あの作家の発言
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以下個人名等は一切出さずにエッセーにて書き綴る。つい最近、芥川賞を受賞した男性作家が会見場で言った「もらっといてやる」について、である。本人は過去に数回落とされているので、悔し紛れで出た発言なのだろうが、どうにもあれはいただけない。普通あんな発言したら、賞自体の受賞取り消しと、文壇からの永久追放が待っているというのに……。
逆手に取ったのかもしれない。インパクトを与えるために、である。一生に一度しかない晴れの芥川賞の受賞記者会見場であんな発言した作家いなかったというように。同じ時に芥川賞獲った作家が全然売れないのに比べて、あの問題発言作家の本は面白いように売れている。
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高校卒業後、定職どころかアルバイト経験も一度たりともなく、ずっと読書や書き物をしていたらしい人。いかにも小説家らしい。小説などを書く人間たちは大抵、社会経験が乏しい人が多い。全部とは言わないが、あまり社会と接点がないから、書ける物もあるのだ。それが小説やエッセーなどを書き綴る文筆業の人間の実態である。
あの方は一方では相当わがままだと思う。適切かどうかは分からないが、会見を見ている限り、どうにも常識的な発言が出来ないようだ。突飛なことを言う意味では芸人に近い。まあ、別にあの方は某公募新人賞をお獲りになってからずっと作家で来たのだし、対人関係が苦手なようで、到底芸人にはなれないのだが……。
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賛否両論あるようだ。「まさに小説家らしい」という人もいれば「俺様主義で嫌い」と言う風に、である。だが、あの方の世代が世の中で一番不況などを体験していて、ろくに就職も出来ないというような社会情勢を経てきている。実際、大学受験に失敗したと聞いているし、未だにずっと手書き原稿だ。
簡単に言えば、世間でうそぶかれるところの負け組が、一気に勝ち組とやらに上り詰めたということなんじゃないかな?こういった言い方をすると失礼かもしれないが、あの方にモノを書く以外の才能はまるでない。だから愚直にやってきたんだろうと思う。それは悪いことじゃないと感じられる。
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作家など賞を獲っても売れない人の方が多いんだから、あの方はあの会見場で自作の売り込みをやったんだろう。まあ、そういった宣伝行為は勝手なんだが、あの会見がなかったら、間違いなく埋没していた物書きだ。選考委員に楯突いたというのは、あまり聞いたことがないし、あの「もらっといてやる」とかいう発言自体、とんでもなく突飛過ぎる。前述したように下手すると、受賞取り消しだけでなく、文壇からも追放されかねないからだ。そういった負の要件を補って余りある発言だった。
過去にも芥川・直木両賞の候補者で落選した後、飲み屋でヤケ酒などを飲みながら、選考委員の悪口を散々言ってやったとか、そういった話は聞いたことがある。だが、獲れてから会見場で言ったというのは一度たりとも聞いたことがない。つまりあの方はどこまで行っても突飛なのである。受賞するまでに、よほど葛藤などがあったのかもしれないが……。
ひとまず、異色とも言えるあの芥川賞作家の受賞記者会見のことに関し、一筆書かせていただきました。あまり主張はまとまりませんでしたが、ご一読いただければ幸甚です。
ではまた。
(了)