ソルタノと光の妖精
連載中の白と黒のカプリオーラの世界に伝わる伝承です。この伝承のため、黒髪の少女セレナは国を追われることになりました。
これはセレスティンに伝わる古い昔話。
はるか遠い、遠い昔のこと。
アルテモンドと呼ばれた翠の美しい場所に、それはそれは神々しい四匹の守護龍が居りました。それぞれの龍は四方を守り、国は栄え、人々は穏やかに暮らしていました。
ある時、東の国のソルタノという黒髪の男が、西の国に住む美しい光の妖精の娘に恋をしました。ソルタノはその娘と父の妖精王に自分の力を示すべく、龍たちに魔術の力比べを持ちかけます。
悠久の時を生きる龍たちは、暇つぶしにはちょうど良い遊びだと、面白がってソルタノと力比べを始めました。龍たちは自分たちが守る人間に負けるなどとは、露ほども思っていなかったのです。
しかし、東の蒼龍、南の紅龍、西の白龍はソルタノに次々と負けてしまいます。ソルタノは、龍たちの弱点をよく知っていたのです。
残る北の最強と呼ばれる黒龍は、その威信をかけてソルタノと力比べを始めました。三方の龍をくだしたソルタノでも黒龍においそれとは勝てません。長い時をかけ、漸くソルタノが黒龍に勝った時、大地は穿たれ、山は崩れ、海は荒れ狂い、空には暗雲がたちこめていました。
かつてアルテモンドと呼ばれた美しい場所は、光の届かぬ、妖精も人も住めぬ闇の世界へと変貌していたのです。
そして――
ソルタノが慕う美しい光の妖精の娘も、己と黒龍の力比べに巻き込まれ、儚くなったと知った彼の後悔と嘆きは凄まじく、冷え切ったその心には一条の光も射さぬほど。
生きる意味をなくしたソルタノは、自分を呪い、世界を呪い、光の女神から見放された、凍てついた大地の闇の王と成り果てました。
漆黒の闇の中、妖精から厭われし黒き者と黒き獣たちは、永遠に彷徨い続けているのです。
口伝で伝わった昔話。
続く最後の言葉は、時とともに忘れ去られた。
――彼らを救えるものが、この地に再び現れるまで。
この世界で、この最後の言葉を知る者はいない。




