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第九話 中学篇〜学校行事 体育祭 2〜

葵が出るのはクラスリレーと綱引きと騎馬戦だ。


他にも、色別対抗リレーやらなんやらに出て欲しいと言われたが、全部断った。

もともと団体戦はあまり好きではない。


同年代の子たちと比べて、自分が少々ひねくれていることは自覚している。


「けど、帰りたいもんは帰りたい」


クラスリレーのバトンを待ちながら、思わず口に出る。

葵の願い虚しく体育祭は始まったばかり。


そして、葵のやる気のなさと反比例して任されるのはアンカーやなんかの重役。


「責任重大じゃねーか…」


現在の順位は4位くらい。

すぐとなりで1位のクラスのアンカーバトンが繋がれる。続いて2位3位と続き、数秒差で葵の手にバトンが渡る。


アンカーより前の選手は校庭半周の距離だが、アンカーだけ校庭一周走らなければならない。


1位の子は半周走り終えたころだ。

やらないときはとことんやらない。やるときはなにがなんでもやる。それが葵のモットーだ。


最近走ってはいなかったが、小学生の時から父親の秘境の旅に休暇中付き合わされていた足腰を舐めてもらっては困る。筋肉痛の残る足に鞭打って地を蹴る。


普段真面目に取組むことの少ない葵だが、本番にはとことん強い。


ぎりぎりで首位に躍り出て、そのままゴールする。

このリレーが終わったらしばらく出番はない。急に走ったから足が痙攣している。放っておけば治るのだが、炎天下が嫌で屋根の下にある救護所で足を冷やすふりしてしばらく居座る。


昼時の休憩まで休ませてもらえないかと思ったら、早々に席に戻されてしまう。


再び炎天下の応援席。

今競技をしているのは二年生だ。借り物競争のようなもの。応援席の前では残った一年生と三年生の応援団が、同じく残った生徒とともに声を張り上げている。


こういった一致団結スタイルは、日本に来て初めて知ったわけだが見てる分には清々しい。


ただ席に座っていると、『お前も応援しろ』と言われるのは目に見えているので、監視の目が届かず、ある程度競技も見える木陰に身を隠す。


プログラムを確認すると、茜たちのダンスは昼休憩を挟んだ一発目だ。

そして午後に綱引きと騎馬戦がある。

午前の競技が吹奏楽部の華やかな演奏で終わり、ようやくお昼。


雅やんの姿を探すと、すでに場所取りがしてあって、ビールが何缶か空いていた。そして隣には知らない男。


「おーう、葵ーこっちだ」


すでに酔っ払いの臭いがする。


「昼間っから酒飲むなよ…。

ていうか、こっちの人誰?雅やんの連れ?」


「そこまで酔ってねーよ。

こいつはオレと同業者。この量の弁当二人で食い切れるかも微妙だしな、暇だっつーから連れてきた」


要は巻き添え食らったのか、この人。


雅やんが連れてきた男は、修斗といって雅やんと同じくバーの経営者らしい。

デキてるのかと聞いたら、修斗の方が顔を赤くしたからビンゴなのだろう。


それから三人でノブママの弁当をなんとか完食する。


雅やんは朝、昼時に来ると言っていたくせに、俺の出る競技を全部見ていたという。


「青春じゃねーか、いいねぇ」


「僕も一緒に見させてもらったけど、葵君すごかったね。思わず君が一位になった時ガッツポーズしちゃったよ」


「あ、ありがとうございます」


修斗は所謂『癒し系』な感じで、満面の笑みで褒められるとどう反応していいか分からなくなってしまう。


笑顔が眩しいのだ。すごく。

葵の父親の笑顔も、ものすごく眩しくて、喜ぶポイントが子供とそう変わらないというか。ふとそんなことを思い出す。


一頻り雑談して、茜の姿を探す。


「あ、ちょっと待って今行く!」


茜の姿を見付けたと同時に、向こうもこちらに気付いたらしい。弁当の残りをかき込んで、親になにか話してこちらに向かってくる。


「ゆっくりでよかったのに」


「だって、朝もほとんど話せなかったしさー。あ、あたしこの後のダンスちょうどうちらの応援席側しかも最初、席の真ん前で踊るからちゃんと見ててね!」


「おっけー。ばっちり見とく」


そうこうしてる間に、女子はダンスのスタンバイをする時間になる。


「やっばー…もう行かなくちゃ!」


慌ただしく茜はかけて行ってしまう。

休憩の始まりと同じく、吹奏楽部の演奏が午後の部の開始を告げる。

炎天下の中に戻るのは嫌だったが、茜にダンスを見ると約束した以上、見ないわけにもいかない。


隣に座っていた同級生曰く、教師の決めた課題曲にみんなで振りをつけた創作ダンスらしい。スローテンポな動きからアップテンポへ、そしてアクロバティックまである。


先程茜が言っていた方向に目を向けると、確かに彼女がいた。満面の笑みで、堂々と踊っている。

全力で取り組んでいる姿は美しいと思う。自分にはないものだ。


ダンスを終えた茜が戻ってくる。

入れ違いで、葵たちのスタンバイが始まった。茜とすれ違い様に、彼女の頭を撫でてやる。


「おつかれさん」


程なくして始まった綱引きも終わり、ようやく騎馬戦。

175cm近くある葵は必然的に騎馬の先頭になる。敵陣に突っ込む一番槍など、一番やりたくないのだ。

周りに少々気圧されながら、なんとか生き延びる。出来ることなら、次はやりたくない。


閉会式が終わる前に帰りたかったが、理由付けて帰れるような雰囲気でもなく、そのまま最後までいることにする。

全日程が終わり、ようやく解放された。


こういう学校行事はどうしてこんなにも疲れるのだろうか。

決して楽しくないわけでも、達成感がないわけではないのだけれど終わった後、緊張感が切れた時の脱力感がとてつもない。

感無量とかそういうことではなくて、ただただ疲れる。


これが漫画やアニメの世界ならば、友情度やら好感度アップのイベントなのだろうが、現実問題そんなフラグは求めていないのだ。


茜は、親が待っているというので今日は一緒に帰っていない。葵も一回帰っていた雅やんを呼び出して、車で家まで帰る。


『中学生のうちから年食ってんなー、お前』


と鼻で笑われたが、色々気を遣うのだと反論しておく。


来月には合唱コンクール、その翌週にはボランティアの保護者たちがメインで行われる、文化祭のようなものがあるらしい。後者は自由参加だというので、当然不参加だとして問題はそのあとである。


まだまだ続く怒涛の学校行事ラッシュ



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