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前夜 ボンソワール一世

‘不良少年みせかけの’主人公‘アキ’が、様々な出来事、時には理不尽もあるでしょう事柄に、なけなしの根性でぶつかっていくファンタジー兼それ以外。シリアス三割、こめでぃー三割、それ以外四割になる予定。ハチャメチャな世界をはちゃめちゃに生きる、そんな生き様を描いていきたいと……題目は追って物語に表していければ幸いです。大変読みにくい文章となっておりますが、どうか悪しからずご容赦の程を。

    

 ……ふん、ふん、フフン、ふーん、ふん……一階。

「ふん……」

 冷蔵庫。

 ガシャん。

 扉が開く。同時に、牛乳パック―――期限切れ間近―――が‘かたかた’……揺れる。音を立てる。正面から麦茶の恵み、淡い麦の色合いが……目に優しい。

「……ふんッ」

 右手にひんやりとした感覚、サランラップの中身を確認。大きなお皿だ。

「…………」

 気を取り直す。

「まぁ、こんなものかな……」

 何がこんなものかは分からない、けれど大きな皿に行儀よくちょこんと黄色いタクアン、数切れが乗っかる。

 冷蔵庫に首を突っ込む、上の仕切りには味噌、とろけるチーズ、缶ビール、ササミなど地処をわきまえればおおいに嬉しい、馴染みの面々が居座っている。

 下段を見れば、小奇麗な白い箱。見ると何やら伝令が……『ナツの!』とだけ記されている。

「……、わかりやした白ヤギさん……」

 とりあえず、元にあった場所へとそれを返す。ちょっとでも違うところにあると、後が大変面倒そうだ。黒ヤギさんだけは御勘弁。見なかったことに、別をさがす。

 結論。だめだ。大皿と、あと一つ、のみ。いかがわしいもの、……卵だ。横を向いたら思い出した。今朝、‘理子’もとい母さんなる人物から袖も濡れうる有り難い御言葉を賜ったことを。『―――あ、あとここに置いてある卵、ちょっと古いから生はダメよ。食べるときは、しっかり調理しちゃってね―――』。母の言葉は絶対の鉄則となる我が家、時には裸足で立ち向かうのも一興ではあるまいか……。拳を握り締める、片手に用意したご飯茶碗。煙りをあげて、たきつける―――さぁ、はやくしろ、さっさとおやりなさい。……。

 ―――御免ッ―――と……、‘それ’を真っ逆さまに叩き付けた。

 母がかれこれと言うように、確かにそれは妙であった。色が。白が普通ではある、だが奴は微妙に青かった。果てしなくびみょーに青かった。これは不躾な勘繰りであろうか、と己を戒めたりもしたのだが、やはり見なかったことにする。人生は長い。越えなくてはならない壁も一つや二つ必ずある。それが‘これ’だっただけのこと。噂に聞く‘よーど卵’の変種体かもしれない。仏もかくやという広々とした面持ちでことに臨んだ直後にして、疑心が再び心に芽吹いた。

 ……黄身か……?

 目がおかしくなったのか、はたまた元からおかしいのか……またもや微妙に、ただただ微妙すぎる具合に真ん丸い黄身が緑色に色づいている、ような気がする。黄黄黄キキ黄緑くらいに。錯覚か、錯覚なのかと首を傾ける。

「は……やってくれる……」、幻術とはな……とかたや思いながら、かたや笑みに口の端をつりあげながら、お箸の先端を鋭利に向ける。戦いの始まりだった。

 長い長い戦いの始まりであった。


 かきかき……まぜまぜ……。

「ほ……おお……?」

 なんともこまっしゃくれた卵である。生意気な……生なだけに。

「……く……ぬ……」

 混ざらん、まざらんぞ、マゼランさんお助け……などと頭の隅をよぎったりもするが、この卵、あまりにしつこい。しつこくも原型を留めている。原型どころか、形一つ失わずにいまだ真ん丸いそのお顔をテカテカと光に輝かせている。やけにもなるってもの……生への執着が完全無欠のうんたらフィールドを築きあげる。

「……フ……」

 お碗の内側は凄惨たる有様。いまや卵は白い粒粒、新潟コシヒカリ直送を脇に押しのけ、中央にどかっと鎮座している。お碗のお魚君も銀シャリの涙。こうも理不尽な出来事などきっと他にはあるまいて。


 負けられぬ戦い、‘つい’とは知らず決断を迫られた。禁じ手の決行。それも一つの決着の形。勝負の世界はなんとやら。恥を忍びて、言葉を飲み込み……碗を掴んで『よいしょ』……ゴクンと畢竟、終わりだった。



「あら、アキくん、お帰りなさい」

 ちょいと向こうまでお暇している間に、‘母’理子の姿が台所を占めている。なんとも忌々しいエプロン姿だ。白菜にいまかと刃を押し付けている。


「……そうそう‘あのお漬け物’美味しかったでしょ?」

 おつけもの……タクアンのことであろうか、大根でできた漬け物など皆タクアンに見える。でもどうやら違ったもよう。

「あれね、ご近所さんから戴いたものなの。自家製なんですって。ちゃんと味わって食べてくれた? アキくん、アキくんの噛まないですぐ飲み込む癖、はやく直しちゃった方がいいわよ。もちろん体にもね。それと……毛生え薬。まだあなたには、早いわ……」

『まだ あなたには ハヤイわ……』

「……!?」、バレている。育毛剤のことが。ボンソワール一世、秘伝の漬けダレで頭皮を潤す、通販一万‘ぽっきり’、頂戴したあの代物が。階段を駆け上がる。ドアを背に一息つく。

「まだ早いだと……」

 鏡を引き寄せる。白髪はくはつだ。白髪しらがが目立つ。全部。猛烈な勢いで白髪へと生え変わる中、胸中に押し寄せる不安と焦燥、焦がす胸の内を抑えることができなかった。不安が、重圧が、頭に、主に頭皮にのしかかる。このまま順当に‘こと’が運べば、五年以内に全てが摩滅する。廃人だ。頭が灰人である。どうしようもなかった、これしか……明らかに危ないテレフォンショッピングだったとしても、致し方なかった……。頭の上の神(髪)様に。一通りの懺悔を悔い申し上げた後、少年は椅子に腰かけた。ブービーの待つ罠に腰掛けた。………。


 ……ぶぴー……ぶぴー?……



     前夜 ボンソワール一世




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