熱中しているんだろう?
雪景色なんて都内じゃそうそう拝めないと思うけど」
「…っあ!」
確かに巽のいう通りだ。街中に撮るものが溢れているから、そこまで気が回らなかった。




