二
セルカとエリセとリネア。シエロがその三人以外と接触を断って、二年が経った。
祝福の際に宣言された十七まで、あと半年ほど。この調子ならば、あっという間に過ぎるだろう。
その日も、シエロは隠し通路を探検していた。王城内の決まった場所にさえ出られなくなり、他にすることがないからだ。
王城の西には、昼でも薄暗い森が広がっている。話に聞く限りでは、王城の敷地と変わらない広さがあるらしい。
隠し通路には、森に直接出る道もある。シエロは好んで、そこを通って森に出て行く。
森だけが、シエロがシエロらしくいられる場所だ。だから、王城脇の森まで遊び場にしていることは、セルカたちにも秘密にしている。
(……何かしら?)
隠し通路から抜け出したシエロは、城壁の向こう側が騒がしいことに気づく。振り返って少し歩くと、城壁が壊れている箇所を見つけた。恐らく、森へしか出られないから、補修工事が後回しにされているのだろう。
これ幸いと、シエロは少し腰を落として聞き耳を立てる。
「食材は全部厨房だ。ぶどう酒樽は、二十が広間の控えに、残りはその隣の部屋に置いてくれ。ああ、それは衣裳部屋だ」
誰かが指示を出し、人が動く気配が伝わってきた。
(ぶどう酒樽を、二十も控え室に?)
相当大がかりな宴が行われることだけは、シエロにもわかる。だが、その名目がわからない。
考えれば考えるほど、苦く不快なものがじわじわと湧き上がってくる。
嫌な予感。それが外れてくれればいいと、シエロはひたすらに願い続けた。
†
完全に外界との接触を断っていたことを、これほど後悔したことはない。
森で遊ぶのをやめ、隠し通路から厨房などを回った結果。
「私は、本当に死んだものと思われているのね」
無意識に、心の声が外にこぼれていた。
部屋に閉じこもり、家族にさえ姿を見せなくなってもう二年だ。セルカたちも、外の情報を持ち込まなくなった。
死者として扱われるのも、仕方がない。
ため息をつき、沈んだのは瞬き数回の間だけ。
(確か、祝福は謁見室で行われるはずよ)
王女は外に出て行く者。最期まで幸せでいられるように、たくさんの祝福を与える。
王子は国に残る者。次の王には賢王の資質を、他の王子には補佐の腕を。最も力のある魔女が代表で祝福する決まりだ。
呼ばれた魔女の数で、男女がわかる。
(こっそり聞いてしまいましょう)
自然と、シエロの足は謁見室につながる通路を選んでいた。
隠し通路をふさぐ小さなドアを、ほんの少しだけ開ける。燭台が頼りだったシエロは、謁見室から入る光の眩しさで目を細めた。
「魔女たちよ、我が娘アルディリアに祝福を与えてくれ!」
ルスの声がする。
どうやら、これから始まるところらしい。運のよさに、シエロの頬は緩む。
「……ルス王子。大変申し上げにくいのですが、我々は、こちらの赤子に祝福を与えることはできかねます」
しゃがれた魔女の声が告げた内容に、シエロも息を呑んだ。
室内では、痛ましいほどの沈黙が流れている。ピリピリした空気が肌を刺す。
「……それは、どういうことだ?」
いつまでも続きそうな静寂を、かすれたルスの声が打ち破った。
『申し訳ありませんでした。今の発言は間違いです』
震える彼の声音は、そう訂正されるのを望んでいるようだ。
無理もない、とシエロは思う。今まで、王子であろうと、祝福を拒まれたことなどないのだから。
一人の魔女から、呪いの祝福を受けた。そんなシエロでさえ、他の魔女にはまともな祝福と、呪いを弱める祝福を与えられている。
「我々魔女が祝福を与えるのは、当代の王のご息女およびご子息、次代を担う第一王子のご息女およびご子息のみであることは、当然ご存じですね? 我々が魔女と呼ばれる理由の一つに、王の血脈を肌で感じられることが挙げられます。ところが、こちらの赤子からは、ルス王子から放たれる王の血の気配がありません」
淡々と告げられる言葉が、空気を重く、張り詰めさせていく。
しんとした中で、空気が動いた。ドアに近かった魔女が一礼し、ドアを開けて部屋を出て行く。彼女にならい、次々に魔女たちが退室していった。
(こういう時は、どうなるのかしら?)
首を傾げながら、シエロは最後の魔女が辞するまで息を殺して待つ。
ルスが出す結論を、聞いてみたかった。
水を打ったように静まる部屋に、ドアが閉まる音がやけに大きく響く。驚いて、シエロは燭台を取り落としかけた。
息を殺し、短いようで長い時間を待ち続ける。
「……祝福の与えられなかった王女は、人前に出せない。シエロより質が悪いよ。存在そのものを、なかったことにするしかないんだから」
「い、嫌よ……どうして……」
「それだけ、魔女の祝福は重い。たった一人に呪われたばかりに、シエロは王城でも顔を知らない者ばかりだ。呪われるどころか、誰にも祝福されなかった王女など……わざわざ国内外に恥をさらすつもりか!」
高ぶった感情のままに投げつけられたルスの言葉。それを受けて泣き崩れるノルテの嗚咽が、漏れ聞こえてきた。
(それにしても、ルスお兄様の子は、どうして祝福を与えられなかったのかしら?)
反対に首を傾けて、シエロはそっとその場を離れる。
ぼんやりと隠し通路を歩き、いつの間にか食料庫の近くに出ていた。
(まだみんな、知らないと思うし……今日は、ここから森へは行けないわ)
食料庫を出ると、街へ続く通用門が目の前だ。右へ行けば街、左は森へ続いている。
仕方ない。森へ直接出られる道へ行こう。
踵を返していくらか歩いたシエロは、向かう方向に人の気配を感じて足を止める。
(こんな日に、誰か入っているの?)
確かに、隠し通路は万一の際の避難路だ。だが、新しい王女が祝福を受ける日に、わざわざ確認をする必要はない。
この二年は特に、シエロの唯一の遊び場となっているため、誰も足を踏み入れていないはずだ。
遭遇しないよう引き返すか。それとも、別の道を選ぶか。
逡巡していると、独り言らしい呟きが聞こえてきた。
「……だよ、ここ」
王族と、側仕えの者しか知らない通路で聞き覚えのない声。知っている者でも、入らないだろう時。どう考えてもあり得ない。
「誰?」
「うひゃっ!」
上がった悲鳴に、驚いたシエロは息を呑んだ。
意を決し、少しずつ、声が聞こえた方へ移動する。
「……あなたは、誰?」
明かりを向けると、半泣きの少年がいた。
服装から推測できるのは、近隣の街で暮らしているらしいこと。粗末な格好ではないから、平均以上の家庭だろう。燭台に照らされる髪と瞳は、赤茶に見える。年頃はシエロより二、三歳年上か。どことなく愛嬌があり、警戒心を削がれてしまった。
「やっと人がいた! 俺、助かったの?」
「助かったのかしらね。それより、どうやって迷い込んだの? ここは、王城の隠し通路よ。外からは簡単にわからないように、しっかりと隠してあるのに」
「森で遊んでたんだけど、石碑に変な継ぎ目が見えたんだ。それを触ってたらいきなり開いてさ。面白そうって入ってみたら、こんな迷路だし……」
シエロは慣れているし、すべての道を暗記しているから迷うことはない。外からも隠し通路を開けられる。しかし、毎日見ているセルカたちでも、隠し通路の場所を正しく当てられない。薄暗い森の中など、まず無理だ。
きちんと締め切っていなかったとしても、その継ぎ目がわかるなんて。
「あなた、ずいぶんと目がいいのね」
純粋に感心した後、怖くなる。
もし、彼のような人間がたくさんいたら。
「そこの森はよく遊んでるからかな? そりゃ、外に比べたら暗いけど、木の根に引っかかって転んだことなんてないし」
「あら、素敵ね。私もたまに、森へ出るのよ」
「……君が?」
少年の視線が、シエロの頭からつま先を往復する。
繊細な編みのレースがたっぷりついた、全体的にふわふわしているドレス。手入れが行き届いた、緩やかにうねる艶やかな髪。長い睫毛が彩る、大きな瞳が瞬きを繰り返す。笑みを形作る唇も頬も、ふっくらしている。
毎日ならば気にならないけれど、久しぶりに入るとかび臭さを感じる隠し通路。昼でも薄暗く、人ではない者が潜んでいそうな森。どちらにも不似合いの格好だ。
「ここは私の遊び場なの。もちろん、森もね」
呆気に取られた表情で見つめてくる少年に、シエロは微笑みかける。
(変わった人ね)
森を遊び場にしていることも不思議だ。しかも、シエロ自身が何者かを、気にしている様子はまったくない。
「じゃあさ、君には、森に出る道がわかる?」
「もちろんよ。今、向かっているところだもの」
雲に遮られていた太陽が顔を出したように、少年の表情はパッと明るくなった。
あまりにわかりやすく変化したため、シエロは小さく噴き出す。
「森へ行くなら案内するわ」
歩き出したシエロの後ろを、少年は黙ってついていく。余計な質問は一切してこない。
少年と出会った場所から二つ目の分かれ道を右へ行き、すぐに左へ曲がる。次の分かれ道は真っ直ぐ。その次を右に曲がって、後は道なりだ。
きちんと閉めるにはコツがいるためか。ドアが完全に閉まっていないらしく、目的の場所からかすかな明かりが差し込んでいた。
「ここから森へ出られるのよ」
窪みに指をかけ、グッと開く。
なるべく体を壁にくっつけ、シエロは少年に道を譲る。ドレスの裾を踏まないよう、少年は慎重にシエロを追い越した。
外に出た少年が、もう一度中を覗き込む。
「ありがとう、助かったよ」
「お礼はいらないわ。迷子を保護しただけだもの」
隠し通路で迷い、餓死されてはたまらない。それを発見するとしたら、毎日遊び場にしているシエロなのだ。
「ねえ、また来てもいい?」
「私はかまわないけれど、ここに入り込んだら迷うわ。また私が気づくとは限らないのよ?」
「じゃあ、迎えに来てよ。それで、森で遊ぼう!」
思ってもいなかった言葉に、シエロは瞬きさえ忘れてしまう。
関わってはいけないと、頭ではわかっている。けれど、彼の誘いは魅力的だ。
「……昼食が終わったら、ここへ来るわ。もし、昼の二刻を知らせる鐘が鳴っても私が来なければ、その日は遊べない。それでいいかしら?」
「ん、わかった」
迷い悩んだ末、来ることを選んでしまった。
セルカはもちろん、エリセもリネアもシエロより年上だ。そして、彼女たちはあくまで使用人。シエロと遊ぶ、という概念はない。
たまに遊び相手をしてくれた兄たちとも離れ、二年。飽きてしまうほど、一人で遊んできたのだ。わずかな間だけでも、誰かと遊ぶ楽しさを味わいたい。
「あ、俺はカイダ。君は?」
「私はシエロよ」
「シエロって、可愛い名前だね。君にピッタリだ」
無邪気に微笑むカイダに、頬がひと息に熱くなる。
彼を見つめていられなくて。シエロはそっと、ほんの少しだけ視線を逸らした。
「じゃあ、明日ね!」
手を振って駆けていくカイダの背中を見送る。熱を持った頬と、やけに速い鼓動。それらを落ち着けようと、シエロは何度も深呼吸を繰り返した。
夕暮れ前にシエロは部屋に戻ったが、謁見室で聞いた話は誰にも伝えずにいる。
あの場の空気は、他言無用と言っていた。魔女が告げた言葉の意味も、よくわからないままだ。だからシエロは、公になるまで話すつもりはない。
(ルスお兄様の子は、どうなってしまうのかしら?)
生きながら、存在そのものを否定されること。祝福を与えられなかった姪の行く末が、身につまされた。
†
長兄のことが気にならないと言えば嘘になる。だが、積極的に知りたいとも思わない。
連日、シエロは昼食後に隠し通路へ通った。毎日カイダが迷い込んだ場所まで迎えに行き、隠し通路か森へ出て遊ぶ。
兄のことを調べるより、カイダと遊ぶ方が何倍も楽しいからだ。
(名前は、案外気がつかないものなのかしら? それとも、『呪われた王女』で話が通じるから、私の名は忘れられているのかしら?)
カイダは何度もシエロの名を呼んでいる。けれど、シエロの名が第二王女と同じであることに、一向に気づかないらしい。
それが寂しくもあるが、仕方がないと諦めてしまえる部分もある。
「ねえ、シエロ。今日はここ? それとも森?」
「出られそうなら、森へ行きたいわ」
「ん、わかった」
あまり遠くへ行けなかったシエロからすると、カイダは森に詳しい。
カイダにとっての森は、シエロにとっての隠し通路と同じもの。そうと知ってから、シエロはなるべく森へ出るようにしている。
はしゃいで案内をしてくれるカイダを、見ているだけで心が弾む。嬉しくなって、自然と頬が緩んでしまう。
通路から外へ出たシエロは、人の声に気を引かれて、壊れた城壁から中を窺う。忙しい空気と、頻繁に行き交う人々が見えた。
「……今日は、やけに人通りが多いのね」
「ホントだ……どうしたんだろ?」
謁見室の立ち聞きから半月ほど経つ。
王城の出来事に関心のないシエロに、セルカたちも無理に聞かせようとはしない。だから、何かあるとしても、シエロには想像もつかなかった。
遠目に、大量の木箱や樽を乗せた荷車が過ぎていく。
次代の王女の祝福はなかったことにされたはずだ。
「今日は、何があるのかしらね」
「じゃあさ、何をするのか調べてみようよ。お城でお祭りがあるんだったら、ちょっと見てみたいしさ」
「え? 私は……」
もしも祭りが行われるならば、カイダと二人、楽しみたい気持ちはある。だが、このままの格好では、人前に出られない。出るわけにはいかない。
「お祭りじゃなくても、こんだけ人が出入りするって何かあるでしょ? シエロは、気にならないの?」
すべてに対して無関心でいた間に、いったい何が起きたのか。
気になるに決まっている。
「……知りたいわ」
久しぶりの感情だ。
自分のことで手一杯だった。家族を思い出すことはおろか、セルカたちへの関心も薄れてしまっていた。
せめて、セルカたちとは昔のままでいたら。
今日の騒がしさも、理由がすぐにわかったはずだ。
「だったら、話が聞けそうなとこで聞こうよ」
カイダは、どうしてこんなに積極的なのだろう。何か、狙いがあるのか。
つい疑ってしまい、そんな自分自身に嫌気が差す。
「きっとすぐにわかると思うけど……シエロは、嫌?」
「嫌じゃ、ないわ」
知りたいのは事実だ。だが、それよりも、カイダに顔を覗き込まれ問いかけられると、否定の意思を表せない。拒否を示したら、恐らく悲しげな表情で諦めるだろう。
そんな彼を、見たくなかった。
「情報を集めるには、厨房。もしくは、催しものが行われる場所よ」
料理を振る舞う準備のため、厨房には知らされている。そして、何か行われるならば、城の中で大勢を収容できる広間。
そのどちらかに行けば、よほどのことがない限り、目的の情報は手に入るだろう。
「まずは厨房へ行ってみましょう」
ドアをきっちり閉め、踵を返したシエロの後ろをカイダがついてくる。隠し通路では当たり前になった光景だ。逆に森の中は、シエロがカイダの後を追う。
目的のドアをほんの少し開け、二人は聞き耳を立てる。
「おい、まだ切り終わらないのか!」
「誰でもいい、ぶどう酒樽の数を数えてくれ! 二十は広間の控え室、十は控え室脇の廊下の隅、残りの十五は外の廊下に持っていってくれ!」
「豆のスープ完成しました! 野菜のスープ作ります!」
「パン焼けました!」
怒鳴るような声が飛び交い、人の動きが慌ただしい。
シエロはそっとドアを閉める。
「もういいの?」
「ええ、ここは十分よ。予備を含めてぶどう酒樽を四十五も用意するだなんて、招待客の数も相当のはず。広間に行けばもっと簡単に詳しくわかるわ」
用のない場所で長居をする必要はない。
あっさり決断を下したシエロは、さっさと歩き出した。置いて行かれそうになり、カイダが慌てて追う。
「シエロってすごいね」
唐突に呟かれたカイダの言葉に、シエロは首を傾げる。目をキラキラ輝かせながら言われた理由が、これっぽっちも想像できなかったからだ。
「あれだけでわかるなんて、シエロってお姫様みたいだね」
笑顔のカイダに言い放たれた。彼を見つめる顔は、かなり間抜けだったに違いない。
王城の隠し通路で会うシエロが、ただの侍女だとでも思っていたのか。それとも、城に出入りする貴族の娘と思われていたのか。
どちらにしても、あり得ない。
「……カイダ、前から気になっていたのだけれど。あなた、私の名前を聞いて何も思わなかったの?」
「え? 君によく似合う、可愛い名前だって思ってたけど」
「そうじゃなくて!」
声を荒げておいて、自分の通り名を音にするのは躊躇した。
本気でわかっていないカイダに、察して欲しくて苛立ってしまう。
「カイダは、『呪われた王女』の話、知ってるでしょ?」
「知ってるけど……あ」
瞬きした間に表情を大きく変えられた。その事実で、心臓が握りつぶされそうに痛い。息をするのも、しないのも、同じくらい苦しい。
シエロの手が、胸元をギュッとつかむ。
真っ直ぐ立っているのか。まともに呼吸ができているのか。どんな顔をしているのか。その何もかもが、わからない。
カイダの目を見ていられなくて、自然と視線は足元へ向けられる。
「……私が、その王女なの」
言いたくなかった。知られたくなかった。
鼻の奥からツンとした痛みが襲い、目から勝手に涙がこぼれ落ちる。
「じゃあ、母さんが呪ったのが、シエロだったんだ……」
呆然と、うわごとのように呟かれたカイダの言葉に、シエロは我に返る。
この身に呪いを振りかけたのはカイダではない。
頭のどこかで、確かに囁く声はする。だが、感情はついていかない。
今まで感じたことのない、カイダに対する憤り。それは声にならず、そのまま射殺せる勢いでカイダを見つめる視線になった。
「シエロ……」
「……あなたの母親が、私の何もかもを奪ったのね」
今日、何が行われるのか。そんなことはもう、どうでもいい。
十七になる前に死ぬ。そうさせないよう、他人との接触は極力断たれてきた。シエロ自身も、他人と触れ合おうとしなかった。
それも、今日で終わりだ。
「……外まで送るわ。だけど、明日からはもう来ないで」
「シエロ……」
返事をせず、シエロは直接森の中へ出られる出入り口へ案内する。
名残惜しげに去っていくカイダを見送り、シエロは頬を濡らしたものを乱暴に拭った。
会えば憎む。でも、離れている時間が長くなるほど、顔を見て言葉を交わしたくなるだろう。心から温かくなれる笑顔を、何度でも見たくなるに決まっている。
生まれてからカイダと出会うまでの長い時間より。出会ってからのわずかな時間が、今のシエロには何より大切で愛しい。
これからきっと、魔女の呪いは成就するのだ。