真実
この間の投稿した短編『隣の佐藤さん』の続編となります。
ご覧になられる方は、前作を見てからにしてください。
前回も述べましたが、この小説に関する苦情等は受け付けておりません。
ご注意下さいませ。
応援してくれた方々に今一度感謝申し上げます。
――最近、僕の隣は寂しい。
そう感じるのは彼女がここのところ休んでいるせいか。
……はたまたそれは全く別のせいか。
12月4日:事件(5時限目)[保健室]
僕は片手で僕の手を握りながら器用にドアを閉める彼の姿に目を剥いた。
――彼は、もう僕の知る『斎藤』ではなくなっていた。
ただただ僕を映すその瞳に欲情に駆られた貪欲の色を滲ませているのは、もう――。
れろり。
斎藤の、男にしては小さな舌が切った指先から滴る雫を舐めとった。
――嬉しそうに、美味しそうに。
彼はまるで大好物のお菓子を頬張る子供みたいに指先を口に含んだ。
恍惚とした表情は見ているこちらが鳥肌が立つほど。
「……な、にするんだ!」
バッ!!
僕は思い切り僕の手を掴む彼の腕を振り切った。
すると一瞬彼は酷く傷ついた顔をし、それでもまた僕との距離を縮めるようににじり寄ってきた。
指先は吸われたせいか紫色へと変わり、ヒリヒリとした痛みを放っていた。
――おかしい。何かがおかしい。
その彼の姿に僕は恐怖を覚えた。
前は……あのことが起こる前までは、僕は彼とは例え僕が彼を利用していても友達と呼べるモノだった筈だ。
こんな……こんなことをする奴ではなかった。
――……僕が、彼をこんな風にしたのか……?
目の前にいる虚ろな瞳の男。
その整った顔立ちからは想像もできないような彼の笑みに身が凍る思いだった。
――……狂ってる。
そうさせたのは僕なのか。
形の良い口元が不気味に釣り上げられ、その端からは微かに僕の名を呼ぶ声がした。
僕の向けた憎悪に気付いているのかいないのか彼の表情はとても明るかった。
……まるで僕が向けた感情なら。『無関心』という感情以外だったら、受け入れてしまう程に。
「……斎藤」
狂気に向き合う緊張の為か、搾り出した僕の声は掠れていた。
「……お前は、佐藤さんが好きなんじゃ、なかったのか?」
すると僕の話を嬉々として聞いていた彼の表情が一変した。
不気味なほど弧を描いていた口元は下がり、目つきも驚く程冷たいものとなっていた。
その瞳の奥にある焔は一層激しく燃えていたが。
……嫉妬という、焔によって。
その彼の行動が今、僕の中で一つの可能性となった。
ずっと引っかかっていた。
そしてその『可能性』は彼の行動一つ一つへと繋がる、1パーセントを除く99パーセントの『可能性』だった。
何より信じたくない、最悪の筋書きが。
今、僕の中で。
繋がっていく。
「――斎藤、お前が好きなのは……僕だろう?」
静かに怒りに打ち震えていた彼の肩がビクッと震え、弾かれたように僕の顔を見た。
『どうして』その目はそう物語っていた。
何故? どうして? 知るか、そんなこと。
「……」
この沈黙を承認と受け取った僕は溜め息をついた。
めんどくさいな……それが彼の、彼が僕に寄せる気持ちに気付いた僕の感想だった。
彼は僕の好く人物ではないし、何より僕が好かれたいと願うのはこの世にただ一人だけ。
『彼女』だけだったからだ。
それ以外の好意には応えられないし、応える気は更々ない。
寧ろ、『迷惑』。この二文字でしかなかった。
「……斎藤、教えろ」
自分でも驚く程さっきより低い声が出た。
「……お前は、彼女に何をした? 彼女はどこにいる!!」
そう問いただした……直後だった。
「……!!」
口を塞がれた――と気付く前に僕の口腔はかき混ぜられていた。
『自分』の中で動き回る舌。
激しい動きについていくことも、抵抗することもできない。
それでもどうにか手をつっぱり、押しのけた。
グイっと口を拭う。
息が上がってしまい肩だけの呼吸を繰り返す。
「何するんだ」そう言おうとしたその時だった。
欲望の眼差しで僕を見つめる男は――彼はもう隠すことなく狂気を曝け出していた。
もう吹っ切れたのかもしれない。
ゆっくり、紡ぎ出すように彼は言った。
「――僕の前で、あの女のことを話すな!! 僕が目の前にいるのに、僕以外の人間を見るな!! 君が……君が悪いんだよ……あんな奴、死ねばいい……」
ゾクリとした。
手の先から感覚が消えていく気がした。
この小説は出来る限り続けるつもりです。
意味のわからない方、また説明を載せるつもりですのでそちらをご覧下さいませ。
応援してくださった方々、誠にありがとうございました。
心より御礼申し上げます。
美桜